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なぜリサーチ会社が「ライフサイエンス事業」を始めたのか?現場起点で立ち上げた新規事業の構想を本部長にインタビュー

マクロミルは2021年5月から、「ライフサイエンス事業」を開始しています。マクロミルが構築してきた130万人の消費者パネルを活用しながら、臨床試験の実施支援やヘルスデータベース構築・利活用支援などを行っていくわけですが、そもそもなぜマーケティングリサーチを行うマクロミルがライフサイエンス事業を始めたのか、どこを目指しているのか、なかなかピンと来ない方も多いはず。今回、このライフサイエンス事業の本部長である吉田昂平さんに、広報の有吉が詳しくお話を伺ってきました。

どん底から抜け出すため、試行錯誤から生まれた新規事業

―これまでの経歴について、簡単に教えてください。

2012年に新卒で入社しました。「なぜマクロミルに入社したのですか?」とよく質問をいただくのですが、お恥ずかしながら当時はそこまで明確な理由はなく、「直感的に馬が合った」というのが正直なところです(笑)。
ただ、今振り返れば“マーケティングにリサーチやデータを掛け合わせる”というビジネス自体に知的好奇心が刺激されていたり、深いところでバリューフィットがあったんでしょうね。「自分らしく楽しんで働けそうだな」という直感を信じて入社を決意しましたが、あの時の決断は間違っていなかったと思っています。

入社して配属されたのは当時の新規事業で、「QPR(消費者購買履歴データ)」というデータベースを販売する営業部門でした。このときに「データビジネスとは?」「新規事業とは?」の一端に触れられたことが、今に繋がっていると思います。その後、主力事業であるマーケティングリサーチ事業の営業部門に異動になり、機会にも恵まれ、マネージャー、営業部長といったマネジメントの経験も積むことができました。

―ずっと営業畑だったのですね。そこから新規事業の立ち上げを目指したのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

実は新規事業を立ち上げたいとか、事業責任者になりたい、といったことは考えていませんでした。きっかけは自身の営業マネジメント時代の大きな挫折経験で、そこでの試行錯誤の中で結果的に新規事業が生まれた、というのが正直なところなんですよね。

それまで二桁成長を続けていた管轄チームの実績が、ある時を境にその伸長が急に止まり、ついには昨年実績を割り始めるようになってしまいました。大口のお客様が、マーケティングリサーチにかける予算を大幅に削減するなど、外部要因も大きかったのですが、結局のところ顧客ニーズに真摯に向き合えておらず、本質的な価値提供ができていなかったことが、全てだったと思っています。まわりの部署は予算達成・昨年伸長を続ける中、自分の管轄チームだけが惨敗し続ける結果となり・・・。チームメンバーへの申し訳なさと自身への不甲斐なさに忸怩たる思いでしたし、正直どん底でした。そんな中で改めて徹底して取り組んだのは、「お客様のもとに足を運ぶこと」。一発ホームランはなく、小手先で何をやってもうまくはいかない。原点回帰で、地道に泥臭くお客様の声を聴くところから再スタートしました。

そんなときに、ある企業様の研究所から「マクロミルモニタ※に採血を行う(血液のデータを取得する)ことはできないか?」というご相談を頂いたんです。正直その時は、どういうニーズなのか理解できず、どうも「臨床試験」というものがあるらしいぞ、というくらいの感じで(笑)、右も左も分からない状況でしたが、藁をもつかむ思いでとにかく動いてみようと。そこから試行錯誤が始まりました。
※ マクロミルが独自に構築した、130万人のリサーチ専用モニタ

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「藁をもつかむ思いで、必死だった」と振り返る吉田さん

新規事業の立ち上げは、“価値提供”のための手段。諦めなければいつかどこかに辿り着く

―新しい領域へのチャレンジで、乗り越えなければならない課題も多くあったのではないでしょうか。

課題しかありませんでした(笑)。
例えば、モニタ規約に当てはまるのかどうか、法律として問題ないのかどうか、医療機関とどのように連携するのか・・・。予備知識が全くない状況からのスタートでしたので、全てが手探りでした。社内外の誰に確認すべきなのか。聞いたとしても誰も正解が分からない。時には「何やってるの?」という訝しげな目で見られることも・・・。何か1つ問題を解決しても、全く予期していないところから落とし穴が次々と出てきて、そして見事に嵌るという。正直、心が折れそうになる瞬間が何度もありました。

やっとのことでサービスの原型のようなものが出来上がり、初めてお客様からご発注いただいたときのことは今でも忘れません。サービス自体はツギハギで不格好極まりないものでしたが、お客様からは「マクロミルがこのサービスを始めてくれたおかげで、これまでできなかった研究ができるようになりました」という非常に嬉しいお言葉をいただくことができました。他の企業様においても、「研究開発の中でもっと大規模で多様な生体データを活用したい」という共通のニーズがあることが分かり、これはいけるかも、と。研究開発においても、マーケティングと同じように「データを活用したい」というニーズは、普遍だったんです。

―そこから事業化に至ったわけですが、そこにはどのような経緯があったのでしょうか。

その後ありがたいことに、多くの企業様から引き合いをいただくようになったのですが、その過程で既存事業の中でサービス提供を続けていく難しさを感じるようになっていました。例えば、プロジェクトのサイクルの速さ一つとっても全く違うんですよね。比較的短期にPDCAを回していくマーケティングリサーチとは違って、研究所からいただくプロジェクトは長期間に及ぶものがほとんど。そうなると求められる体制も変わってくる。お客様へ価値提供をし続けるための手段として、既存事業とは切り離す必要性を感じ、新規事業の立ち上げに考えが至りました。

