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最短ルートでプロダクト開発できる顧客インタビュー手法を公開!

今年6月、掲載社数400社を超えた当社のM&Aマッチングプラットフォーム「M&Aクラウド」。買い手が募集記事を掲載し、売り手が打診するという現在のサービスコンセプトが固まるまでには、紆余曲折の道のりがありました。一時は「組織崩壊の危機」(CEO 及川談)にまで陥った当社にとって、起死回生のきっかけとなったのは、3サイクルに及ぶ顧客インタビュー。今回はその手法をご紹介します。

※2015年の会社設立からの経緯については、以下の代表2名の対談記事でもご紹介しています。

今回の話のスタートは、旧「M&Aクラウド」(売り手と買い手ではなく、売り手とM&A仲介会社をマッチングするプラットフォーム)をローンチして間もない2017年10月。思うように売り手が集まらず、登録してくれた売り手には無料で企業価値算定レポートを出すサービスも不発に終わった後、さらに新たなプロダクトを開発しかけるのですが……その最中に、社内から「待った」がかかる場面です。

及川:箱根で合宿したとき、確かあそこで「やっぱり売り手にヒアリングしましょう」ってことになった。

前川:売り手へのヒアリングは、そもそもできないと思ってやってきてたんです。要は、会社を売ろうとしている人を見つけること自体が難しいから。でも、その合宿で及川が、「いや、売ろうとしてる人じゃなくて、すでに売った人に聞けばいいんじゃないの?」と。

及川:やっぱり起業の教科書なんか読んでも、ユーザーにヒアリングをしてモノを作れって書いてあるじゃないですか。あと、サービスを実際に作っていたアラジン(荒井)にも、「見切り発車でデザインは作りましたけど、これが当たるという確信もないのに、俺はこれ以上プログラムを書けない」と言われまして。

この合宿の後、どのようにしてメンバーの気持ちを立て直し、ベクトルを合わせ、2018年4月の現サービスのローンチまでこぎ着けたのか――今回はCEO 及川(@atuhirooikawa)とCTO 荒井(@kazuhei__)の対談で振り返ってもらいました。今、まさにプロダクト開発の過程にあり、似たような壁に直面している方々のご参考になれば幸いです!

全員が信じられる「聖書」を決める

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▲CTO 荒井

――今日はまず、爆弾発言当時の荒井さんの心境から聞かせてください。

荒井 いや、爆弾発言というか……それまでのうまくいかなかったプロダクトと比べて、「今回こそは行ける」という感触を持てなかったので、「このまま進んでいいの?」と問題提起をしたんです。

及川 そこまでに小さい成功体験でもちょこちょこあればよかったんですけど……アラジンが入社してから約10カ月、失敗し続けでしたからね。アラジンの発言を聞き、僕もこれ以上、自分の勘を信じてついてきてもらうのは難しいなと感じました。その代わりに、何かみんなが信じられるよりどころが必要だと思い、提案したのが名著『Running Lean ―実践リーンスタートアップ』です。リーンシリーズの本はいろいろ読んでいた中でも、本書は特に分かりやすく実務的で、自分たちの「聖書」にふさわしいと思いました。

荒井 読んでみて、僕もいいなと思いました。あと、これに沿って進めれば、失敗したときにはどこに要因があったのか、本の内容と照らし合わせて検証できる。たとえ次でプロダクトを当てることはできなくても、その後につながる学びを得られれば、それは前進だと思いました。

――作りかけていたサービスの開発を中断し、『Running Lean』に沿って顧客ヒアリングからやり直すという決断が、今のサービスにつながったのですね。

及川 自分がよいと思ったサービスを形にしたい気持ちはもちろんありましたが、当時すでに「企業価値最大主義」を掲げていたので、そこに照らして方向転換できたのだと思います。最終目的は市場が求めるサービスを生み出すことなので、それに向けてみんなが信じられるシナリオがあるなら従うべきだと。全員が納得して方向性を決めることは、各自のコミットメントを強めることにもつながると思いました。

会社売却経験者は誰に相談したか?

