Magricco

都内の出版社で働くアラサー会社員。読んだもの記録用(予定)。朝井リョウがいちばん好き。

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健康な個人(私とは何か「個人」から「分人」へ/平野啓一郎)

平野啓一郎氏が「分人」という新しい概念を元に、私とはどういう存在か?を論じる新書。 多くの人は、古くからの友人と話す時と、職場の同僚と話す時ではキャラクターが違う。同じように、家族や恋人やスーパーの店員など、日常的に多くの自分を使い分けていて、それらはすべて本当の自分である。 私たちに知り得るのは、相手の自分向けの分人だけである。それが現れる時、相手の他の分人は隠れてしまう。分割されてない、まったき個人が自分の前に姿を現すなどということは、不可能である。それを当然のことと

    • ドライでサイコパス(おいしいごはんが食べられますように/高瀬隼子)

      芥川賞受賞作。 タイトルからかもめ食堂的なほっこり系を想像していたら、いい意味で裏切られた。 主人公は、同じメーカーに勤務する3人のアラサー男女。 職場で器用に立ち回る男子・二谷とその彼女の芦川、そして芦川の後輩女子・押尾。 芦川は仕事ができず体力もなく、それをカバーするかのようにオフィスに手作りのお菓子を持参して振る舞う。 二谷は芦川と順調に交際を続けながら「いずれ結婚するかも」と本気で考えているが、ある一面では芦川を心底見下し、彼女から受け取ったお菓子を「残業の時に食

      • 固有名詞の鬱(この部屋から東京タワーは永遠に見えない/麻布競馬場)

        Twitterの人気者、麻布競馬場(@63cities)の小説をまとめた本。 いつしか彼の短編小説がバズっていて、センスのある文章を書く人だなぁと感心してからというもの、しばらくフォローして見ていた。 ほとんどTwitterやnoteにアップ済の作品ばかりで、「地方から東京に出てきて、早慶を出て就職し、ちょっと無理してタワマンに住み、だけど何者にもなれなかったアラサーの悲しき俺/私」みたいな鬱々とする物語がひたすら続く。 彼自身、おそらく西日本出身で慶應を出て、この作品

        • 実在(存在のすべてを/塩田武士)

          神奈川県で起きた二児同時誘拐事件。 警察の助けがあったにも関わらず身代金の受け渡しに失敗した方の4歳の子供・亮は、連れ去られたまま帰ってこなかった。 ところが3年後、亮は突然、祖父母の家に姿を現す。実の母からネグレクトされていた亮は、母親と暮らしていた時よりも明らかに大切に育てられたことが見て取れたが、彼自身も祖父母も、育ての親については一切口を開かなかった。 果たして育ての親はどこの誰なのか?なぜ3年後に祖父母の家に現れたのか? 事件から30年が経ち、当時事件を追っていた刑

        健康な個人(私とは何か「個人」から「分人」へ/平野啓一郎)

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          163本

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          生産性の罠(限りある時間の使い方/オリバー・バークマン)

          人生は4000週間しかない。効率化ツールや時短家電で生産性を上げれば幸福度は上がるかというと、そうではない。生産性は罠であるー たまたま立て続けに読んだ『DIE WITH ZERO』に通じる内容も多かったが、こちらも名著だった。読んでよかった…。 お金と時間は常にトレードオフの関係にあるが、『DIE WITH ZERO』がお金に焦点をあてた作品なら、こちらは時間に焦点をあてた作品の印象。時間とは私たちそのもの、という一文は、児童文学『モモ』を彷彿とさせた。 1.生産性の

          生産性の罠(限りある時間の使い方/オリバー・バークマン)

          記憶の配当(DIE WITH ZERO/ビル・パーキンス)

