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ヌケたか、どうだか考えよう。

今年一月に発売になったときに「ああ、これは読んでみたい」と強く思っていた。その割には、なんだかずいぶん経ってしまったけれど、ようやく手にとることができたのだった。

noteを利用されている方にとって田中圭一さんの「うつヌケ」は、かなりおなじみ作品だとおもう。しかし、私は全然知らなかった。本が発売されるまでこの作品自体知らなかったし、そもそも、noteのこともよく知らなかった。吉本ばななさんがnoteで有料メルマガみたいなものを始めた、ということだけはなんとなく知っていた。けれど、「そのうち本になったら読もうかな」なんて、悠長なことを考えていた。

だから、「うつヌケ」がコミックエッセイとして出版されるとなったときに始めてその存在を知った。

もっと早く、この本が世の中にあればよかったなあ、というのが率直な感想かもしれない。というのも、私自身「うつトンネル」を経験しているからだ。だけどそれは10年も前のことなので、もっと早く、といってもそれはなかな難しことだよな、とも思う。

うつ病は、それほど特殊な病気じゃないと思う。本当に、誰にでも、簡単になる病気だと思う。もちろん、この「うつヌケ」に描かれているように、なりやすい性質の人、というのはあると思う。考え方だったり、性格的な部分も、病気の一因としてあり得るのかもしれない。けれど、誰の心のなかにも「ちゃんとやらなきゃ」という気持ちはあると思う。想像以上のプレッシャーに押しつぶされそうになることも、あるだろう。「わたしだけ手を抜くわけにもいかない。みんな頑張っているんだし」そう思わないでいられる人のほうが、少ないんじゃないかな? と思う。

わたし自身、「もっと頑張らなきゃ。休んじゃいけないんだ」という気持ちがものすごく強い。うつ病になったときは、仕事もとにかく忙しかったし、プライベートでもすこし袋小路のような場所でウロウロとさまよっていた。そのため、どこにも逃げ場がなくて、ずぶずぶとうつの沼地に足を踏み入れてしまっていった。ただ、「逃げ場がない」なんて、今思ってみれば、全くそんなことはなかった。ただ、逃げ場に気付けなかったのだろう。ひとり暮らしをしていたことも、もしかしたら気付けない要因だったのかな? とも思う。少しづつ仕事のミスが増えてきていたけれど、仕事環境ががらりと変わるなかで弱音も吐けなかった。お世話になっていた先輩たちも、立て続けに異動になってしまって、誰に頼ればいいのか分からなくなってしまっていた。そうして、仕事はどんどん増えていき、気がつけば何が何だか分からなくなっていった。職場に向かう途中に、歩道橋を渡るのだけれど、「ここから飛び降りれば、楽になるかな」と考えることも増えていた。

うつ病ではなく、夏風邪をひいて、内科の病院にいったとき。あまりにもわたしの様子がおかしかったので、内科の先生が心療内科を勧めてくれた。あの日、わたしは内科に行かなければ、もしかしたら歩道橋から飛び降りていたかもしれないなと思う。

「うつヌケ」を読むと、「ああ、たしかにこんな感じだったなあ」とガクガク首を縦に振ることばかりだった。一番「ああそうだな」と感じたのは「夢中になることを見つける」ということだった。わたしの場合は「木を掘ること」に夢中になった。もともと年賀状を作るときに消しゴムはんこをつくった干支のスタンプでつくるなどしていた。そのため、年賀状の延長線上にあった版画作成がわたしの生き甲斐になっていた。処方されている薬をきちんと飲んでいても、眠れなかったり、朝早く起きてしまうこともあった。そんな時は、彫刻刀をもって、一心不乱に木を掘っていた。だけど、その時はものすごく充実した気持ちにあふれていた。夢中になりすぎていて、逆に両親に心配されたほどだった。

この本は、うつ病になっていない人こそ読んだ方がいいのではないかと思う。うつトンネルの真ん中で、暗闇のなかを彷徨っている人には、もしかしたら響かないかもしれない。本にも書かれているけれど、なんにも心のなかに入っていかないのだ。だからこそ、うつ病を煩っている家族や友人がいる人、またはうつリターンしてしまうかもな、という人にはとてもおすすめである。

わたしは、うつ病のトンネルを抜けた、と思っている。今のところは。けれど、やっぱり天候だったり、ちょっと負荷の多い仕事が入ったときには「ちょっとヤバいかもしれない」と感じることもある。正直なところ、もう二度とうつ病にならないぞ! と断言できないところもある。

そしてわたしの夫も、結婚して三年くらい経ったころに、仕事のストレスからうつ病になってしまったことがある。わたしは「俺は違う」と言って聞かない夫を強引に心療内科に連れて行ったこともある。目つきがおかしくなっていたし、わたしがうつ病のときに感じていた「脳みそがぐらぐらする感覚」があるか? など、わたし自身が感じていた感覚をいくつか夫に確認したからだった。

ツレがウツになりまして、どころじゃない。フウフでウツになりまして、だ。夫も今ではうつトンネルを抜けてから、もう何年も経つ。けれど、やはり時々「なんか調子悪い」と言うことだってあるのだ。

この「うつヌケ」というコンテンツは、うつ病の特効薬、というわけじゃない。けれど、誰にでも簡単にこの出口の見えないトンネルに入ってしまうことがあるのだと理解してもらえるのではないだろうか。そして、身近な人がうつ病になってしまったときに、色々なパターンがあり、本人の様子をみながら支えていくときの手助けになるんじゃないかと思う。



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