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『東京ゴッドファーザーズ』のはなし

なんて美しい物語なんだろうか。『雨月物語』という凄まじい映画を見た直後に観たが引けを取らない見ごたえ抜群の映画だ。

今敏監督の映画は、『パプリカ』『パーフェクトブルー』に続いて3作目となる。やはり思うのはシーンとシーンの繋ぎ方、切り替わり方のアイディアが変態的でそうなるか、そうくるか、次はなんだと前のめりに期待して画面を観てしまう。本当にありがたい。

クリスマスにホームレス3人が捨てられている赤ちゃんを見つけるところからスタートする。物語も点と点が徐々に繋がっていく爽快感がありつつも何よりも登場人物がが良い。

おそらく本作のテーマは家族、親子の繋がりであり生みの親、育ての親との関係性とその喪失と再生の話だ。そして登場人物はその点において問題を持った人たちだ。彼ら自体は赤の他人であるが赤ちゃんを通し家族のような信頼関係となっていく。それでも各々に血の繋がった家族と離れて生きている事情がある。その人たちは赤ちゃん清子のために頑張るのだから応援せざるを得ない。個性的過ぎるがみんないい人だからだ。

それぞれの家族関係の設定にはおそらく色々な意味合いがあってこういう関係性になっているのだろう。その一つ一つを自分なりに分析していくと非常に勉強になるのだろうなと思いつつもかなり難解そうなため踏み出せずにいる。

皆、大切な人を失ったり、離れてしまうことになったのだ。簡単に書くとゲンさんは妻、娘。ハナちゃんは両親と彼氏。ミユキは両親。物語が進む中で、ゲンさんは赤ちゃんの父親に自分を重ね、また娘に再会する。ハナちゃんは生みの親の顔は知らないがお母さんと呼べる人物がいる。ミユキは父に傷をおわせ家でをしたが父親との再会を果たす。3人とも清子がきっかけで家族関係が徐々に良い方向へ動き出す。素晴らしい物語だ。

きっと3人とも心の中で自分と同じような境遇にさせたくないと思い始めたのだろう。

聖夜の奇跡といえば聞こえはいいが、よくよく考えると奇跡らしい奇跡はほとんど起きておらず強いていうなら終盤の突風ぐらいか。それぞれに主張があり、それには信念が伴っていてゲンさんの3万円やハナちゃんの泣いた赤鬼の話など一つ一つのエピソードも強い。よく考えられているなと思う。

細かな描写も面白く、タクシーの再登場や墓場でのやりとり、探していた家にたどり着いた場面や、ゲンさんの自称の過去の設定や台詞回しなど粋な演出が嬉しい。

ミユキはそうでもないがほか二人は社会から煙たがられるマイノリティだ。ただミユキの過去もおそらく集団から少し離れた場所にいたような女の子だっとのではないか。そういうはみ出しものの人たちが損得勘定ではなく善意の感情で清子のためにほか二人のため行動する。心温まる。また一つクリスマスシーズンに観たい作品が増えた。

これは家族を失った人たちの再生、やり直し、リベンジの物語だと僕は思う。

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