――そこから『Running Lean』に書かれている通り、「顧客インタビュー」「課題インタビュー」「ソリューションインタビュー」「MVP(Minimum Viable Product:実用最小限のプロダクト)インタビュー」を進めていったのですね。

荒井 「顧客インタビュー」と「課題インタビュー」をまとめて実施したことを除けば、あとはまさに本の通りに進めました。インタビューの進め方も、冒頭、「本日は、貴重な時間をいただきましてありがとうございます」から始まるあいさつを2分で行う、といったところまで書かれていて、すごく実践的なんです。各インタビューのスケジュールはこんな感じでした。

2017/11/20-12/06 顧客&課題インタビュー(売り手6人)
2017/12/19-12/28 ソリューションインタビュー(売り手6人、買い手3人)
2018/02/13-02/27 MVPインタビュー(売り手8人、買い手3人)

――インタビュイーはどうやって見つけたのですか?

荒井 最初の「顧客&課題インタビュー」のときは、ほぼ及川さんの知り合いの会社売却経験者です。それでWeb業界の若手経営者がそろったのですが、結局、このときの人選が今の「M&Aクラウド」の強みにつながっています。

及川 不動産会社を経営する僕の父親に知り合いを紹介してもらうことも考えましたが、ここはやはりアーリーアダプターにフォーカスすべきだと思い、その選択になりました。

――「顧客&課題インタビュー」では何を聞き、何が分かったのですか?

荒井 「どんな人がどんなことに困っているか」を知るためのインタビューなので、会社売却当時のプロフィールと背景を詳しく聞きました。なぜ売却を思い立ち、実際どのように進めていったのかはもちろん、借入はあったか、家族はいたかなど、若干センシティブな情報まで教えてもらいました。

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▲インタビュー項目を検討した際のホワイトボード

インタビュー後に結果をまとめてみると、会社売却を思い立ってから実行に至るまでの相談先には、一定の優先順位があることが分かりました。

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要約すると、できれば自分で進めたい、もしくは自分の周りの信頼できる人と進めたい、そして知らない業者は怖いのでなるべく使いたくない、という人が多かった。これを踏まえて、当社が提供するサービスは、経営者が既存のM&A業者にアプローチする前、つまり、上記の1~3の間に使ってもらえるものにすべきだということが見えてきました。その前提で考えたのが、次の5パターンのサービスです。

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▲モック5パターン。上段左から、エントリー型、レポート型、買い手に関する口コミ型。下段左から、オファー型、アドバイザーオファー型

及川 これらはほぼすべて、既存の人材サービスを参考にコンセプトをつくりました。

――なぜ人材サービスを参考にしたのですか?

荒井 顧客&課題インタビューの後、経営者が売却を決意するまでの思考の流れを整理してみたんです。だいたい業績好調なときは、経営者はM&Aのことなんて考えないんですね。知り合いがM&Aしたら、情報収集してみるくらいです。それが業績が悪くなってくると、新規事業を始めたり、新しい人材を入れたりするようになり、それでもうまくいかないと「今の組織では自分のやりたいことができない」と感じるようになる。M&Aについて真剣に考え始めるのは、この段階です。「M&Aを考える経営者の心理って、転職希望者に近そうだね」という話から、各種転職メディアをM&A版に置き換えてみる発想が生まれました。

――「レポート型」も転職メディアベースですか?

及川 いえ、これはもともと作りかけていた、僕と前川さん(COO)イチ推しのサービスです。これも含めて売り手に評価してもらうため、このときはまだ残していました。

モック5パターンを携えて、再びヒアリング

――「ソリューションインタビュー」では、5パターンのデザインを見せつつ、意見を聞いていったのですね。

荒井 はい。ちなみに、5パターンのデザインは全部僕が作りました。「ソリューションインタビュー」の段階では、サービス概要さえ伝わればよく、プロのデザインスキルがなくても問題ありません。「顧客&課題インタビュー」を終えてから、2週間足らずで「ソリューションインタビュー」をスタートできたのも、自分でモックを作ったからです。

――インタビュイーは前回と同じ人たちですか?

