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木版画という新世界 吉田博展

「没後70年 吉田博 展」が開催されています。

木版画は、「絵師」、「彫師」、「摺師」の三者の分業と、作品をプロデュースする「版元」の4者で創りあげます。

吉田博は、当初は洋画から始め、何度も海外に行き、水彩、油彩の風景画で評価されていました。
49歳にして木版画を始めました。美術館ではそのいきさつを解説付きの映像で知ることができます。

自然を崇拝したいと言った吉田博は徹底した現場主義でした。日本の山も多く描いていますが、あの当時どうやって登ったのだろうと思うような険しい山にも登り、そこからの風景画を残しています。

その木版画の制作にも執着心がこもっていました。擂りの現場に立ち会ったり、重ね擂りを何十にもすることで、独特の色合いをだしています。

また、同じ版木を使って摺色を替え、同じ構図での、朝、午前、午後、夕方を描いています。西洋画の印象派のような微妙な色合いと陰影を版画で表現しています。ターナーのような淡い光のグラデーションを版画で実現しているのには目が釘付けになります。

作品の対象は日本に限られません。何度も海外にでかけ、海外の風景も手がけています。

水彩、油彩の風景画で評価されていたことから、版画の構図もバランスがよいものばかりです。

私が一番印象に残ったのは、「瀬戸内海集 光る海」です。残念ですが撮影禁止でしたので、写真を載せることはできませんので、公式HPのサイトを添付します。

https://yoshida-exhn.jp/wp/wp-content/uploads/2019/08/%E5%86%99%E7%9C%9F5-3-%E5%85%89%E3%82%8B%E6%B5%B7.jpg

太陽の柔らかい光が瀬戸内海の穏やかな波間に反射し、その光の余韻が周囲に広がっていきます。
2隻の帆船も陰影など細かく色摺りされています。手前は光が少なく深い色で安定感がある印象を与えます。そして目線が上方に移っていくと水平線がちょうど良い位置にあり、海と空を分けますが、水平線には島影を思わせるような微妙な色の隙間があり、これが瀬戸内海であることを思わせます。
空の色は懐かしさを感じさせるグラデーションとなっています。
天から降ってくるような淡い光が作品全体を包むように広がり、見る人の気持ちに安心感を与えます。
このように、題のとおり「光」と「海」がテーマとなっています。

構図も色合いも、これが版画か、と思わせる秀逸な作品です。

作品についての印象を上手く表現することがなかなか難しいですが、版画の世界の奥深さを知ることができました。


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