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マッチングアプリの女の子3

【日々はあっちゅーま】
#12, アスミちゃん最終話


「前回までのあらすじ」マッチングアプリで出会った女の子、アスミちゃんに運命を感じた、まえだゆうき。

誠意を示す為、思い切って絵本を描いている事、旅に出たい事、アルバイト生活をしている事をカミングアウト。

思いの丈は伝わったかに思えたが、以後、アスミちゃんとの連絡は途絶えてしまった。
このまま、アスミちゃんとは一度も会う事なく終わってしまうのか!?

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一週間後


「やぁ…もしもし、久しぶり。元気してた?もしかしてアスミちゃん、この間の事気にしてた?

「うん、あの後、友達にゆうくんの事話したら、そんな男絶対やめたほうがいい!って全否定されたんだ…。それで、考えちゃって…」


いや、アスミちゃん。
それは友達が完全に正しいよ。


誰がどう考えても、
絵本描いてて、旅に出る予定の、アルバイト男と付き合いたいとは思わない。

それが正常な反応というやつだと私も思う。

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とはいえ。


こんなにも運命を感じてしまった以上。
じゃあ、さようならとは簡単に言えないのが、恋の難しい所なわけで。



お互いどうするべきか、長い沈黙が続いた後に、思い切って切り出した。





「…アスミちゃん、分かった。俺、旅に出るのはやめるよ」
「!?」



「絵本の事も、仕事の事も、2人で一緒に考えていこう」
「!」




「いざとなったら、保育士資格を活かして、保育園の先生も出来るし。きっと大丈夫だよ!」
「ゆうくん…」


 
思わぬ歩み寄りに、びっくりしつつも、嬉しそうな様子のアスミちゃん。
お互い改めて会う日取りを取り決め、電話を切った。


間髪入れず、アスミちゃんからはじめてのハートマークのLINEスタンプ。
きゃ〜。と1人で布団にダイブした。

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そして、ゴロゴロしながら考えた。

男の美学とは一体何か。

それは困っている女性の為に、一肌脱いでやる事だと思う。 


アスミちゃんの為に一肌脱ぎ、さらに、他に何か脱ぐものは無いか考えていた私。



はたと気付いた。



そうだ、結婚だ!
アスミちゃんとの結婚だ!
それこそが男の生きる道!



よっぽどハートマークのLINEスタンプが嬉しかったのか、1人で勝手に結婚を決意するおめでたい男。


 
柄にもなく、近所の神社にお参りに行った。
奮発して50円玉をポーンと投げ入れる。


パンパン!
待ってろよ。アスミちゃーーん!



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

そうして、念願の初対面


連絡を取り始めてから、かれこれ4ヶ月くらいは経っていたと思う。

駅の改札ではじめて会ったアスミちゃんは、プロモーションビデオさながら、キラキラと、スローモーションなエフェクトがかかっていた。



一緒に街を散歩し、ラーメンすすり、ケーキを食べ、公園に座る。



意を決して告白。











「アスミちゃん、俺と結婚しよう!」





「まずは半年間お付き合いしよう。それでお互いが良かったら結婚しよう!!」


今度はアスミちゃんがコーヒーを吹き出しそうになる番だった。


「え〜!うちら、今日会ったばかりだよ〜」
「う〜ん。ちょっと考えとくね〜」

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そんなこんなで始まった2人の交際。

美術館に現代アートを観に行って、ミニシアターに映画を観に行った。

夏になったら花火しようとか、キャンプに行こうとか。
次のデートコースを、あーだこーだ一緒に考えた。



大掃除もした。

換気扇を掃除し、油汚れを落とし、キッチンマットも取り替え、バスタブをごしごし磨いた。



ついでにネットフリックスにも加入した。 



毎日はバラ色、この世は天国か!
と本気で感じたあの頃。


しかし、幸せはそういつまでも続かなかった。


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当時、絵本を描くために、アルバイトで生活を切り詰めていた私。
月々手取りで15〜6万円、年収で言えば190万円。

 
毎週デートに出かけるお金など、到底あるはずもない。

次第に、なけなしの貯金にも手をつける必要が出てきて、アスミちゃんに切り出した。



「アスミちゃん、俺、もう1個バイト掛け持ちしようと思うんだけど…」
「掛け持ちって…。ゆうくんは高校生か!」

苦笑いのアスミちゃん。 


「う〜ん。ゆうくんが絵本忙しいのは分かるけど。一緒に暮らすならお金もかかるんだし、正直、早めに就職を考えて欲しいな〜。



そうだよな〜。と家に帰って、マイナビ(転職サイト)にエントリー。
再就職活動というものを始めてみる。



担当の人とやりとりしてリストを作ってもらって、説明会の日程を決める。

自分は資格を持っていて経験もあるので、必然的に保育関係の斡旋が多め。




保育園の先生か〜。
また、ピアノ練習しないとな〜。
お集まりしたり、お散歩行ったり、給食食べたりするんだな〜。


そうか、保育園の先生か〜…

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資料を見ながら、何だか、あんまりウキウキしていない自分に気付いた。