荒井 いえ、何人か入れ替えています。M&A業者を使わず、自分たちで進めたい意向が強い人たちに絞って意見を聞きたかったので。

及川 インタビュイーを集めるために、このころセミナー型のリアルイベントも開催しました。そこで登壇してくれた買い手、聞きに来てくれた売り手とコネクションを作りつつ、「M&AはWebでできる」という認識を広める作戦です。M&Aクラウドは、決して怪しい業者ではないことを知ってもらう目的もありました。

荒井 イベント開催のおかげで、売り手だけでなく買い手ともコネクションを作れたのは大きかったですね。実は、「ソリューションインタビュー」で売り手6人に聞いた結果、今の「M&Aクラウド」に発展した「エントリー型」の評価は二番手でした。なぜ一番人気のサービスを選ばなかったかというと、買い手側の反応が心配だったんです。そこで、売り手の後で買い手にもインタビューさせてもらったところ、案の定、あまり前向きな反応は得られず、総合的に判断して「エントリー型」を採用することにしました。

及川 「エントリー型」は営業活動のハードルが高いので、当初「これは選ばれないでほしい」と内心思っていたパターンでした(笑)。でも、ちょうど「ソリューションインタビュー」をしていた時期、ネット上で面白いメッセージを見つけたんです。ある人が自分の運営しているアプリを「買ってもらえませんか?」と有名企業の社長に直接持ちかけている内容で、「すでにこういうやり取りがネットで行われているなら、エントリー型も行けそうだね」と社内で盛り上がったのを覚えています。

キャッチフレーズは「M&A版のリクナビ」

荒井 「エントリー型」に決定し、サービスコンセプトを固めていく段階で、2冊目の「聖書」として、『アジャイルサムライ――達人開発者への道』を採用しました。

今も当社の営業トークで使われている「M&A版のリクナビ」というキャッチフレーズは、このとき『アジャイルサムライ』のアドバイスに従って付けたものです。また、サービスの特長を説明するエレベーターピッチの内容も、『アジャイルサムライ』に載っていたフォーマットに則って考えました。

及川 「M&A版のリクナビ」という分かりやすいフレーズができたおかげで、自分たちの中でもイメージを合わせやすくなりましたね。

荒井 この段階からデザイン作業は社外のデザイナーに依頼したのですが、そのオリエンテーションの際にも、「M&A版のリクナビ」は便利なフレーズでした。

及川 このころデザインと開発を並行して進めつつ、「エントリー型」を前提にした営業活動も始めています。このコンセプトで本当に売り手が集まるかどうかを検証するため、1社分だけ募集記事をつくらせてもらい、Facebook広告を打って反響を見ました。結果、売り手数社から打診があり、中には実際に検討に進んだところもあって、これは見込みがあると感じたんです。

2018年1月末には、セミナー型イベントの2回目も開催しました。起業家が集まるオンラインサロンに広告を打ち、認知度アップを図ったりもしています。旧「M&Aクラウド」や企業価値算定ツールで苦い経験をしていた分、このときはかなり周到に、いろいろな布石を打っていますね(笑)。

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▲セミナー型のリアルイベント「M&AtoZ Real」

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▲オウンドメディア「M&AtoZ」もコネクションづくりに活用。ここで及川自らライターとしてM&A分析記事を書き、業界知識を増やしたことも、新サービスのコンテンツ開発に役立ちました

「何のサイトか分からない」問題に直面

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――次の「MVPインタビュー」では、ベータ版のプロダクトを触ってもらいながら、コメントいただいた形ですか?

