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なんちゃってDXでいいんです

何年か前は「デラックス?」と、意味どころか読み方すら分からなかったDXという言葉も、今はすっかり定着していますね。改めて言うまでもありませんが、これはデジタル・トランスフォーメーションの略です。

トランスフォーメーションがXって省略しすぎだろとか、そもそもどこにXがあるんだとか、そんなことはひとまず置いておきましょう。そこにはちゃんと意味があるようですが、みんな腑に落ちないまま使ってる言葉ですから(笑)。

そして、特にこのような外来語が、微妙に違うニュアンスで広がるのは、日本のお家芸でもあります。

トランスフォーメーションとは、変化、変容を指す単語です。つまり、デジタルによって産業構造そのものを変えていくのがDXであり、各企業はそれを前提に、会社をデジタル仕様に変化させていこうよと。そのような動きですね。

それがどうも、これまで使っていたものをデジタル化していくという、「ツールのデジタライゼーション」に変わってしまっている感があります。本来の意味が、大きく矮小化されているわけです。

矮小化がちょうどいい

でもね、それはそれでいいと、私なんかは思うのです。そもそも、デジタルで産業構造を変えていくなんて、ピンときますか?そんな大枠の話をされても、では実際に何ができるんだ?という話で。

私は多くの製造業との付き合いがありますが、試しに製造業DXなどのワードで検索してみてください。

出てくるのは、クラウドサービスの情報や、工場内の機器をITで繋ぐ、いわゆる「IoT」(Internet of Things)的なソリューションばかり。見事に矮小化されています。

では、DX本来の意味だとどうなるかというと、例えばドイツ主導で進む第4次産業革命とか、そんな話になるわけです。これを東大阪や大田区の町工場で話しても、ピンとこないに決まっています。国家レベルの話になるので、当然です。

だから、それでいいのです。要は、バックヤードをデジタル導入して効率化させる。ネットでのマーケティングを取り入れて、営業の幅を広げる。そうやって、まずは自社で導入できる範囲の「デジタル化」をしていけばいいのです。

レガシー産業のバリューアップ

製造業の話が出たついでに書きますと、あの業界周辺(材料、工具、油剤などの間接資材業者含む)の主な通信手段はFAXです。何かにつけてFAXです。長年、Webの業界にいた私は、いや、LINEくらいはみんなしているだろうからと、当社のLINEのQRコードを配って「何かあればLINEで!」と呼びかけ続けました。

実際、外に出る時間が多いと、FAXで連絡をくれても、その内容を私に伝言してもらう必要もあり、極めて非効率です。

結果、LINEで仕事の連絡をくれた会社は、片手で数えるくらいでした。この業界は図面のやり取りがつきものなので、文字連絡はLINEでできても、図面をやり取りするには、元がFAXで受け取っているのでハードルが高い。結果、文字だけで済む場合も、FAX一本です。

そうなると、盆休みやゴールデンウィークなどの大型連休前は、各社からの休み予定FAXが山のように積みあがります。各社バラバラならまだしも、ほぼ横並びなので確認する気も失せます。

と、こんな感じです。他にも書き出すとキリがありませんが、何もディスっているわけではありません。製造業は国にとってとても重要な産業だし、個人的にも好きな業界です。ただ、非効率が多すぎるのです。

経験上、会社のデジタル化は社長次第です。社長一人の意思で、デジタル化は可能です。逆に、現場がどれだけ熱望しても、社長の理解がなければ不可能です。どこまで行ってもトップマネジメント次第です

少し想像してみてください。これまで、販売管理や経理などをバラバラのソフトで管理し、それを動かせるのは事務員さんだけという状況が、クラウドを導入して、しかるべき人がどこからでもアクセスし、情報をリアルタイムに更新できるようになれば、それだけでどれだけ効率化されるでしょう。

すべてFAXでやり取りされ、紙を紛失したらわからなくなる情報よりも、SlackやChatworkで履歴を残すようにすると、どれだけ楽か。

「営業」の概念がなく、限られた上層部が知り合いの伝手で仕事を取ってくるのが常態化していたところに、ネットでの発信、プロモーション、リード獲得というプロセスを定着させたら。

M&A的な視点で言うと、IT業界では当たり前に行われているこれらをレガシーな業界に導入すると、それだけでバリューアップにつながる要素になり得ます

もちろん、定着するまでには一定の時間と多くの忍耐が必要でしょう。これまでと違うことをさせられるという、社員からの反発も想定内です。しかし、これだけ改善点がわかりやすい業界にいて、現場がやりたがらないという理由で何もしないのは、経営者としてあまりに無責任です。

私は、M&Aで起業する際は、このように改善点が明確な会社がいいと思っています。よく、何社も買収している社長が「買収先は放漫経営の方がいい」というのも、同じ理屈です。どこを変えればよくなるかが明確なのです。

仮に数年程度、この「DX」に取り組んでバリューアップすれば、もう少し地盤の強い同業者に売却するもよし。その同業者のDXコンサルティングを請けるもよし。

逆にこのようなことを何もしないままでいると、取引先からの値下げ要求と原料高の挟み撃ち状態が続いて、やっても儲からない、断るとその先が不安という、多くの製造業(特に下請け加工業)が陥っているドン詰まり感が加速するだけです。

なんちゃってDXから始めましょう。繰り返しますが、これはトップマネジメントの意識次第なのです。

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