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ドラマ感想文

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いまところ、フジテレビ木曜ドラマ「silent」についてです
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木曜ドラマ「silent」8話感想

どんな行為も、それ自体は善でも悪でもない。善かどうかは、その行為が何と組み合わさるかで決まる。スピノザに拠れば、そういうことらしい。

風間くんが手話サークルを作ろうとしたこと自体は善でも悪でもなく、それ自体は別に褒められも誹られもするべきではない。

風間くんの働きかけで実際に手話話者が増えたり、その人たちのろう者への関心が高まれば、多くのろう者にとっても暮らしやすい社会への一歩となる。その便益

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木曜ドラマ「silent」7話感想

なんで声で話さないの?と尋ねた紬への返答を見せることなく、想は入力した画面をそっと伏せた。

「伝える」という目的を果たすための選択肢の中でも、「書く」というのは「話す」より難しいのではないかと思う。

Twitterやnoteの存在によって、誰もが書き手として気軽に発信できる時代になったが、話す人に比べて書く人はなお限定的なように見える。

話し言葉より書き言葉の方が難しい理由のひとつは、仕草や

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木曜ドラマ「silent」6話感想

本作は一見すれば、「ろう者と聴者の恋愛ドラマ」である。しかし「恋愛ドラマ」ではないかもしれない、と3話感想の最後に書いた。
6話で思い直したのは、「ろう者と聴者の」の枕詞も決めつけだったのではないか、ということだ。

ろう者と聴者、男性と女性、幸福と不幸。
二項対立というものは分かりやすい。
だが、そういう構造主義的な認識ではこぼれ落ちていくものも多い。

想は、そのあわいの中を漂っている。
変化

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木曜ドラマ「silent」5話&EP#0感想

湊斗と想は似たもの同士だ。
「別れよう、俺が無理だから。このまま一緒にいたら無理になる」
湊斗のその背負い方は、EP#0での想と同じだ。

帰りが遅くなったことに責任を感じる紬を横目に想は、
「遅くなったのは、俺がお姉ちゃんを引き留めちゃったからなんだ。ごめんね」
と光に話した。

優しさを単に優しさとして人に渡すのではなく、自分のエゴや責任だと背負いこみ、自分がやりたいからやっているだけだ、と自

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木曜ドラマ「silent」4話感想

湊斗を見ていて、自分でも意外な言葉を思い出した。

それは、今週の「あちこちオードリー」で、お笑い界で天下を取る人とは?というトークをしていた際の「若林は共感性が高いよね」というオリラジ中田の分析を踏まえた、若林の言葉だ。

「お笑いで天下をとる人は、お笑いのルールを自分のルールに変えちゃう人。共感性の高い人は、そのルールを人に押し付けられないから、たぶん天下は取れない。」

これって、恋愛におけ

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木曜ドラマ「silent」3話感想

グリーンのコントロールカラーベースを塗ったような映像に惚れ惚れする。
登場人物たちのその透明感も、そうやってつくられてる気がする。薄く淡く、気持ちを隠して。

みんなが互いを思う優しさで気持ちを隠してるから、冒頭の語りはありがたい。そこは本心なんだよね、と考えずに受け取れる。
3話冒頭の語りは湊斗だった。そこで感じられたのは紬への思いよりも、佐倉くんへの思いだった。

湊斗は紬のことも好きなんだろ

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木曜ドラマ「silent」2話感想

2話のハイライトは2つの台詞だった。

1つ目は、「好きな人がいる。別れよう」

今までいろんな作品で優しい嘘を見てきた。
なのにこの台詞は、嘘ではない。
脚本家の言葉の力に慄いてしまった。

本作に悪人はいないのは1話で分かっていた。2話で更に思ったのは、嘘をつく人すらいないということだ。
佐倉くんに負けず劣らず、湊斗も嘘がつけない人だった。
湊斗は佐倉くんに青羽の連絡先を聞かれた時、知らないと

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木曜ドラマ「silent」1話感想

 始まって1分で、このドラマ好きかも、と思った。空気感が坂元裕二作品みたいだったから。もっと言うと、「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」みたいだった。

 調べてみると、その感覚は正しかった。脚本の生方美久の最も敬愛する脚本家は坂元裕二だそうで、音楽を担当する得田真裕は「いつ恋」を手がけていたまさにその人だった。ドンピシャすぎる。肌馴染みのよさに、合点がいった。自分にとって「いつ恋」は、

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