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落語という名のゴラク。

子どものころから落語が好きだ。

ラジオで放送された落語をカセットテープに録音したものや、「米朝落語全集」が父の寝室に置いてあった。父が聞いていないときでも、私は父の寝室に入らせてもらい、そこで何度も落語を聞いた。

私が特に好きな落語家さんは三代目桂米朝だ。重要無形文化財、いわゆる人間国宝として名を馳せたこともあり、名前だけは聞いたことがある、という人もいるのではないかと思う。

「米朝会談」といった国際問題がテレビニュースで報道されていると、「桂米朝さんの講演会でもあるんかな?」と思ってしまうなあ、と私の実家では笑いながら話したりもする。

私が一番好きな桂米朝さんの演目は「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」という、1時間近くある話。三途の川や賽の河原、閻魔大王など、私たちが思い描いている「地獄」のイメージを、滑稽に描いたもの。地獄ってもしかして全然こわくないんじゃない? と子ども心にちょっとした救いを与えてくれたりもした。

落語には「古典落語」と呼ばれている江戸時代のころから話芸として伝わっているものと、「新作(創作)落語」と呼ばれる比較的最近つくられたものがある。落語は古典、新作の両方共に時代の世相や風刺を随所にとりいれてそれを笑いに変えていたりもする。けれど、古典落語についていえば、その落語が作られた時代背景がわからないと、面白みが半減するかも知れない。お話のなかで多いモチーフとして「旦那さんが芸者遊びをする」というものがある。(百年目・けんげしゃ茶屋など)現在でも芸者さんはいらっしゃるし、お座敷遊びも、できないこともないだろうけれど、一生のうちに体験できるかどうか……というようなもの。他にも「お伊勢参りにいく」のが江戸時代の流行としてあったことからつくられた落語も多い。(七度狐など)なんとなーく、イメージを膨らませて聞けばいいのだけれど「ん? なんかちょっと分からんかったな?」とおもって引っかかっていると、どんどんお話は進んでいて聞き逃してしまう、ということもあるかも知れない。

初めて落語を聞く人に、とてもおすすめの番組がある。Eテレで放送されている「超入門!落語THE MOVIE」というものだ。私の夫は落語を一度も聞いたことがなかったけれど、この番組をみて以来「落語、めっちゃおもしろい!」とかなりはまっている。

落語は本来ならば、耳で聞いて理解するもの。落語家が演じていることを聞き取り、瞬時に理解しなきゃいけない。もともとそういう話芸だと思っている人にとっては当たり前だけれど、初めて接する人には「落語は敷居が高い、難しい」と思わせる側面でもあるだろう。テレビや動画がない時代であれば「耳で聞く」話芸というのは当たり前のように繰り広げられてたと思う。けれど、時代も変わり「映像で見る」ということが当たり前になっていると、すこし取っ付きにくいと感じるのも仕方ないのかも知れない。

この、「超入門!落語THE MOVIE」は、落語家の語り口調にあわせ、俳優さんや芸人さん達が登場人物になりきり、実際に話しているように演じてくれるというもの。実際の声は落語家のもので、その声にあわせて動きや表情をつけてくれるため、とても分かりやすい。

また、「超入門」と題されているとおり、落語のなかでも割と分かりやすく、おもしろいお話が多い。粗忽者とよばれる、おっちょこちょいがでてくるお話や、「お菊の皿」といった怪談「番町皿屋敷」や「立ち切れ線香」など幽霊がモチーフとなっていて、ちょっと怖いはずなのに笑ってしまうお話。30分番組だけれど15分程度の落語がふたつ放送されることも多い。

「落語って、気になるけど難しそうだな」と思っているならば、気軽に見ることができるので一度試してみてはいかがだろうか。もちろん見逃してもだいじょうぶ。もともと落語は聞くものですから。


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