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言葉の力で人を生かしたい。生きづらさと向き合い続け、社会課題に取り組む。morning after cutting my hairでの自分

社会課題があるところには、血の通った人がいます。一人ひとりが思いや考えを持った人間であり、その人たちが生きていくなかで生じる課題に対する解決の方法は一つではありません。

そこに生きていく人たちのことを思いながら、正解のない問いに対して、少しでも良い方向へと向かうために自分の力を生かしたい。morning after cutting my hair,Inc.(以下、morning)の共同発起人である中西須瑞化さんは、言葉の持つ力によって未来を変えていこうとしています

中西さんはなぜ社会課題に取り組むのか、言葉とどのように向き合っているのか訊いてみました。
(執筆:本多小百合 / 編集:中楯 知宏)

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中西 須瑞化 / Suzuka Nakanishi
立命館大学 文学部 言語コミュニケーションプログラム 卒業
1991年兵庫県神戸市生まれ
morning after cutting my hair共同発起人。コピーやネーミング、ブランドメイキングやLP、リリース等、幅広い分野のワーディング・ライティングを主に担う。ポエティックな物語性のある執筆も得意。そのほか、人材育成事業や企画ディレクション等も担当。
幼少期より文章表現に励み、2015年より一般社団法人防災ガールの事務局長を務めながらライター業(PRライター、コピーライター等)も兼務。自身の経験も含め「生きづらさ」に向き合い続けてきた中で、社会課題解決の支援に行き着く。2018年には作家活動も開始。見えないものに目を凝らし、耳を澄まし、誰かにとっての「一点」を残すことが人生の指針。言葉の力で人を生かすひとであり続けたい。

生きづらさに向き合うことを止めたくなかった

——中西さんが社会課題解決の支援をしたいと思ったきっかけは何だったんですか?

今でこそmorningという社会課題に特化して支援をする会社を運営していますが、そもそも「社会課題解決」とよばれる取り組みの存在すら知らずに社会人になりました。社会課題に行き着くまでには、私自身ずっと感じていた「生きづらさ」と向き合い続けたことが大きいです。

幼い頃から家庭環境があまり良い状況ではなく、友人も家庭環境が複雑な子が多かったため、「幸せに楽しく生きていくって難しいなぁ」と感じていました。小学生の頃にインターネットの世界に触れるようになって、自殺したいと話す子や不登校・いじめ・虐待に悩む子、性的マイノリティについての偏見に苦しむ子や自傷行為を繰り返す子とたくさん話すようになったこともあり、生きづらさについて考えることが多かったんです。

中学高校大学と進み、就職活動の時期になり「働く」ことを考えたときに、急にそういった「生きづらさ」が切り離されてしまうような感覚があって。やりたいことを考えても思い浮かぶことがなく、今までずっと身近にあった「生きづらさ」だけを考え続けられる人生のあり方は何かないのかと、すごくモヤモヤした気持ちを抱えていました。

このままモヤモヤと向き合わず就職してしまったら、どこかで後悔するかもしれないし、心のバランスを崩してしまうかもしれない。納得感がないまま決断するのは嫌だったので、本当に私が知っている「就職」しかないのか、もっとどうにかして生きている人がいるんじゃないかと思い、1年間休学していろんな人に会いに行きました。そのうちの1人がmorningを一緒に創業した美咲さんでした。

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——田中さんとの出会いが社会課題に行き着いたきっかけだったんですね。

そうですね。当時彼女は一般社団法人防災ガールを運営していて、本当はみんな知っておいた方がいいはずの防災情報が現状としてはまったく伝わっておらず、よりわかりやすく楽しく伝えていきたいと語ってくれました。大学時代に入っていた学生団体の活動の根幹とも近しいものを感じて、最初はボランティアでメンバーとして活動するようになったんですが、その後法人化する際に声をかけてもらって仕事として参加するようになりました。それが社会課題解決の世界に入ったきっかけです。

——休学前に感じていた「生きづらさ」と「働くこと」は防災ガールでどう繋がったんですか?