及川 はい。こちらからはなるべく説明せず、予備知識なしで触ってもらうようにしました。

荒井 このとき、複数の人から「何のサイトか分からない」と言われたんですよね。「社長のインタビューが載っている、単なる広報媒体に見える」とか、「掲載会社のリストを見ても、それが売り手なのか買い手なのかも分からない」とか。「これは無料で使えるの?」という質問も多かったです。サイト上に売り手は無料と表示してはいたんですけど、伝わりづらかったみたいで。

――「MVPインタビュー」をしたからこそ、もらえたコメントですね。コンセプト自体が新しいサービスをつくるときには、そういう難しさがあるんですね。

荒井 それで、売り手に向けてサービスの仕組みを説明するページを新たに設けました。買収金額レンジの表示をつけたりしたのも、「MVPインタビュー」のときです。インタビューのたびに指摘いただいた点を修正し、次のインタビュー先で効果を確かめていきました。

三度目の正直! 「M&Aクラウド」が順調にスタート

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▲ローンチ時のトップ画面。当時のサービス名は「M&Aダイレクト」

――「MVPインタビュー」を経て、ついに現「M&Aクラウド」をローンチしたのが2018年4月25日ですね。

及川 記録を見ると、ローンチ時の掲載社数は19社。4月28日の時点で、売り手登録12社、打診11件になったようです。このときまだ買い手用のマイページはなく、打診があったら、買い手担当者にメールで通知が飛ぶ仕組みでした。

荒井 これも『Running Lean』に則り、ローンチ時は「MVP(Minimum Viable Product:実用最小限のプロダクト)」で進めたんです。買い手ツールをはじめ、実用最小限以外の部分については、ローンチ後に開発作業を行いました。その方が実際のユーザーの行動に即して開発できるので、よいものを効率的につくれたと思います。

及川 一度、デザインだけはフルに近い構成でつくってみてから、どの部分をローンチ前に開発し、どの部分をローンチ後に回すか、全体像を見ながら決めた記憶がありますね。

荒井 しかし、4月28日時点で、打診11件もあったんでしたっけ。

及川 ローンチ直後から確かな手ごたえが得られ、社内の一体感も高まりました。3サイクルのインタビュー以外に、並行してイベント開催したり、フライングで広告を打ったりして、早くから集客を始めていたことも功を奏したと思います。

荒井 『Running Lean』に従うことにした後は、それまでの迷走が嘘のように、ほぼ最短距離でこられましたね。成功につながったポイントをまとめると、こんな感じでしょうか。

①チームの全員が納得できる開発手法を見つける
②合意した開発手法を忠実に実践する
③サービスコンセプトを端的に表すキャッチフレーズを決める
④ローンチ前に一定数の顧客を見つけておく
⑤必要最低限の機能で、まずはローンチする

及川 「M&Aクラウド」の場合、まさにこれでしたね。これはたぶん、BtoBサービス全般に通じる部分があると思いますし、組織崩壊の危機からの立て直しにも効くことは当社で実証済みです(笑)。かつての当社のように迷路にはまり込み、早く脱出したいと思っている皆さんには、ぜひ試してみていただきたいと思います!

荒井 ちなみに当社では、今も新しい機能を作るときは、まずヒアリング、その後モックを作って再度ヒアリング、さらにリリースしてからも使ってくれたユーザー様にヒアリング、というプロセスを踏んでいます。また、大きい開発をするときは、初めにインセプションデッキを作り、PdM、デザイナー、エンジニア間で目線合わせしています。『Running Lean』と『アジャイルサムライ』、ユーザー目線での開発を追求したい皆さんにおすすめです!

※上記の顧客インタビューとサービスコンセプト検討時の関連資料をこちらにアップしています。ご興味ある方はご覧ください。

※M&AクラウドではPdMを募集しています。詳しくは、以下Wantedly記事をご参照ください。


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