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ハキハキと話す戦略家な障害者

 2024年4月18日。出版社の方から電話があった。
以前、その会社にはうつ病闘病記の持ち込み応募をしていたのだが、全国流通で200万かかると言われ、あまりにも現実的ではない話だったのでお断りしていた。今度は別の部署の方からの「もっとお安くご提案できます」というお話だった。疑わしいことこの上ないが、とりあえず具体的なことはメールに、とお願いして電話を切った。しかし、その時も、そのあとも、ずっと何かが小骨のように引っかかっていた。
結局、帰宅し、ご飯を食べ、お風呂に入りやっとその正体に気づいた。その人の思い描いた「うつ病患者」像が私のそれと違いすぎていたのだ。

 電話の中で彼(50代くらいの男性)は、「こんな大変な思いをされて…」や「振り返って書くのはすごく辛かったですよね。」、「こんなにハキハキお話しできるまで回復できて良かったです!」と言ってきた。
寄り添ってくれたのだろうが、はっきり言って失礼でしかない。

 まず、私は別にうつ病を不幸だとは思っていない。今や10人に1人が生涯でうつ病にかかると言われているし、確かに無職になったのは経済的に痛かったが、慢性疾患と共に生きている20代は私以外にも五万といるはずだ。何も私だけが特別つらい思いをしているわけではない。
 また、闘病記を書くのは何も辛くなかった。当時のメモを振り返りながら、確かにこういう症状があったな、それと比較して今はずいぶんましになったな、という確認作業でしかなかった。むしろ自分の回復がわかって嬉しかった。

 うつ病は他の病気と何ら変わりない。うつ病は悲劇的な出来事があって発症するわけではない。(それで言うと少なくとも適応障害の方がつらい経験に該当するのでは。)
ただ普通に生活していて、風邪のように発症した。それだけだ。別に親と死に別れたとか、ひどい失恋をしたとか、大きな挫折経験をしたとか、マジで何もなかった。
だから、どうか精神疾患者を「つらい思いをした人」と決めつけないでほしい。(もちろん、中には悲しい思いを経験した人もいるだろうけど、全員じゃない)

 最後に、この「ハキハキ話させるまで回復した」という認識も間違いだ。うつ病であっても、初対面の人と話す時にはちゃんと応対しますよ。大人ですから。精神疾患者は気が狂っているわけではないので。
それと、これはうつ病あるあるだと思うけど、体調が悪くても普通なふりをできるくらいの演技力を手に入れてしまう。
一日の大半を寝たきり状態で過ごしていても、友達と会うときは綺麗な服を着て化粧して普通にごはんを食べたりできる。なんなら就活して内定ももらえちゃう。感情と行動は別なので。ということで、ハキハキ話している=回復ではない。

 でも、私はわかっている。私の話し方が異様なくらいにしっかりして見えることを。実年齢よりもだいぶ上に思われる話し方をしていることを。

 ゆっくりと滑舌良く、低い声で話す私。

 私はこういうところで初対面の相手を混乱させ、ビビらせるという処世術を持っている。私はうつ病で精神障害者で無職だけれど、堂々とした立ち振る舞いや話し方をしている。

 障害者にだっていろいろいるのだ。
 弱者だなんて思ってもらわなくて結構。

 私はハキハキと話す戦略家な障害者だ。

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