これは防災ガールの事務局長として活動する中で気づいたことなのですが、防災は災害対策の話ではなく、人間が生きるための力をつける活動だと捉えられるんじゃないかなと思うんです。防災を生きるための力のひとつだと考えると、幼い頃からずっと身近にあった生きづらさに対して感じる課題、「生きたいのに、そのための選択肢を知らないが故に死しか見えなくなってしまう」という課題を減らすことにも通ずるものがあるのではないかなと。

その後活動を続けていくうちに、防災だけでなく、もっといろんなテーマや分野に取り組める組織体をつくりたいと思うようになって、自分たちの願いをふんだんに込めた会社をつくろうという話になりました。それがmorningです。

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常に本質を問い続ける姿勢こそが私たちらしさ

——morning創業時にはどんな願いを込めたんですか?

morningが目指す世界観を表現すること、その世界観を大事にしながらもクライアントさんと一緒に物語をつくっていける会社にしたいと話し合っていました。

——世界観の表現という意味では、morningのホームページもすごく特徴的ですよね。

ビジュアルに関しては、自分たちが心地いい温度感を表現しました。人の日常の中には、普段あまり目を向けないけれど、すごく大切なものや美しい瞬間があると思っていて。実は人間が生き続けていくためには、そうした些細なものこそが大事なのではないのかと。そうした、「人間が生きていくために大切なもの」を、私たちの想いとして表現したかった。

社名の“morning after cutting my hair”も、「髪を切った次の日の朝のときめきや新たな1日への心地よい緊張感」をイメージしてつけました。

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——創業して3年経った今、morningらしさや積み上げてきた強みは何だと思いますか?

問いの量がすごく多く、視点も多様であることでしょうか。これは強みでもあるし、もしかしたら相手によっては面倒だと思われることかもしれません。クライアントさんから依頼や相談を受けても、すぐに「わかりました。その通りにつくります」とはならないのがmorningです。そこが一般的な制作会社や広告代理店とは違うところだと思っています。

社会課題を扱っていることもあり、クライアントさんもいろんなことを検討された上でご依頼いただいています。ですがそのことをわかった上で、「こういう視点で考えたらどうでしょう?」「本当にそうでしょうか?」と問いかけます。常に問い続ける姿勢を持ちながら仕事をするところは、morningのすごくいいところだと思っています。

——例えば、どんなことを問いかけていくんですか?

クライアントさんに対しては、「そもそもどうしてこの活動をやろうと思ったんですか?」といった「そもそも」のところから話を始めます。「それだったら、こういう表現もできますよね」という提案もしますし、課題に関してもお話を伺った上で、「純粋で素敵な想いだけど、このプロジェクトを進めると、こういった人たちを傷つける可能性があります」といったことを一緒に考えます。批判したりプロジェクトを諦めることが目的ではなく、よりよい方法を模索して生み出していくイメージです。

——クライアントさんの想いの根本的なところを知ることがまず大事だと。

私たち自身も根本のところを知らないと一緒にいい仕事ができないし、morningのポリシーである「恋に落ちるくらい好きになった相手とお仕事をしたい」を叶えるためにも、根っこのところで共感し理解しあうことは大事です。問いかけることで、クライアントさん自身がプロジェクトや事業の先にある社会課題に対して、どんな向き合い方をされているかを見ています。大切なことは、課題に対する知識量や経験の有無ではなく、どれだけその課題に真摯に向き合おうとされているかだと思います。

——課題に対する真摯な向き合い方とはどういうものだと思いますか?

「悪い利己的」でないことが大事だと思っています。利己的でもいいと思うんです。自分のため、会社のため、事業のために社会課題という文脈を絡めたいことはあると思うし、それ自体は否定しません。だけどそういう文脈を使うからには覚悟というか、そこには人がいて、それぞれに人生や物語があり、体温のあるものを扱うんだということの意味をわかっている必要があると思うんです。単にビジネスになるという理由だけで社会課題を利用して、「人がいる」ことに対する配慮をしない姿勢はあまり好きではないですね。

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伝わらなくて当たり前の言葉を、それでも紡ぐ理由

——中西さんはコピーライティングを始め、「書くこと」を担当されることが多いと思います。言葉に関わる仕事をする上で、大切にしていることはありますか?

Webに載せる文章やプロダクトのネーミング、コピーのテキストを作ることはもちろん、ブランディングのために表に出る前の段階の言葉の整理をすることも多いんです。私はその表には出てこない言葉と向き合うことが好きで、仕事の肝でもあると思っています。

例えば会社の代表が創業時に持っていた“小さな種”って、事業をやっているうちにわからなくなってしまうことがあるんです。事業や組織は変化したとしても、根幹はこの種だったと立ち返るきっかけになります。だから小さな種でも見逃さないようヒアリングしますし、そういった想いを整理して関わる方々の共通理解となるものまで落とし込むことにすごく時間をかけます。

あと、これは社会課題に限らないのですが、言葉って表現の要素をすごく削ぎ落としたものだと思うんです。絵や写真よりも要素が少なくて、言葉だけを見せたときに相手に意図が伝わりきらず、事故が起きやすい。誤解を生んだり、誰かを傷つけたりしないように、表現方法や言葉の選び方は気をつけています。

