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ドライでサイコパス(おいしいごはんが食べられますように/高瀬隼子)

芥川賞受賞作。
タイトルからかもめ食堂的なほっこり系を想像していたら、いい意味で裏切られた。

主人公は、同じメーカーに勤務する3人のアラサー男女。
職場で器用に立ち回る男子・二谷とその彼女の芦川、そして芦川の後輩女子・押尾。

芦川は仕事ができず体力もなく、それをカバーするかのようにオフィスに手作りのお菓子を持参して振る舞う。
二谷は芦川と順調に交際を続けながら「いずれ結婚するかも」と本気で考えているが、ある一面では芦川を心底見下し、彼女から受け取ったお菓子を「残業の時に食べる」と取っておきながら、夜にこっそり握りつぶして捨てるようなサイコパスな一面がある。
芦川と対照的に仕事ができる押尾もまた、先輩である芦川を見下し、腹いせのように二谷と接近しようとするが、ギリギリのところで踏みとどまる。(この「ギリギリのところでやめる」という態度こそが、最大限の見下しのように感じた。)おまけに、ゴミ箱に捨てられていた芦川作のお菓子を、わざわざ取り出して芦川の机に置くようなサイコパスな一面もある。

二谷と押尾は人として普通に怖いし、一見無邪気な芦川もまた、具体的には描かれてないものの「実は全部気づいてます」的な恐怖をどこか感じさせる。

この怖い3人を繋ぐテーマが「食」だ。
二谷は根本的に、食に興味がない。
生命維持のため仕方なく食事をしている二谷にとって、料理をする時間など無駄でしかないし、残業が続く二谷を心配した芦川の「栄養のあるものを食べて」という言葉にストレスさえ感じている。お菓子作りなどもってのほかだ。

食の好みの不一致は、一緒に生活をしていくうえで致命傷だが、それを全く問題と思ってない二谷の適当さにもまた、私は恐怖を覚えた。

今村夏子『とんこつQ&A』を彷彿とさせる、乾いた恐怖と後味の悪さを残す不思議な作品だった。



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