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旅レポート#002:私たちはどう生きるのか 〜吉野源三郎、梨木香歩、そして宮崎駿へ〜

ほんとうのリーダーが自分自身であると気づくことができ、楽な気持ちになれました
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自分のあやふやなイメージから、言葉屋さんが本を選んで、リストを届けてくれたときに、とても感動しました。三冊とも自分に寄り添ってくれる、素敵な家族のような存在です。
                         Sさん/富山県/学生

今回のご感想より


今回選書した本たち

みなさん、こんにちは。街の言葉屋です。
新たな読書体験をご案内する「旅する人文知」!
今回はその2例目の事例報告をお届けします。

スタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』は、もうご覧になりましたか。今回の旅は、期せずして、この映画に深く関係する内容となりました。すでに観た方も、これから観る方にとっても、発見のある選書内容かもしれません。

それでは今回の旅の模様を、どうぞご覧ください。


【今回の旅人】

 Sさん/富山県/学生

【選択コース】

「共に旅する人文知」3つのコース

 ◎ 星空コース:聴取・選書・読解・相読
   井戸コース:聴取・読解・相読
   地図コース:聴取・選書

【回数・実施形態】

・ヒアリング
・70分セッション×3
・オンライン

【お値段】

モニター期間につき、お客様の付け値
書籍購入に充てさせていただきます、感謝🙏

【今回のオーダー】

“自分”というものを持てる人になりたい。
価値観というぼんやりした言葉を、もう少しくっくりさせて、指針を持ちたい。

【今回のキーワード】

強さと弱さ・価値観・自由・戦争・リーダー

【巡ったテクストたち(選書リスト)】


今回選書した本たち。左上から時計回りに①②③の順

① 梨木香歩 『ほんとうのリーダーのみつけかた』
② 梨木香歩『僕は、そして僕たちはどう生きるか』
③ かこさとし『未来のだるまちゃんへ』
 + 副テクスト① 宮崎駿『君たちはどう生きるか』
 + 副テクスト② 吉野源三郎『君たちはどう生きるか』

【旅の記録】

● 自由と戸惑い、Sさんの場合

大学入学直後、私自身がそうであったように、突如与えられた「自由」に戸惑う学生も多いのではないでしょうか。Sさんもまた、その「自由」をやや持て余している一人とお見受けされました。ところが、一方で強く感じられたのは「強烈に考えようとしている熱」でした。それは「考える材料が欲しい」という知への渇きにも似たもの。好きな本や、最近読んだ本は?という私からの問いに「坂口安吾。堕落論。」と答えが出てきたときには、大変驚かされました。また、その読みが大変深かったのです。以下は、ヒアリング時にSさんがくれた安吾の『堕落論』(←青空文庫に飛べます)に関する言葉です。

坂口安吾のいう「人間だから堕ちる」「生きているから堕ちる」の部分が大事で、まだ高校生だった当時、不安や恐怖で自分が何もできなくなってしまっていることが悔しかったり、そのことで周りへの罪責感とか申し訳なさで自分に嫌気がしていたのですが、それは人間だからであり、生きているからそうなんだと思えたことですごく楽になりました。

そして、そんな状態になってしまったことで、はやく立ち直らないととか、自分自身がどうなのかすらもわからなくなっていたときに、「堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない」という安吾の言葉が、これからどうしていけばいいのかわからず戸惑う自分の、心のよりどころになりました。

他にも「人間の脆弱さであったり、義士も聖女も堕ちる」とか言っている部分をみて、人間の生きることの難しさや弱さをこんな理解できる人ってすごいな、と思いました。

Sさんの事前アンケートから。強調引用者

● 「価値観」とは?「強さ」とは?戦前・戦後の転向に問う

Sさんのもつ「人の弱さ」への優しく強い眼差しに、「これは生半可な選書ではいけないな」と背筋を正される思いがしました。坂口安吾(1906-1955)といえば戦前・戦中・戦後を生き、そこに生きる人間の有り様をよくよく観察した作家です。声高に「戦争あるのみ」と言っていた人間たちが、戦後「自分は最初から戦争反対だった」と悪びれもなく手のひら返しする様を目の当たりにした人は、坂口安吾以外にも数多かったはずです。

戦争か・・・。聞けば、ジブリ作品も好きだというSさん。そして7月に公開を控えていた宮崎駿監督作品『君たちはどう生きるか』の原作たる吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』も、漫画版を読んで面白かったとのこと。ここで、選書内容が決まりました。

今回のメイン本『ほんとうのリーダーのみつけかた』

今回のメインとしたのは『西の魔女が死んだ』でも有名な作家・梨木香歩さんの『ほんとうのリーダーのみつけかた』。こちらは梨木さんによる講演会の記録。ごく短く、目を通すだけなら30分ほどでも終えられそうな分量の本です。ところがどっこい、それはただ「目を通す」だけならばの話。しっかり読むのだとしたら、かなりの時間と思考力を要する内容になっています。