立ち上げに向けて、経営陣に対して事業化の必要性やその可能性について提案していくのですが、こちらも一筋縄では行きません。多くの経営陣にとっては降って沸いたような事案ですし、この領域に詳しいわけでもない。とにかく地道に何度も何度も説明し、宿題をもらってはひたすら打ち返す、を繰り返しました。結果的に事業化の承認を得ることができたのですが、事業のアイディアや戦略性を評価してもらったというよりは、「熱意に賭けていただいた」というのが正直なところなのかなと思っています。

こういった話をすると、「新規事業を立ち上げることができたポイントは?」「なぜ続けることができたんですか?」と聞かれることがあります。あまり崇高なことは言えないのですが、1つ大事にしていたのは「諦めなければ、いつかどこかに辿り着く」というスタンスです。「できるまでやったから、できた」という感じでしょうか(笑)。また、今振り返ると、新規事業の立ち上げを目的にしていたのではなく、手段として考えた結果、新規事業が生まれたことも、上手くいったポイントなのかもしれません。あくまで私の場合ですが、もし新規事業を立ち上げることを目的としていたら、肩に力が入って誰も欲しがらないサービスを作ってしまっていたでしょうね。お客様のニーズに応えようと無心でやれたことが良かったのだと思います。

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「課題は山積みだった」と笑顔で話す吉田さん

130万人のマクロミルモニタが生み出す競争力のあるサービス

―誰かからの要請ではなく、お客様に価値提供を行っていくための手段が「事業化」だったわけですね。現在、ライフサイエンス事業本部では、どのようなことに取り組まれているのでしょうか。

「未病・健康維持に係るヘルスケア領域」において、現在多くの企業が関連した事業を開始し、価値創出を目指していますが、データをいかに活用していくかということがイシューとなっています。そういった企業に対してライフサイエンス事業が行っていることは大きく2つです。

1つは、機能性表示食品の届出や各種エビデンス取得などの目的のために実施する“臨床試験の受託”。もう1つは、顧客企業がデータを活用した研究開発を行ったり、パーソナライズされたヘルスケアサービス・商品の開発等に活用するための“ヘルスデータベースの構築支援”です。これまでマクロミルが提供していたマーケティングリサーチであれば「このコンセプトでAさんに商品を買いたいと思ってもらえるか」を検証するために「人の意識に関するデータ」を取得しますが、ライフサイエンス事業では、「この商品はAさんの健康に有効なのか」を検証するために、「人の体、健康に関するデータ」を取得することになります。

―それらのデータ取得を支えているのが、130万人のマクロミルモニタということですね。

はい。だた、130万人という“量”だけが優れているということではありません。取得するデータは、とてもセンシティブですし、モニタの方に対しても負荷が高いものも多いです。そのため、モニタと高い信頼関係が構築できていること、それによって品質の高いデータが取得できることが非常に重要となります。マクロミルが長い年月をかけて、自社でモニタを集め、信頼関係を構築してきたことがサービスとしての差別化や競争優位に繋がっていると考えています。

お客様と共に“壁”を越えていけるパートナーでありたい

―最後に、今後の展望について教えてください。

「未病・健康維持に係るヘルスケア領域」には多くの企業が参入していますが、非常に難しい領域で、多くの「壁」があると思っています。例えば公的医療保険制度という壁。公的な制度が充実しているが故に、生活者が未病・予防に取り組むインセンティブが働きづらくなる、という構造的な課題があります。あるいは企業と生活者の間にある壁。健康に関する玉石混交の情報が溢れ、生活者は自分の健康のために何をすればいいか分からず困っていますし、企業側としても本来ソリューションを届けたい生活者に届けられていないというミスマッチが起きています。サイエンスとマーケティングの壁、という視点もあると思います。健康に関する科学的なエビデンスをもとに商品の機能を訴求することも重要ですが、生活者にとってのベネフィットが熟考されていないケースも多いのではと感じます。

こういった数ある「壁」を越えていくための1つの重要な要素として、「リサーチ・データの活用」があると考えています。単なる臨床試験の受託や、ヘルスデータの販売だけに留まるのではなく、データの利活用まで踏み込んで支援を行ったり、もしくはマーケティングリサーチとも接続することで、顧客企業のヘルスケアビジネスに伴走し、統合的な支援ができる世界観を目指していきます。「未病・健康維持に係るヘルスケア領域」においては、まだ明確な成功パターンがありません。マクロミルがパートナーとしてお客様と共に「壁」を越えていける存在になれるよう、リスクを取ってチャレンジしていきたいと思っています。

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「お客様と共に“壁”を越えていきたい」これからの展望を楽しそうに話す姿が印象的でした

―ありがとうございました!

終始、明朗快活にお話された吉田さん。新規事業を立ち上げるつもりはなかったとお話されつつ、諦めなければどこかに辿り着くという持ち前のポジティブな精神で、困難な道のりを突き進む吉田さんが事業の立ち上げに辿り着いたのは、偶然ではなく必然だったように感じました。ライフサイエンス事業は、マクロミルとしても全く新しい領域で、これからもさまざまなチャレンジが続くかと思いますが、非常に可能性を感じることができたインタビューでした。吉田さん、お忙しい中お時間いただき、ありがとうございました!

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