          人生でいちばん大切なのは、思い出をつくることだ。 だから自分が何をすれば幸せになるかを知り、その経験に惜しまずお金を使おう。また、人生の充実度を高めるのは、”そのときどきに相応しい経験”である。限りある時間とお金をいつ、何に使うかを正しく判断したうえで、DIE WITH ZERO=死ぬときにちょうどお金を使い果たすことを目指そう。 という趣旨の本。 有り金を使いまくれ!ということではなく、アリとキリギリスでいう、アリの生き方の価値観が持ち上げられすぎている現状に警鐘を鳴らし

          記憶の配当(DIE WITH ZERO/ビル・パーキンス)

          自己愛の描写(ぼくにはこれしかなかった。/早坂大輔)

          高卒で就職、営業マンとして朝から夜中まで死に物狂いで働き続け、会社でそれなりの地位を得たものの鬱になりかけ、40歳を過ぎて脱サラ。本当にやりたいことは何かと自問自答した結果、昔から好きだった本を広めることを仕事にしようと、盛岡で「BOOK NERD」という書店を立ち上げた著者の半自伝的な作品。 あ、村上春樹好きなんすね…と思わざるを得ない文体と、一人称「ぼく」、エッセイなのに「きみたちは〜だろうか?」という「きみたち」への問いかけ連発、終始漂う自己陶酔感にちょっと辟易してし

          自己愛の描写(ぼくにはこれしかなかった。/早坂大輔)

          信じる(星の子/今村夏子)

          ※ネタバレあり※ 宗教2世の子どもを描いた小説。芦田愛菜主演の同タイトル映画を先に観て、後から今村夏子原作だったと知り読んでみた。 赤ちゃんの頃から体が弱く、乳児湿疹が治らなかった主人公・ちひろ。 ちひろの父が同僚に相談すると、ある宗教団体が販売する水を薦められ、その水を使うようになってから湿疹が治ったことで、両親ともに宗教にのめりこんでいく。 おかしな両親に嫌気がさした高校生の姉は家出をするが、中学生のちひろは学校で冷やかしを受けても両親を信じ、愛する…という話。 あ

          信じる(星の子/今村夏子)

          普通じゃないけど(普通の主婦だった私が50歳で東大に合格した夢をかなえる勉強法/安政真弓)

          タイトルのまま、50歳で東大に合格し、本当に入学した主婦の勉強ノウハウが書かれた本。受験に関係のない社会人にも役に立つ!と言われ手に取ったが、読み終わって「これは普通の主婦ではないと叩かれてるんじゃないか…?」と思いレビューを見てみたら、案の定そうだった。(本を売るために編集者が付けたタイトルだから仕方ない。私にはわかるぞ。) まず著者は、現役時代に3回も東大京大を受け、二浪の末に早稲田大学を卒業している。 2人の息子をもち、昼間は主婦、夜は学習塾を運営。 次男の東大受験を

          普通じゃないけど(普通の主婦だった私が50歳で東大に合格した夢をかなえる勉強法/安政真弓)

          戦争の行方(半導体戦争/クリス・ミラー)

          私は投資歴10年を迎えるが、ここ数年最もホットな半導体という分野についてあまりにも知らなすぎる…と思っていた矢先、これさえ読めば歴史が全部わかると聞いて手に取った。 1958年、グローバル化という言葉が生まれるはるか以前より、半導体のをめぐって世界中で金と技術が行き交っていた。国際政治の形、世界経済の構造、軍事力のバランスを決定づけ、私たちの暮らす世界を特徴づけてきた立役者は、半導体なのだ。 黎明期 事の起こりは、民間企業ではなく国防総省で、1965年時点、生産された集積

          戦争の行方(半導体戦争/クリス・ミラー)

          私の不幸は私が決める(慣れろ、おちょくれ、踏み外せ/森山至貴×能町みね子)

          クィア・スタディーズの専門家・教授であり自身もゲイである森山氏と、以前ここに書いた『結婚の奴』の著者であり、トランス女性である能町氏の「性と身体をめぐるクィアな対話」をまとめた作品。 ※クィアという言葉は、日本語でいうオカマ・変態に近い侮蔑語である。ただ、本来は侮蔑的に使われていた「変態」が、自虐的に使われることでメジャーになっていったように、ネガティブなニュアンスが取れた状態でじわじわと浸透しつつある。 ・朝井リョウ『正欲』との比較 私はフィクションである『正欲』と、

