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出かけてきたよ⑮(แสงสุดท้าย(最後の光))

JR、私鉄、地下鉄の3線が交差している、駅。
たくさんの人が暮らすこの街には、こんな駅がたくさんある。
そのような、駅の一つで、私はお二人と再会の待ち合わせをした。

私達の人生は、幾度となく交差した。
たくさんの人が暮らすこの世界で、再び集う一日。
互いの起点から、終点への道を辿る。
その過程での交わりは、奇跡の瞬間。

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お会いした瞬間、ごく自然にお二人の手を取っていた。
嬉しさで。

”出かけよう。
日柄?良いと思えば、良い一日となるさ。
さあ、行こうぜ。”

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まずはお二人に、久しぶりの”再訪”に付き合ってもらった。
この地のイメージは「強面」、ではないだろうか。
私が感じたのは、むしろゆったりと、柔らかなもの。
それはまるで、盛りを過ぎ散りゆきそうな花を湛えた桜の木のイメージ。
皆に愛された、穏やかな色合いの花弁を舞わせ、
枝々に新緑の芽をもつ、静かで力強い生命力をもった存在。

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この建物内に、初めて招かれた。
ここは、祭神ゆかりの宝物館。
この地に鎮まる英霊の御遺品などを史資料として展示している。

「hikariさん、なんだか、とても怖いです・・・。」

そのお言葉に、私は何か、声かけたかもしれない。
申し訳ないが、口ばかりだったと思う。心あらずで・・・。
私の心は、招かれる先に向くばかりだった。

様々な武具の後は、フロアいっぱいに先の大戦関係の展示物。
英霊の皆さんの遺書に惹きつけられる。
後世に残った書簡は、戦時下の検閲を経たものであるから、
伝えたい事そのままが綴られているというわけではないだろう。
しかしそれだけに、熱く秘めた想いが伝わってくる。
国へ、家族へ。そして、自らへ。

英霊のお写真の中、強く惹きつけられた、お顔があった。
何気なく、その方の遺書の宛名に目をやる。
「あや子様」
思わず、声が出てしまった。
急いで、少し離れていたところにいたあやさん、ゆかりさんを呼んだ。
それは、同名のあやさんに向けたかのような、不思議な書面だった。

その遺書をしたためたのは、柳本柳作さん。
海軍少将、戦艦「蒼龍」の艦長だった。

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あらためて、柳本艦長の遺影を拝見する。
その瞳に吸い込まれた。さぞ人望厚く、魅力的な方だったのだろう。
展示されていた、奥様”あや子”さんへ宛てた遺書。
家族への感謝、その未来に向けて書かれた、愛溢れる文面。
それは、柳本艦長が皆に感謝と未来に希望を、愛をもって接した、
彼自身の生きた姿勢そのものを表していると、私は思う。

柳本艦長は、「蒼龍」の最後の艦長となった。
「蒼龍」が敵機に攻撃を受けた後、総員退艦命令を早々に出し、
柳本艦長は、燃え盛りながら海に沈む「蒼龍」と運命を共にした。

海に散った、柳本艦長。
人はこのように、病やケガなど、肉体を損なわれること以外で、
自らの寿命を全うすることがある。
ある日、突然。でも、然るべき時に。

”柳本艦長、あなたは逝くとき、とのようなことを感じ、考えていましたか”

私は、生き切ったのだ。

その遺影は穏やかに。威厳ある微かな笑みを、湛えていた。

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気が付くと、なんと数時間が過ぎていた。
お二人とは、ぜひインドシナ系料理を囲みたかった。
タイ料理店へ、遅めのランチへ。
人気店だったようだ。
このご時世だが、店内は満席。私達へのテーブル一つ除いて。

嬉しいことに、Beer Laoが置いてある。
瓶を、お二人それぞれに傾ける。
酌できる、嬉しさ。これは、奇跡。
”ほうら、兄貴の杯を受けろって。
俺に遠慮するな。水くせえじゃないか。”


私は、酌をするのも、されるのも好きだ。
お互いの存在と繋がりを感じながら、美酒を交わせるから。

宴を楽しんでいると、店内を聞き覚えのあるTpopが流れてきた。
その曲は、私の”theme song”の一つ、「แสงสุดท้าย(最後の光)」
名曲であるため、幸いなことに、歌詞の和訳も見つけることができる。
その内容は、非常にパワフル。

生きるとはつらいこと どれほど力があろうと
この心だけは 諦めちゃいけないと叫ぶ

星の無い夜だって かまわず突き進んで行く
真実の愛が光となって導いてくれる
迷えど愛の光が導くだろう
辿り着けるさ 最後の光に お前なら

一歩踏み出してみる そこからすべて始まる
強くなれ お前の人生 お前が創っていけ

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「แสงสุดท้าย」を聴きながら、故郷への帰途についた。
柳本艦長、そしてインドシナの地に生きた名も無き男達も。
それぞれの人生の最後は、光包まれたことだろう。

あやさん、ゆかりさん、奇跡の一日をありがとう。
またいつか、お会いしましょう。

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