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桃源郷 N35°35'11.24" E139°32'14.15"

『あのね、春になると、桃の花が満開になって、丘一面がピンク色に染まるんです。』

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この街のね、僕の一番好きなところはね、美しが丘西の調整区域の農業専用地域。あのね、春になると、桃の花が満開になって、丘一面がピンク色に染まるんです。ものすごいきれい。すんごいステキな場所でね、あそこが僕、好きだ。だからこの街が気に入って住みたくなった。ちょうど子どもがまだちっちゃくて、幼稚園の頃だったんだけど、住環境としても落ち着いてるし、子どもを育てるには良い場所だなと思って、引っ越しを決めたんですね。
平成七年。だからもう二十二年か、二十二年も経つんだね。

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僕が選挙に出ようと思った一番の理由は、やっぱり自分の子どもを含めてね、次の時代に良い資産を残したい、というのが大きな理由だったかな。

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桃の花の丘のすぐ下に、湧き水があるんですよ。いくつか早渕川の源流はあるんだけど、その一つがここ。宅地開発のときに、源流がつぶされそうになって、青葉土木に、源流つぶすのはやめてくれ、民間事業者にやらせちゃだめだよ、これは市の財産としてうまく管理できるようにしよう、と言って、フェンスで区切って点検できるように残した。今、どうなってるかわからないんだけど、その水がずうっと流れて早渕川に。この早渕川って、暴れ川って言われててね、でも、今六十代、七十代くらいの方が「昔ここでウナギ釣りしたんだ」とかね。それだけ水と自然が豊かな良い街でもあるんです。

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この農業専用地域は、都市農業の確立と都市環境を守ることを目的とした、国の農業振興策なんです。農業をするために環境整備したところ。だから、安易に開発してはダメですよ、ということなんです。昔は美しが丘西の上あたりも全部農地だった。当時この地域に土地を持っていた人たちは、ここは農地として残してください、ここは住宅地として開発してください、という話し合いをしたの。昭和四十年代後半から五十年代ですね。当時、区画整理事業をやられた方々は、まだまだ農業やりたいという四十代・五十代の方々だった。農家でずっと生まれ育ってきたから、農業という生業を捨てることができない。当時は反対とかもいっぱいあったんですよね。だから宅地開発のときに、農地をどっかに残してくれという要望があった。だからここに農業専用地域できあがっているというわけ。
農家にとって、先祖代々の土地を手放すっていうのは、田んぼを手放すってことで、命が削られる、とよく言われたんだよね。僕も農家の倅だからわかるんだけど、農家は、それだけ田んぼに思いがある。戦前の旧民法ではね、日本は農業国家だから、長子単独相続だったの。なんでかっていったら、本家がまるまる残っていれば、嫁に行った長女も、次女も、また分家をつくった次男も、いざという時にみんな本家を頼れるっていうね、保険制度だったの。だから、田んぼは分けないんですよ。田んぼを、長男、次男、長女らみんなで分けたら、生産効率、経済効率が悪くなるでしょ、そうすると本家がつぶれてしまう。よくね、「たわけもの!」っていうでしょ。漢字で書くと田んぼを分けると書くの。「田分け者」。ところが、戦後になってから、田んぼをどんどんどんどん分けたから、生産効率が悪くなってきた。そして土地に相続税をかければかけるほど宅地開発が進んできた。だって土地売らないと税金払えないんだもん。今はまだ、里山いっぱいあるでしょ、でもこれあと三十年したら、個人所有の里山はほとんどなくなるかもしれない。里山がなくなったら、文化がなくなる。
農業専用地域のそばの三角形の土地に、美しが丘西保木区画整理事業の歴史、という御影石の碑が建ってて、当時のいろんな人たちの思いがつまってできているこの街の歴史が書いてある。そんな歴史をもっと知りたい、っていうんで「山若会」っていう勉強会もつくりました。

横浜市は今ね、一世帯あたり年間九百円いただいてそれを財源にして、「横浜みどり税」っていう、手放さざるを得ないまとまった緑地を横浜市が事前に買い取って、そこを緑地として残そうという、努力をしてるんです。そうして街の資産をつくろうというもの。何年になるかな? もう十年近くなるかな。

山下正人

インタビュー:2017年 夏

このおはなしは2018年No.005号に収録されています。冊子をご希望のかたはご連絡ください。冊子は無料、送料180円でお送りします(5冊まで送料は同じ)。「街のはなし」プロジェクトを、スキやサポート,snsのフォローなどで応援していただけましたら大変励みになります!どうぞよろしくお願いします。

企画・文・写真: 谷山恭子
編集・校正: 伏見学・街のはなし実行委員会
発刊:街のはなし実行委員会



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