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人を魅了する「驚き」の体験デザイン

クリエイターやものづくりに関わる人は全員観てってレベルで全力推薦したいのが、6月に上陸した動画配信サービス Disney+の『イマジニアリング〜夢を形にする人々』というドキュメンタリーです。

ディズニー社で設計・開発を担うアーティストとエンジニア集団『イマジニア』たちに焦点をあて、世界に12のディズニーパークを建設するまでのイノベーションやチャレンジを追ったもの(下記は英語版のトレーラー)。

世界中の人々を魅了しつづけるための不断の努力、異能のコラボレーション、細部への徹底的なこだわり、技術とヴィジョンのせめぎ合い、大失敗からの挽回、人々の幸せへの願い。

そういったものがストーリーとして語られており、驚嘆したり共感したりするうちにあっという間に見終わってしまいました。

そりゃ超一流の人たちだから、という言葉では片付けられない深い学びが得られたのでぜひ観てほしいのですが、ここでは個人的におもしろいなと思ったエピソードを紹介します。


ディズニーにはユーモアが足りなかった

1955年にアメリカでディズニーランドがオープンした際、ウォルト・ディズニーはこのようなスピーチを残しています。

"Disneyland will never be completed. It will continue to grow as long as there is imagination left in the world."

「ディズニーランドは永遠に完成しない。この世界に想像力が残っている限り、成長し続ける。」


それを実践するように、開園してしばらく経った後、ウォルトはイマジニアたちにどうやったらもっとディズニーランドが良くなるか意見を求めたそうです。

当時イマジニアの中でも中心的な存在だったのが、アニメーターのマーク・デイヴィス。シンデレラやティンカーベル、マレフィセントなど数多くの有名女性キャラクターのデザインを手がけた名人で、くすっと笑えるユーモアを取り入れるのがうまいと評判でした。

そんな彼が進言したのは、どのアトラクションにも笑える要素がないということ。

だから彼はユーモアを組み込んだ体験の再設計を進めたんです。

そして『ジャングルクルーズ』を改修し、サイに追い詰められた情けない探検隊のシーンを入れたり、後に手掛ける『カリブの海賊』では、略奪しているはずの町で逆に1人だけ肝っ玉母ちゃんに追い回される弱っちい海賊を描いたりしたのも彼です。

どちらのアトラクションも、ジャングルや海賊の生活という非日常な世界を覗くのがコンセプト。緊迫感がいくらあっても、10分も続くとちょっと見慣れて飽きてきちゃうんですよね。

ここに思わずふふっと笑ってしまうようなユーモアと意外性のあるシーンを挟み込むだけで、ぐっと心を引き戻されます。

飽きさせないための心理的効果が綿密に計算されていたんですね。


ぱふぱふがなぜ必要だったか

さて、ここで突然ですが、ぱふぱふの話です。

ええ、見間違いじゃありません。そう、あのドラゴンクエストの名物の『ぱふぱふ』

ドラクエ1「おいで ぼうや。ぱふぱふしてほしいなら 50ゴールドよ。」

ドラクエ2「ねえ あたしってかわいい? だったら ぱふぱふ しない?」

ドラクエ3「あ〜ら すてきなおにいさん ねえ ぱふぱふしましょっ」

ドラクエ4「え? ここはぱふぱふの部屋かって? うふふ 内緒よ」

少年たちをドギマギさせたこのイベントが、なぜ爽やかな国民的ゲームに入っていたのか長年疑問だったのですが、元・任天堂のプランナー 玉樹真一郎さんの著書『「ついやってしまう」体験のつくりかた』という本に考えが書かれてあり、なるほど!と思いました。

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ドラクエは、冒頭の王様の部屋からの脱出に始まり、コマンドの効果、道具や魔法の役割などを、直感的に学習しながら物語が進んでいきます。

