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「何のために」を見つめ直す

意識「が」低い

意識「が」低い系の思考回路

以前、noteで「意識だけ高い系」「意識が低い系」の問題を指摘しました。

自分たちでなんとかしようとしないから、国が音頭を取ろうが、目の前の公共施設が悲鳴を上げていようが「どこ吹く風」になってしまい、まちが衰退しても「どうせ自分たちの力では。。。」と誰かのせい・社会のせいにしてしまっているのではないでしょうか。

まちみらい公式note_脱・意識「が」低い系

行政(やまち)をターゲットとして書いたnoteですが、要は「自分たちのまち」を「自分たちの力で」「よくしていこう!」という思考回路でなく、他者依存・責任転嫁・事勿れ。。。なのです。
目の前の問題から目を背けたり表面的・短絡的・短期的・限定的に「その場だけ」を取り繕うとする時点でプロとして失格なわけです。

長野市の公園廃止

そんななか、目を疑うような記事がネットに掲載されていました。

青木島遊園地は2004年4月に地元から要望を受けて開設された。放課後には児童センターで過ごす大勢の子どもたちが遊びに来た。夕方の遅い時間帯には保護者たちのお迎えの車が相次いで出入りした。
だが、まもなく一部の近隣住民から「うるさい」「子どもたちが走り回ってほこりが舞い、車が汚れる」などと苦情が出るようになったという。
■対策を講じたものの
そこで市は数年かけて対策を講じた。苦情を寄せた住民の家に子どもがなるべく近づかないよう、園内に最大8メートル幅の帯状にツツジを植えた。出入り口の位置も変更。児童センターでは、子どもを迎えにきた保護者にエンジンを止めるよう呼びかけた。だが、苦情は収まらなかった。
遊園地廃止は昨年3月、苦情を寄せる住民が児童センターを直接訪れ、遊園地で子どもが静かに遊ぶ方法を考えるよう求めたことが直接の決め手になったという。

信濃毎日新聞デジタル_2022.12.2_
子どもの声がうるさいから公園が廃止…それでいいの?揺れる長野市の現地で徹底取材〈声のチカラ〉

もちろん、この記事だけでは正確な背景や今日までの細かい経緯などがわからないので、鵜呑みにするのは危険ですが。。。
という前置きをしてもやはり衝撃的なものです。

  1. 公園で子どもたちが遊ぶのがうるさい

  2. 行政が税金を投下して(効果的かどうかは別として)「物理的」な対策

  3. 一部の住民の苦情が収まらない

  4. 児童センターへ突撃

  5. 行政がギブアップして都市公園廃止(←イマココ)

都市公園法運用指針

都市公園は都市公園法第16条で次のように規定されています。

(都市公園の保存)
第十六条 公園管理者は、次に掲げる場合のほか、みだりに都市公園の区域の全部又は一部について都市公園を廃止してはならない。
一 都市公園の区域内において都市計画法の規定により公園及び緑地以外の施設に係る都市計画事業が施行される場合その他公益上特別の必要がある場合
二 廃止される都市公園に代わるべき都市公園が設置される場合
三 公園管理者がその土地物件に係る権原を借受けにより取得した都市公園について、当該貸借契約の終了又は解除によりその権原が消滅した場合

都市公園法

都市公園は(法律で規定されている場合を除き)「みだりに廃止」してはいけないこととなっています。
同法の運用指針では次のように書かれています。

都市における緑とオープンスペースは、人々の憩いとレクリエーションの 場となるほか、都市景観の向上、都市環境の改善、災害時の避難場所等として機能するなど多様な機能を有しており、緑とオープンスペースの中核となる都市公園の積極的な整備を図るとともに都市住民の貴重な資産としてその存続を図ることが必要である。

都市公園法運用指針

今後は人口減少等により設置目的を十分果たせなくなる都市公園が発生することも見込まれるため、地方公共団体が、地域の実情に応じ、 都市機能の集約化の推進等を図るため、都市公園を廃止することの方が当該都市公園を存続させることよりも公益上より重要であると、客観性を確保しつつ慎重に判断した場合については、「公益上特別の必要がある場合」と解して差し支えない。

都市公園法運用指針

今回の事案は、この都市公園法及び運用指針に該当するのでしょうか?
合法的な意思・政策決定となるのでしょうか?

