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ひやっこいストーリー

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#短編小説

【小説】ななくせ粥

【小説】ななくせ粥

「クセがないのに、クセになる!」

202X年、7月9日。あるインスタト食品が発売された。

その商品名は「ななくせ粥」。お湯をそそいで、一分待てばでき上がる。

CMで大げさに言っているとおり、味には大きな特徴はない。しかし、ひとくち食べてしまったら、「もっとほしい。もっと食べたい」と脳をぐらぐらと揺すられるほどに、虜になるという。

「えー、もう売り切れですか? なんかわたしのシフトのときばっ

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あさりと過ごす数日間について

あさりと過ごす数日間について

「あのさー、今日の夜あさりの面倒見てくれない?」夫は仕事へ行く支度をしながら、こともなげに私に告げる。
私にとっては非常に気が重いひとことでもある。

先週の半ばに、夫は一人で潮干狩りに行ってきた。平日だったし、私は会社を休んでまで潮干狩りに向けた情熱はない。シフト勤務の夫は、カレンダーにマルをつけて、数日前から準備をしていた。

「周りの人たちが、すごく便利そうなグッズを持っていて、それを作って

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さかなつり

「そろそろ、だね」

チラリと腕時計に目をやった。夕方の、ちょうどいい時間にさしかかっている。私は戦闘体制に入るべく、キュッと気持ちを引き締めた。

シュッと音をたてて、ルアーをポイントに投げる。

さあ、今からが勝負時だ。真剣にリールを巻きながら、私は釣り竿の引きに集中した。

私が釣りにハマったのは、大学時代に付き合っていた元カレのせいだった。

アウトドア好きだった元カレは「見てるだけでもい

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