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巨大迷路のスタンプラリー。
うーん、何と言っていいものか。ちょっと言葉に詰まる。
単純に「おもしろかった!」と、手放しで面白がることができなかった。いや、単純におもしろいのだけれど、面食らってしまったというか。これまでにない読書体験だったようにおもう。
すでにさまざまな人が文庫本の感想を述べていらっしゃる。「まさに!」と思った感想としては石戸諭さん @satoruishido が1月24日にTwitterでつぶやかれていた
名人の落語の世界と近い。まさに文芸です。
このひとことに尽きる。
いまさら私なんかが改めて書くこともないのだけれど。記録としてすこし書いてみようと思う。
読みはじめてすぐ「これは、寄り道の多いお話なのだろうか……?」とちょっと不思議な感覚に陥った。子どもが親の名前を呼ぶとき。その呼び名に対する考察から、物語は始まっていく。
かなりはじめの、といっても十ページちかくは読み進めるのだけれど、そこで「え? なになに? どういう展開?」と、思考がぐらりと揺さぶられた。
なんだか、道に迷ってしまったように、あちらこちらへと話は流れていく。けれど、読んでいくうちに、読者である私自身、進んで道に迷いたがっているようにも思えるのだ。
そう、まるで、町ぐるみで主催された巨大迷路に参加した気分だった。「各地をまわってスタンプを集めてくださいね!」と、簡単な地図とスタンプラリー用の台紙を渡されて、ポンと迷路のなかに放り出されたようだった。
この裏路地を進んでいけば、スタンプがあるはずなんだけど……と、細い道を恐る恐る歩いていくと、急に開けた場所にでる。するとその広場では何か、餅つきのようなイベントが開催されていて、「おひとつどうぞ」と紙皿が私に向かって差し出される。それを受け取り、おそるおそる餅を食べる。食べ終わった皿のなかには、ちいさなスタンプのようなものが押されていて「台紙に貼ってください」と小さく書かれている。
やれやれ。どうやら「スタンプはここです!」とあからさまにはアピールされていない。スタンプそのものを見つけながら進まなきゃいけないようだ。
先は長い。
そう思いながら、行列の絶えないラーメン屋を横目でちらりと見てみたり、珍しく積もった雪の夜に運転してみたり、公園で鳩にエサをあたえてみたり。
迷路のクリアをめざすべく、くたくたになるまで、町中を歩き回る。そうして、スタンプをつなぎ合わせて完成された一枚の紙。なんども握りしめたせいでぐしゃぐしゃになってしまっているその紙をみたとき。「あっ」と驚くような仕掛けがされていて、疲れ果てた足から力が抜けて、ガクリと膝をついてしまう。
……およそ、小説の感想には、ほど遠いかもしれない。けれど、無駄話のように思うのだけれど巧妙に張り巡らされている伏線、あるいはまったく伏線ではないもの数々。推理小説ではないのに、「これは一体どういうことだろう?」と思わず本を閉じて考え込んでしまったり。おもしろいのだけれど一筋縄ではいかない複雑なおもしろさが、この本のなかにはたっぷりと含まれていた。
また、「鳩の撃退法」の文庫化にあたり、解説を書かれた糸井重里さんと、著者である佐藤正午さんの対談がほぼ日に掲載されていた。
きりきりと張りつめた様子から対談は始まる。読んでいるこちらが緊張して胃がいたくなるほどで、ちょっと怖いとすら思えた。お話しされていくなかで、少しずつ距離が縮まっていくように感じ取れるのだけれど。
ほぼ日の対談で、佐藤正午さんが、小説を書くときの姿勢をすこしだけ覗かせてもらった。「書き手が没頭するもの」を、私はまだ生み出させてはいない。言語表現による芸術、「文芸」とは何かを考えさせられた。答えが出せるような問いではないので、自分のなかで考え続けていきたいとおもう。
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