見出し画像

音楽と記憶③

書けば書くほど連鎖的に記憶がつながっていくのが音楽。いや、たぶんただ思い出話をしたいだけだわ。

Richard Clayderman " Ballade Pour Adeline "

小学校の給食の時間、曜日ごとに趣向の異なる音楽や先生のトークが流れていたが、木曜日は色白で黒縁メガネの左近先生の時事トークだった。時事トークと気づいたのは4年生くらいになってからで、それまでは「声のいい人がしゃべっている」程度だった。で、その左近先生の日のオープニングとエンディングがこれ。今でも近所の商店街や街で不意に流れてくるが、脳内は完全に給食時間になる。
授業中は前に向いている各々の机を6人分合わせて集合テーブルをつくり、ランチョンマット的な布を広げ、給食当番が給食室からお鍋やらを運んできたら順番に並んで取りに行く。1年生の時にはよく登場していた「鯨肉のノルウェー風」が、2年生以降「鮪肉のノルウェー風」になったり、後々時代を感じる給食事情だった。

Autumn Leaves

いろんな人の枯葉があるが、最初に認識したのはチェット・ベイカーとポール・デズモンドのこれ。
①の「皇帝」のくだりに出てきた先生にピアノを習っている頃、自分で作曲したものを演奏するコンテストにもよく出ていた。というか、出ろというお達しだった。小学生なんぞインプットしているメロディ量も少なく、どんなメロディやコード進行を発想しても何らかのオマージュという名のパクリになるのだが、そういうことをどんどんアウトプットできる機会で、適当にぴろぴろ弾きながらおっっこれは!と思う音を楽譜に落とすという行為が純粋に楽しかった。
ある年、たまたま母がかけていたこのレコードを聴き、クラシックとは全く異なるコード進行と音の繋がりに感銘を受け、コード進行はそのままに新たなメロディをのせて第1稿として先生へ持っていった。「枯葉聴いたんやね、いいやん」と先生は言ってくれて、いくらか手直しをしながらその年の作品に仕上げてくれた。

WANDS 「もっと強く抱きしめたなら」

ちょっと前に第5期、として復活していたけど、前世代を中学生で体験してしまった側としては、やはりそこなのだ。
今となっては原因も思い出せないことで喧嘩し、結局仲直りしないままの女友達と廊下ですれ違う時の気まずさ。学ランや半袖カッターシャツ(!)の下に色柄Tシャツをこぞって着る男子陣をこっそり観察し、センスを査定する女子陣。屋外スポーツ部活に好きな人がいる体育館部活のメンバーが綿密に計算する、グラウンド隣接廊下の通過タイミング。クラス替え発表の緊迫感。気になる人がいるクラスへ出かける時のもっともらしくもわざとらしい用事。中学生ってあおくて尊い。

山下洋輔、渡辺香津美 " Cleopatora's Dream "

元はバド・パウエルの曲だけど、最初は洋輔さんの作品だと思っていた。両親に連れられて(妹はいなかったけどどこに預けられてたんだろう)、小学生に上がったくらいで出かけた人生初ライブが洋輔さんだ。市民会館ぽいそこまで大きくない箱だったので、運指や洋輔さんから立ち上る熱量が目に見えてわかり、自分の習うクラシックピアノとは別の世界を見せてくれるこのお兄さんの虜となるのにそう時間はかからず、彼のライブに行ってからは、練習しなければいけない曲をそっちのけでCDを耳コピしながら弾いていた思い出。
大人になってからも、サントリーホールの前から3列目という位置で聴いたり、オペラシティで佐渡裕さんとの共演を聴いたり、朗らかさとポジティブな熱量をもらうならこのおじさんだなぁと思う。

ASKA「はじまりはいつも雨」

中学、大学と同じ学校で妹同士も同級生、実家も近所という友達がいる。大学入学後のある夜、寮の近くですれ違った原付がまた戻ってきてしばらく並走するという怖い体験をしたが、その原付に乗っていたのが彼だった。高校は別だったので進学した大学が一緒だとは知らず、犯人が友達だとわかった時に入れた私の蹴りはこれまでで最高峰だったと思う。
コンパの二次会だったり、友達の結婚式の三次会あたりでカラオケに流れると、彼は決まってこれを後半に歌った。中学の頃からチャゲアスの歌、というかASKAパートが超絶巧く、本人もそれを意識して(妹情報によるとたぶん練習もしている)年々巧さが増しているのは素直に感動する。
まだ大学生の頃、あるコンパで彼は本当に好きになりそうな女の子と出会い、何とか落としたいと願っていた。私は直接彼女を知らなかったものの、共通の友人がいたので、彼の友達数人と私たち3人で夏休みに何度か遠出をした。配車や徒歩移動の時のフォーメーションなどなど気を遣ったものの、結局彼の思いは途中で挫け、うまくいかなかった。その反省会というか、単なる自棄酒の徹夜カラオケで、もう夜も白んでこちらの意識が飛び飛びになる頃、この曲を泣きながら歌い上げた時の声は今でも忘れられない。本当に巧いのよ。

Bon Jovi " Bed of Roses "

高校1年?2年?どちらかの時に、Bon Joviの西宮公演のチケットが取れた。伊藤政則さんが担当する火曜夜のMUSIC GUMBOの先行予約に電話(!)をかけて取った、今はなき阪急西宮スタジアム(跡地は阪急西宮ガーデンズ)での公演だ。
中学の友達と2人で参加する予定だったが、高校でその話をすると実は他にもチケットを持っている人がいると教えてもらい、結果的にうちの高校からは私を入れて5人行くことがわかった。
公演は夕方からだったが、6限の授業まで出ていると微妙に間に合わない。その頃の私は、黙ってとか嘘をついてという概念が全くないピュアな魂を持っていたこともあり、他の友達がどうするかも確認せず、担任や授業を担当する先生へ、ライブのチケットが取れたからこの日は授業を休みたいと正直に伝えた。先生方も、正面きってこいつは何言ってんだと最初は思った(と大人になってからの同窓会で言われた)ものの、結果許してくれて、5限目が終わると5人で意気揚々と西宮へ向かったのである。この曲を聴くと、いつも校舎から校門へ向かうあの昼下がりの匂いと日差しと湿度を思い出す。

この記事が参加している募集

思い出の曲

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?