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【恋バナ】あっちゃん#6

あっちゃんと初めて出逢ったのは、2013年3月3日朝6時、大阪の心斎橋という繁華街だった。

私は馴染みのBARからの帰り道で、上機嫌で商店街を歩き、戎橋を渡って蟹道楽のある角を曲がるところだった。

イヤフォンで音楽を聴きながら歩いていて、ふと隣を見ると、何かすごいテンションで自分に話しかけている男の人がいてビックリして、思わずイヤフォンを外した。

あっちゃん「何聴いてるの?」

それがあっちゃんの第一声だった。

私は、やや不審そうに、

私「hideさんの限界破裂。」

と答えたが、あっちゃんは既にその答えを聴いていないかのように、いかにも楽しそうに喋り出した。

「オレはそこのラーメン屋から出てきたんだけど、会社に長くいると後輩ばかりになってさみしいんよね。
君、名前は?」

「まいこ。」

「まいこちゃんか、よくマイマイとか呼ばれるでしょう?
オレはあつし。みんなあっちゃんて呼ぶんだよね。
どちらもよくある名前だよね、オレはもっと個性的な名前が良かったなぁ。」

出会い頭にいきなり人の名前に文句をつけるだなんて、なんて失礼な人なのかしらと多少気分を害したが、それよりも私の目を引いたのは、あっちゃんの容姿だった。

シルバーのスーツに紺色のダッフルコート、先の尖った靴に薄い鞄。

それは典型的な『仕事の出来る男のスーツ』姿で、しかもあっちゃんは抜群にセンスが良かったのだ。

その朝は特別気分のいい朝で、同年代で同郷ということも分かって、あっちゃんと私はしばらく楽しく話をしながら歩いた。

(せっかく楽しく話しているし、ナンパじゃないといいけどなぁ…)
その通りは普段からナンパが多く、そういうことが嫌いだった私は、この少し風変わりでステキなスーツの人とは、なんだか一期一会の出逢いで終わりたかったのだ。

だから、やがて通りが終わって、別れ際に連絡先を訊かれたときは、やっぱり…と、かなり残念に思った。
私はそれまで、ナンパしてきた相手に自分の連絡先を教えたことは一度もなかった。

けれど、きっと私は、このとき既にあっちゃんに惹かれていたのだろう。
自分の連絡先は教えなかったけれど、あっちゃんからLINE IDをメモした紙をもらっておくという形で、縁を繋いだのだ。
そして、何日か迷った末に自分から連絡を取った。
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この出逢いのちょうど一か月後、私はあっちゃんの彼女になることになる。
それは、とても素敵な夜のお話。



















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