          私の不幸は私が決める(慣れろ、おちょくれ、踏み外せ/森山至貴×能町みね子)

          許しがたいオチ(5A73/詠坂雄二 )

          ※ネタバレ含みます※ 5人の連続した自殺には、ある共通点があった。 それは遺体のどこかに「暃」というタトゥーシールが貼られているというもの。この「暃」という漢字は、JISコード「5A73」で登録された”意味をもたない漢字”、すなわち幽霊文字である。 この文字の意味するところは何か?5人の関係性は? 2人の刑事が、事件を追っていく。 アメトークの読書芸人の回で紹介されていた作品。 設定が抜群に面白く、徐々に明らかになっていく5人の関係性や、「暃」の意味を様々な角度から考察す

          許しがたいオチ(5A73/詠坂雄二 )

          抽象化と転用(メモの魔力/前田裕二)

          2019年最も売れたビジネス書らしい。 SHOWROOMの前田社長、そうえいば最近見ないな。SHOWROOMはいまどうなっているのだろう?と思い調べたら、なかなかの赤字決算続きだった。 新しいSNSや配信サービスが増えすぎたいま、ライブ配信ビジネスでどうやって稼いでいくの…?とSHOWROOMの今後が気になりつつも、この本自体はなかなか面白かったのでメモ(紙じゃなくてすみません)。 ・メモ魔になれ 具体的なやり方は、ノートの左側に、心に引っかかった「ファクト」を書き、右

          抽象化と転用(メモの魔力/前田裕二)

          腹腔鏡手術で子宮筋腫を取った記録

          1年ちょっと前、健康診断のついでに受けた子宮頸がんの検診で、子宮筋腫があると言われた。 症状がなかったので数ヶ月は経過観察をしていたが、筋腫は生理のたびに大きくなり、一番大きいものが8cm近くになったので、やはり取ることにした。(あまり大きくなると、開腹手術になるから) 5泊6日の入院で腹腔鏡手術を受けた。 誰かの、あるいは再発した時の自分のためになればと思い、簡単に記録しておく。 腹腔鏡手術とは、お腹をガスで膨らませ、臍からカメラを入れ、腹を数箇所切って筋腫を取り出す手

          腹腔鏡手術で子宮筋腫を取った記録

          言語の人格(語学の天才まで1億光年/高野秀行)

          早稲田大学探検部出身の作家が、25の言語を学ぶに至る過程を記したノンフィクション。著者は言語オタクではなく、「コンゴの幻獣を探す」「アヘンケシ栽培をする」といった風変わりな目標を達成するための手段として、現地の言葉を学ぶ必要があったと主張する。(が、この本を読んだ人のほとんどは、彼を語学の変態と位置付けるのではなかろうか) 1980年代の若者の勢いを感じさせる冒険譚として、また、テキストはおろか文字さえ持たないマイナー言語の学習方法を知る言語学入門として、とても面白く読めた。

          言語の人格(語学の天才まで1億光年/高野秀行)

          ストーリーテラーを信じるな(ストーリーが世界を滅ぼす/ジョナサン・ゴットシャル)

          ストーリーテリング(物語化)のおかげで、文明は発達した。物語には人の思考と行動を大い変える力があるが、ほとんどの人はその影響力に無自覚で「自分は物語の語り手になびかない」と考えている。ここに、物語の危険性がある。 具体的には、以下の通り。 ・語らず、示せの科学 アーネスト・ヘミングウェイにこんな逸話がある。(ただし現在は、ヘミングウェイではないという説が濃厚) 友人たちとレストランにいた彼は、酔った勢いで「自分の筆力をもってすれば小説1冊分の力をたった6語に込められる」と

          ストーリーテラーを信じるな(ストーリーが世界を滅ぼす/ジョナサン・ゴットシャル)