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#百合

掌編 「恋は裏切りing」

 今も、私が一番信用ならないと思っているのは、何の見返りもなく、人を助けようとする人間だ。例えば、朝倉。誰にでも愛想を振りまいて、いつでも自分の周りに人の壁を作っている。そして、その輪の中から一人でも脱落しようとすると、息吐く暇もなく手を差し伸べて「大丈夫?」と声をかける。そうすることで、壁は厚みを増し、より強固になっていく。朝倉に魅せられた奴も、そうでない奴も、彼女の壁でいることに魅力を感じ始め

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掌編 「呼吸がほしい」

掌編 「呼吸がほしい」

 夜毎、息苦しさに目を覚ます。灯りを落とした自室の中で、蓄光の時計の針だけが勤勉に働いて、早鐘を打つ鼓動のように、その音で部屋を満たす。既に街は寝静まって、墓標のように整然と並んだ家々が、眠っている私たちは死んでいると告げるようだった。
 私はゆっくりと寝返りを打って、枕元の時計に手を伸ばす。深夜三時。あと一時間もすれば、朝だと思う私の認識からすれば、この時間はいやに中途半端だ。
 朝と夜のグラデ

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掌編 「私の呼んでほしい名前」

 ごまかし続けたら、嘘がバレるより先に我慢の限界が来た。
 陽菜ちゃんが交際していると聞いた。ぐるぐると空回りする思考を後回しにして、陽菜ちゃんと彼の関係に入り込み、その男を横取りしたけれど、彼があまりにつまらないので、この世から消し去ることにした。陽菜ちゃんはまつりの太陽で、まつりの天使だ。それにたやすく触れるなんて許さない。
 それと、どうして陽菜ちゃんが、あんな平凡な男にOKしたのか、理解で

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