しかし、PDCAを回しながら延々とルールを学ばされ、険しい道のりをひたすら進む過程でプレイヤーを襲うのが、疲れ飽き

脳は同じ刺激が何度もくり返されると反応が徐々に弱まっていくようにできているからです(心理学では心的飽和や馴化と言われるそうです)。

そこで編み出されたのが、ぱふぱふによってプレイヤーの疲れや飽きを軽減するという体験。

これがなぜ効果的かというと、

① タイミングの妙:コマンド全てを学んだ後、はじめての強敵を倒した後など、疲れや飽きがピークに達する頃を狙って登場させている

②   脳の予想を外すモチーフ:タブーなものはこの世界に登場しないにちがいない、という思い込みを覆す

といった驚きを生む体験デザインがされているから(本の中では「驚きのデザイン」と呼ばれています)。

この綿密に練られた体験デザインがあるからこそ、プレイヤーの心を動かし、シリーズで受け継がれる名物イベントになったのではないかと解説されています。たしかに!

まあ、ぱふぱふをしたところで、予想したことは何も起こらないんですけどね(笑)。それもまた、ドラクエの仕掛けた「驚きのデザイン」なのかもしれません。

ディズニーランドとドラクエ。フィールドは違えども、これらの国民的コンテンツはうまく「驚きのデザイン」を使いこなし、私たちは(良い意味で)まんまと夢中になっているわけです。


伏線のデザインで心をつかむ

ちなみに、前述の『「ついやってしまう」体験のつくりかた』の著者・玉樹さんはWiiの企画者として知られ、ゲーム業界の豊富な事例をもとに、人の心を動かす体験デザイン法について語っています。

ざっくり要約すると、「直感のデザイン」と「驚きのデザイン」を組み合わせて長時間楽しんでもらいつつ、「物語のデザイン」でユーザー自身が成長する体験に昇華させていくというもの。

その「物語のデザイン」で重要なテクニックとされているのが、伏線です。

情報をいったん提示した上で時間差で真意に気づかせることで、「あのときのアレ、実はそういうことだったのか!」と物語の理解が一気に進む。これは脳に強烈な快感をもたらします。

この伏線、お買いものパンダのTwitterでもたまに使われているんですね。実は、これまでの投稿の中で最もいいねやRTが多かったものは、なんと1年がかりで伏線を回収した話でした。

お買いものパンダは2017年に念願の猫・むぎを飼い始めて、これが茶色のかわいい猫なのですが、

むぎが家族になったちょうど1年後、むぎ視点でのこんなアニメが公開されました。


まじで!?むぎの背中の模様、そういうことだったの!?


普段Twitterはデザイナー中心に企画しており、私はいちファンという立場で楽しんでいるので、普通に驚き、感動で泣きました(笑)。

慌てて過去の投稿を探しましたが、

↓見えそうで見えない

↓もっと初期に遡ってみる。ん…?言われてみれば…

↓わー、これは完全に見えている!なぜに気がつかなかった、Pよ!


まあ私のポンコツぶりはともかく、どうやらファンの方々の間でも、この模様の真相に自ら気づいていた方はそう多くなかったようです。さらに模様に隠されたむぎの想いが初めて明かされ、涙を誘いました。

1年がかりの仕掛けの巧妙さ、慎重さ、そして物語性への執着に改めて感服したわけです。

ちなみに2018年に表参道で開催したお買いものパンダcaféでも、お買いものパンダたちが自宅で野菜を育てる風景を1年以上前からTwitterで発信しておき、実際のcaféのメニューとして提供しました。時間差を活用した物語のデザインは私も好きな手法です。

café鮮やか


テーマパークやゲームと同様、キャラクターに関してもお客様にはたくさんの選択肢があるわけで、普通のコンテンツを提供しているだけだと残念ながらすぐに飽きられてしまいます。

ときに驚きや物語に満ちた体験をしていただくことで、いつまでもお買いものパンダがファンの方の心に残るといいな、そう願っています。


お買いものパンダcaféの伏線のエピソードについては、私たちの部署の紹介サイトにも載っているので、興味のある方はこちらもどうぞ。


(おわり)

このnoteでは、お買いものパンダやポイントなどのプロデュース業、マーケティングの仕事の中で考えたこと、面白いと感じたコンテンツについて書いていきます。共感いただけたらスキ♡フォローシェアをいただけると嬉しいです!人の温かな感情を呼び起こす素敵なサービスがもっと世の中に増えますように。

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