2022.12.9追記

今回の青木島遊園地は「都市公園法に基づく都市公園ではない」そうです。
例規集を見る限り「〇〇遊園地設置及び管理に関する条例」は見当たらないため、公の施設にもなっていないと思われます。
公の施設ではないため、廃止する手続きとして議会の議決は不要で、執行権の範囲でいつでも廃止することが可能です。
(公の施設に位置付けていない時点で、そもそもがかなり中途半端な位置付けにあったと言えるかもしれません。)

地元要望などを基に設置している市内521カ所の遊園地の中で青木島と同様の環境は他にないという。平沢課長は、今後、同様の場所に設置要望があった場合は「今回のような問題があったことを説明した上で、断ることになると思う」とした。

信濃毎日新聞デジタル_2022.12.9_【続報】長野市、公園廃止見直さず 小学校が校庭を提供へ

今回の1件、そして「ひとりの市民からの苦情」によって長野市は「今後は住民要望があっても遊園地は設置しない」というネガティブな判断基準をつくってしまったのです。
どうしたらできるのか?どういう配慮が必要なのか?別の選択肢がないのか?
本来は、そうしたことにこそプロとしての行政の役割が求められるのではないでしょうか?

学ぶべきこと・やるべきこと

なぜこうなるのか

行政は日々、市民生活と向き合うことから、どうしても市民の様々な意見を耳にしたり対応することが求められます。
「苦情」と見えるもの・感じてしまうことのなかには、まちの大切な課題や将来に向けたヒントも多く存在していることは間違いありません。そうした意味で、市民の声へ真摯に向き合うことは大切です。

一方で、単なるクレーマーやあまりにも自分本位な主張を繰り返し、怒声を浴びせてくるごく一部の市民がいることも事実です。ほとんどの市民は(忙しいですし、日常的に役所を相手に何かすることもないので、)特に問題がなければ役所に意見をしたりすることはありません。
自分自身も15年間の公務員生活で経験してきたことなので間違いないですが、ほぼ全ての公務員は自分にとりつく数名のクレーマーを抱えているはずです。
「ごく一部の非生産的な声≒市民の声」として錯覚したり、そうした市民であっても有権者であることから「しっかりと市民の声を聞くように」と指示する市長、幹部職や議員も残念ながら多いことから、このような恐ろしい事態が「あるあるネタ」となってしまうのです。

どうするのか?

理想論から言えば「ごく一部のクレーマー的な市民の声」に惑わされず、正しいと思うことをやろう!となるのですが、残念ながら現実的にはなかなか難しいことも多いのです。ただ、そこで諦めたら終わりです。

やはりここでも大切なのは「ビジョン」と「コンテンツ」です。

前述の事例で考えれば「都市公園は何のためにあるのか?」まずは、行政としてこの事象だけにとらわれず、みんな・賑わいなどの抽象的なマジックワードを使わないで再定義していくことです。重要なのは「あれもこれも」ではなく、ひとつに絞ることです。「周辺住民が求める静かさ」と「こどもたちが走り回る活発さ」は両立しません。八方美人でその場だけを取り繕っていると、結果的に自分たちが板挟みになり、最後には誰も幸せにならない「短絡的な廃止」しか選択肢が残らなくなってしまいます。

ビジョンを明確にしたら、それを実現していくために「何をするのか?」コンテンツを作っていくことです。
市民ワークショップもひとつの方法論かもしれませんが、「どんな公園がいいですか?」ではなく、「あなたは公園で何をしますか?(具体的にはどのような頻度で誰と訪れ、どのような時間を過ごしますか?)」を聞いていくことや、しっかりと財政的・物理的な事項や市民の声を聞く範囲など与条件を明確にした上で実施することが重要です。

更に言えば、こうした事例が発生する前からこのようなビジョンとコンテンツを明確にしたうえで、プレスなども活用しながら「我がまちの都市公園はこうしていくんだ!」と共通認識を醸成していくことです。

ビジョンは立ち戻れる原点になります。自分も都市公園ではありませんが、1回の議会で1つのプロジェクトについて8人の議員から一般質問を浴びせられたことがあります。
角度や視点は様々でしたが、ほとんどの質問は細部に関するもので議論しても見解や立場の違いで理解を得ることが難しいと判断し、「このプロジェクトの大義」だけで答弁を行い、細部については一切答えないということをしたこともあります。

いずれにしても行政としての「覚悟・決断・行動」です。
残念ですが、つまらないことでゴチャゴチャしていたり、足を引っ張りあったり、既得権益が大きな声を出しているまちから人は逃げていきます。多くの人は非生産的なことに巻き込まれたくありません。ごく一部の人たちのために大多数の善良な市民が犠牲になってはいけません。
そして、善良な市民がサイレントマジョリティだからといって甘え、上記のようなごく一部の声を重視してしまうまちに未来はありません。
人の流動性や物流が今後も飛躍的に進んでいくなかで、まちは「選ばれる」まちと「捨てられる」まちに二極化していきます。

皆さんのまちはどちらへ向かっているでしょうか?

新刊(10ページ分寄稿)が2022.11に発刊しました。

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