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サントリー美術館の「歌枕」 「行ってみたいところ」リストが増えてくる

サントリー美術館で、和歌の「歌枕」をテーマに、和歌をもとに先人達が創作した美術作品・工芸品を展示する展覧会が開催されています。
古文、和歌、美術品、地理が好きな私には、展示されている美術品だけでなく先人達が和歌から受けただろうインスピレーションを想像することも楽しむことができました。

サントリー美術館には土曜日の朝一番で行きました。朝一番というのはいつものことで、開館直後の時間帯は人が少なくじっくり鑑賞することができます。1回展示室を巡って、2巡目はオーディオガイドを借りて、音声の説明を聞きながら見て回りました。
サントリー美術館はそれほど広くはありませんが、美術品の鑑賞に加えて1つ1つの和歌を読んで回ったので、他の人の迷惑にならないよう気遣いながらも1つの作品の前に立っている時間が長くなってしまいました。

「歌枕」についてはサントリー美術館のホームページに分かりやすく記載されています。

古来、日本人にとって形のない感動や感情を、形のあるものとして表わす手段が和歌でありました。自らの思いを移り変わる自然やさまざまな物事に託し、その心を歌に表わしていたのです。ゆえに日本人は美しい風景を詠わずにはいられませんでした。
そうして繰り返し和歌に詠まれた土地には次第に特定のイメージが定着し、歌人の間で広く共有されていきました。そして、ついには実際の風景を知らなくとも、その土地のイメージを通して、自らの思いを表わすことができるまでになるのです。このように和歌によって特定のイメージが結びつけられた土地、それが今日に言う「歌枕」です。
こうして言わば日本人の心の風景となった歌枕は、その後美術とも深い関わりをもって展開します。実景以上に歌枕の詩的なイメージで描かれてきた名所絵や、歌枕の意匠で飾られたさまざまな工芸品などからは、歌枕が日本美術の内容を実に豊かにしてきたものである事に気づかされます。
しかし、和歌や古典が生活の中に根付いていない現代を生きる私たちにとって、歌枕はもはや共感することが難しいのではないでしょうか。この展覧会では、かつては誰もが思い浮かべることのできた日本人の心の風景、歌枕の世界をご紹介し、日本美術に込められたさまざまな思いを再び皆さまと共有することを試みます。
サントリー美術館のホームページから

「ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」
小倉百人一首、伊勢物語、古今和歌集に収録されている在原業平が詠んだ歌ですが、この「竜田川」というのが歌枕です。
竜田川は奈良にあり紅葉の名所で知られていますが、私はまだ行ったことがなく、私の「行ってみたいところ」リストの上の方に入っています。

展示されている美術品はこの和歌をもとにした、竜田川に紅葉の葉が川一面に流れている日本画です。
(写真撮影はできませんでした)

展示室への入口

「たち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む」
小倉百人一首、古今和歌集に収録されている在原行平が詠んだ歌です。
「いなば」は今の鳥取県の東部、いなばの白兎で知られているところです。
ここは私の故郷に近いため「行ってみたいところ」リストには入っていません。

「吉野川 岸の山吹 咲きにけり 峰の桜は 散り果てぬらむ」
新古今和歌集に収録されている藤原家隆朝臣が詠んだ歌です。
「吉野川」にも行ってみたいですが、それよりも「吉野の桜」は「行ってみたいところ」リストのトップクラスに入っています。
来春には行きたいものです。

唯一の写真撮影可

歌枕は古今和歌集の頃から「心の風景」「実在の景勝地」を想う言葉として流行りだしたそうです。
私は、古今和歌集に収録されている和歌が好きで、東京の大倉集古館のミュージアムショップで購入した本を買って、崩し文字を読むことに挑戦しましたが、なかなか難しくギブアップ気味です。
正岡子規は古今和歌集をこき下ろしていますが、平安貴族の雅さが窺い知れる古今和歌集は心の清涼剤になっています。

大倉集古館で買った本

短歌を創作するようになってからは、NHKの短歌の番組を見たり月刊誌を読んだりして、掲載されている作品を短歌作りの参考にしていますが、言葉を味わうのは古文がやはり最適です。
春、夏、秋、冬、の季節を詠む心持ちは平安時代も令和の時代も変わらない、日本人の通底する自然観が脈々と続いていることが分かります。

短歌の月刊誌

今回の展示会で、古今和歌集や新古今和歌集、西行の山家集などに魅了される自分の内心に気づきました。
それは、「歌枕」。
この2年間、なかなか遠出が難しくなっていますが、歌枕の言葉に「心の風景」を見て、旅に出たい気持ちを満足させているのだと。
自分で創作する短歌に、「旅」「風景」が多いのもそのせいなのでしょう。

「行ってみたいところ」リストが増えてきていますが、そろそろ「吟行」に出かけてみたいものです。


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