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君は一体誰?

洗濯物についてきたのだろうか。
部屋の白い壁に、小さく動く黒い影が現れた。

ハエトリグモだ。

なんとなく君の事、見覚えがある気がするぞ。

先月お盆の時期。
取り込んだばかりのシーツに一匹の小さなハエトリグモが跳ねたのを見つけた。
捕まえて外に出してやろうと思ったのだが、身軽に動くそれは家具の裏に逃げ込んでしまい、害虫ではないからそのまま3、4日過ごした。
その間、踏んづけてしまわないように注意深く生活をしなければならなかった。

害虫ではないこと以外にそのままにしておいた理由はもう一つある。

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子供の頃、お盆は毎年祖父母の家で過ごした。
お盆の飾りとしてキュウリやナスに割り箸を刺して馬や牛を作った。
祖母は、「ご先祖様がこれに乗ってやってきて、これに乗って帰って行くんだよ」と教えてくれた。

思春期になって、なかなか祖母の家に寄り付かなくなった私は、祖父の初盆だからということで久しぶりにお盆を祖母と過ごした。

畳の上に、透き通るような美しい黄緑色の小さなカマキリがいた。
おそらくまだ成虫ではない。
2、3日前から家にいるのだと言う。

「ずっとここにいるから、おじいさんなんじゃないかと思って。」

祖母は、亡くなった祖父がカマキリになって会いに来てくれたんだと考えているようだった。
身体の大きかった祖父が、随分小さくなったものだなぁと想像したらちょっと笑ってしまったが、そういう考え方って素敵だし、もしそうならまた会える気がして寂しさも和らぐなぁと思った。
そして不思議なことに、お盆の終わりにはそのカマキリはふわっとどこかへ消えてしまったのだ。
(本当におじいさんだったのかも!)
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たまたまお盆の時期に私の部屋に侵入した小さなハエトリグモには、残念ながら心当たりはない。
君は一体誰なの?笑
さすがにこのまま居座られても、気付かず踏んづけてしまうかもしれない。
命の保証はできないと思い、窓の方へと誘導して外へ出した。

それから数週間して、君はまたこうしてここへ舞い戻って来た。
さては君、私のご先祖ではないね?
それか、超心配性なご先祖様でお盆の翌月に再び私を見守りに来てくれたの?
まぁ、どっちでもいいけど、君を踏んづけたくはないんだ。

(とは言っても虫は苦手なので)ティッシュを片手に、ピョンピョンと軽快に移動するそれと奮闘し、なんとか捕獲に成功、二度とここへは戻って来られないようなところへ逃がした。
今度こそさらばだ。
私も頑張るから、君も達者で暮らせよ。

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良くも悪くも、ちょっとした行動の裏に、忘れていた思い出を見つけることがある。
そういえば、こんなことあったな・・・とか言うように。
きっとそれは”思い出”と言われる数々の経験の上に、今の自分が在る証拠だ。

と言うことはつまり、もしかして私と出会った誰かが、その思い出を元に行動を変えることがあるかも知れないわけで・・・。
だとしたら、それが良い方向へ向かう影響だったらいいなぁなんておこがましい事を考えたりしてしまう。

私って奴は全く・・・欲張りなんだから。

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