あれ?なんでだろう。
これから、子どもたちと関わって、新しい生活始めるというのに。





…あ、そうか、
自分、もう保育園の先生やりたくないんだ。



自分の夢を追いかけると決めて、上司と喧嘩して会社(保育園)を飛び出して。


借金抱えて、ニッチもサッチも行かなくなって債務整理して。


コツコツと返済を続けてやっと完済して。

毎日少しずつ、絵本を描きためて、ようやく収入に繋がり始めた。




子供じみたこだわり。

と言われてしまえば、それまでなのかもしれないが。


ここで再就職してしまう事は、今までコツコツ積み上げてきたものを崩してしまうような気がして。


何か、大切なものを手放してしまうような気がして。

 
結局、最後の面接申し込みのクリックが出来なくて、アスミちゃんに相談した。


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「アスミちゃん、ごめん。やっぱり俺、就職したくないんだ。貧乏でもいいからこのまま一緒に暮らして、絵本で稼いでいきたい」


「え〜〜〜っ…」


マッコウクジラの息継ぎのような長いため息の後に、アスミちゃんは口を開いた。


「確かに、お金が全てじゃないと思うけど、あんまり貧乏なのは、私嫌だな〜。それに、私はゆうくんに、バイトじゃなくて、プロフェッショナルな仕事をしていて欲しいな」


「プロフェッショナルな仕事なら、絵本で頑張るからさ!」
「それにほら、『奇跡のリンゴ』の木村秋則さんも、貧乏時代に野草を茹でて食べてたっていうしさ!」
「貧乏だってうちら、きっと幸せにやっていけるよ!」



「…ゆうくんは、私に雑草を食わせる気か!」



そんなおバカな提案に呆れ果てながらも、最後まで愛想を尽かす事なく、ギリギリまで歩み寄ってくれていたアスミちゃん。


本当に心の優しい子だった。



一緒に山奥に住もうとか、畑を耕そうとか、いっそ旅に出ようとか、ありとあらゆる案を話し合った結果。


工場でも事務でも営業でも何でも職種は問わないから、
とりあえず就職して年収300万稼いで欲しい。


これがアスミちゃんからの最終ラインとなった。


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そして、江戸川のほとりを1人歩いて考えた。


アスミちゃんと一緒に暮らす生活はきっと幸せで素晴らしいだろう。
慎ましいながらも営む暮らし。
アートのある日々。



でも、
ここで絵本を逃したら、きっとずっと後悔するんだろうな。


…それだけは知ってる。


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そうして、次のデートの日


一緒に美味しいスープカレー食べて、絵本作家のエリックカールの原画展観て、手を繋いで散歩した帰り道。





「アスミちゃん…。ごめん、やっぱり俺、就職できない」

「…」





「だから、お互いの時間が無駄になってしまう前に。ここでお別れしておいた方がいいと思う

「…」







「…」

「そっか…、そうだよね…」








「…」

「早めに言ってくれて、ありがとね…」









しばし沈黙








「…これからどうしようか?」
「…」









「…花火、しようか」








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それから、ドン・キホーテで花火の詰め合わせを買って、2人で公園で花火をした。



パチパチと手持ち花火が終わり、最後に線香花火が残った。


「あ〜あ、夏が終わっちゃうね〜」
「終わっちゃうね〜」







「…ごめんね。私、ゆうくんの事、待ってあげられなくて。私たちがまだ20代だったら、本当よかったのにね」 




…どうかアスミちゃん、謝らないで欲しい。
悪いのは私なのだから。



結果を出せていない私が、そして、生き方を変えられない私が悪いのだから…



「アスミちゃん、ごめんね。俺、頑張るね」
「そうだね〜、うちら頑張らないとね〜、精進だね」






線香花火の最後の火花がポトンと落ちて、
一夏の恋は終わった。




そして、今までのやりとりがまるで嘘だったかのように、変わらない日常がまた戻ってきた。




アスミちゃんと観ようと思って加入したネットフリックスも、1人で観ていると何だか悲しいので、途中で観なくなってやめた。



マッチングアプリもそれっきり触っていない。




だってそうだろう?
自分で選んだ道だものね
絵本、描かないといけないね




精進しないと



本当ありがとう
アスミちゃん



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おしまい



【そうして今日も、絵本を描くのです】







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