それもそのはず。こちらの講演会は、梨木さん自身が「『君たちはどう生きるか』という吉野さんの問いかけへの私なりの一つの答えの意味合い」(p.4) も込めて書いた『僕は、そして僕たちはどう生きるか』の文庫化にあたって開かれたもの。坂口安吾も、そして吉野源三郎も正面から向き合ったであろう「戦争と価値観」という題材について、梨木さんが強く巡らせた思考が綴られているのです。

吉野さんの『君たちはどう生きるか』は、一九三七年、昭和十二年に出版された本です。この年は盧溝橋事件などが起こり、日中戦争へと突入、ファシズムの軍靴(引用者ルビ;ぐんか)が急速に大きくなり響いた年でした。そういう世のなかに危機感を感じた、著者の周囲の出版に関わる大人たちが、若い人へ向けて出した本の一冊でした

『ほんとうのリーダーのみつけかた』 p.4

こうした背景のもと1937年に出版された『君たちはどう生きるか』を受けて、2011年に『僕は、そして僕たちはどう生きるか』を書いた梨木さん。そして2015年の講演会を記録した『ほんとうのリーダーのみつけかた』。ここに副読本として、おなじく人々の手のひら返しに呆れ果てたという、『からすのパンやさん』などで知られる絵本作家・かこさとしさん(1926-2018)の自伝的記録『未来のだるまちゃんへ』も合わせて、今回の選書内容としました。


梨木香歩著『僕は、そして僕たちはどう生きるか』。吉野源三郎の小説とは打って変わり、
現代に生きる少年少女たちの思いや葛藤を描く。性加害の問題も描かれ、<今日的>な内容となっている


かこさとし著『未来のだるまちゃんへ』。幼少期から絵本作家になるまでのことが、社会状況と共に、かこさん自身の優しくも芯のある語り口で綴られています。


● 締めはスタジオジブリ最新作。吉野源三郎、梨木香歩、そして宮崎駿・・・

「7月に公開されるジブリの映画をしっかり見る準備」というのが、今回の裏テーマでもありました。吉野源三郎による原作を、梨木さんがいかに解釈したのか、どっぷりと組み合う。そして、後日映画館で、今度は宮崎駿監督がどのように解釈したのかを考える・・・そのような構成となりました。


吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』。本屋で見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。



梨木さんの講義録にある言葉に触れて、多くを思考していたSさん。ヒアリング時から真摯に思考し、言葉を紡いで伝えようとしていただく姿勢のおかげで、今回もまた大変充実した時間となりました。最後に、Sさんのご感想を載せさせていただき、今回のレポートを結びたいと思います。私たちはいかに生きるべきなのか…実りある時間を、有り難うございました。

【Sさんのご感想】

● 印象に残った文章・言葉

あなたの、ほんとうのリーダーは、そのひとなんです。(・・・)自分のなかの、埋もれているリーダーを掘り起こす、という作業。それは、あなたと、あなた自身のリーダーを一つの群れにしてしまう作業です。チーム・自分。こんな最強の群れはない。

梨木香歩『ほんとうのリーダーの見つけかた』 p.31

自分はずっと外側にリーダーを探して、ほんとうのリーダーを見つけることができずにいました。ですが、この言葉のおかげで「ほんとうのリーダー」をみつけることができました。外を探しても見つからないのは当たり前で、ほんとうのリーダーが自分自身であると気づくことができ、楽な気持ちになれました。そして自分が言葉屋さんに一番最初に話した「"自分"というものを持てる人になりたい」という漠然なイメージの答えな気がしました。しっかり自分の思っていることを主張できて、いいたくないことを言わされないような、自分がほんとうにやりたいことに熱中できるような、このようなことは自分のリーダーが自分である人にしかできないのだと思い、自分も強くて優しいリーダーを自分の中にもちたいと思いました。


● 日々の生活/学業/仕事に活かせそうな気づき

今回の冒険で「自分のなかに強くて優しいリーダーをもつ」という目標ができました。ひとりよがりなリーダーではなくて、誰かの力になれるような、おこがましいけど「ほんとうのリーダー」の存在に気づかせてあげれるような、そんなリーダーになりたいと思うようになり、そのためには強さと優しさが必要だと思いました。これから沢山のことを勉強して吸収していかないといけないし、自分の思うほんとうの強さとは何か、ほんとうの優しさとは何かを考えて、かたち(言葉)にしていきたいと思います。なので次は"強さと優しさ"をテーマにお願いできたらなと考えてます^^


● その他

自分のなかで漠然と思っていることが、言葉屋さんの多彩な言葉と感性でかたちになっていくことで、自分を見つめ直したり成長することができました。自分のあやふやなイメージから、言葉屋さんが本を選んで、リストを届けてくれたときに、とても感動しました。三冊とも自分に寄り添ってくれる、素敵な家族のような存在です。大切にしていきます。ほんとうに楽しい時間でした。ありがとうございました。またお願いしたいと思っているので、そのときはよろしくお願いします!




ここまでお読みくださり有難うございました。皆さんも「共に旅する人文知」、ご一緒してみませんか?気になる方はどうぞお気軽に連絡ください。現在モニター期間中、いまなら付け値でお受けします。ご連絡、お待ちしております。

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