——PRや広報の制作に関わっていると、炎上の問題も避けて通れないですよね。

言葉をメインに仕事をしていますが、「言葉はマジでなにも伝えられん」とも思っているんですよ(笑)。それこそ、動画の方がよっぽどスピーディに伝わるし、わかりやすく、伝えられる要素も多い。もちろん使い方によっては言葉だってスピーディに機能したりしますが、「伝える」ことを考えたときに、言葉の無力さや難しさを感じる場面はやはりあります。

私は言葉しかないから書くことを諦めませんが、どこかでその無力さを心に留めておく必要があると思っています。「言葉なんて伝わらなくて当たり前だ」という前提でスタートしないと、油断してしまう瞬間もあります。書いていて「なんか気持ち悪いな」と感じたら、その違和感は見逃しちゃいけない。書き手って、「こういう人が読んだらこう思うかもしれない」「この言葉はこう伝わってしまうかもしれない」と想像する力を少なからず持っていて、それは捨てずに大事にしたいですね。

——中西さんは「言葉の力で人を生かす人であり続けたい」とも話していますよね。「言葉は無力だ」と理解した上でそれでも書くことを止めないのは、どんな思いがあるんですか?

私自身が言葉に救われてきた人生だったことと、自分の能力として得意分野だからですね。morningが大切にしている「日常のなかにある、何気ないものや小さなものを大事にしたい」という世界観と似ているかもしれませんが、自分が伝えた何気ない言葉が相手の人生を支える1つの点になることもあると思うんです。

創業初期の頃、石井食品という戦後から続く大手企業さんとお仕事をしたんですが、初回の打ち合わせでお話しいただいたことに対して、素直な感想として「とてもいいですね」と言ったんですね。そうしたら、担当の方は当然のことだと思っていたらしく、すごく感動してくれて。こうした何気ない一言が相手のモチベーションになって変わっていくことを何度も体験していて、言葉ってすごくパワーを持っていると思うんです。

なんでもそうですけど、力って良くも悪くも使えるじゃないですか。であれば、会社や事業をより良い方向に、社会課題だったらより本質的な解決に向かうように使えたらいいですよね。言葉が好きだからこそ、悪い方に使われてしまうのはすごく悲しい。私自身は丁寧に言葉を紡げる書き手でありたいと思っています。

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世の中をいい方向に持っていく仲間として

——これからクライアントさんと何を目指していきたいですか?

これからの時代、どんな企業、団体、立場の人でも社会課題と関わることになると思うんですね。社会課題の扱われ方が、今ほど特別なものでなくなっていく。そうなったときに、活動を始めるきっかけが「やらなくてはいけないから」だとしても、その活動が良い方にいくか悪い方にいくか、大きな境目がくると思います。

その境目にきたときにクライアントさん自身の価値観で、ちゃんと考えられることがすごく大事。morningはそのための礎をつくるお手伝いができると思うんです。悪気がなくても本質的でない方向に突き進んでしまうことは、どんな人にも起こりうることでしょう。morningの考え方を正解として信じてほしいわけではなく、色々な見方があることをわかった上で選んで進んでほしいんです。だから、まずは正式にご一緒いただけるかどうかはさておき、1度話し相手としてお声がけしてもらえたら嬉しいですね。

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——PRを強化したいから相談するよりは、何か社会課題に取り組むときにはまず1回相談してほしいと。

1度お話しするだけでお伝えできることはあると思いますし、「良い方向に向かっていくために支えてほしい」と依頼に繋がればもちろんすごく嬉しいです。morningは教育や人材育成事業も始めていますが、それは世の中がグッといい方向にいくための仲間が増えてほしいと思っているから。社会全体として、いい流れにしていきたいんです。

代表の田中が『SOLIT』というオールインクルーシブを目指したファッションブランドも立ち上げていますが、ここのPRも担う中で、やはり事業を企画から一緒にやれるといろんな表現に取り組めるんだなと実感しています。

PRってすでに形が決まっているものを一緒に広めていくイメージがあるかもしれませんが、広める前の段階のどういう表現をしていくか、どういう世界観でやっていくのがいいのか、会社のいいところや面白いところはどこだろうといったところから一緒に見つけていくことがPRの本質だと思うんです。morningのメンバーはみんなそういった議論が好きなので、伝え方で困っている方は気軽にご相談いただけると何かしらお役に立てると思います。



執筆:本多小百合
編集:中楯 知宏


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SDGsへの向き合い方

Consulting for Social challenges with Love. based in TOKYO & SHIGA, JAPAN. ///// 世の中にある「課題」に挑む人たちの想いを伝え、感動と共感の力で、『人の心が動き続ける社会』をつくる。