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優しさが欲しいの?


公共FMフェス2024in福山

概要

2024年1月17日に福山市のiti SETOUCHIで日本管財主催の「公共FMフェス2024 in 福山」が開催された。


公共FMフェス2024in福山のフライヤー

2023年8月22日に草加市で開催した第1回の公共FMフェスと同様、全国から現場で試行錯誤を続ける自治体担当者による1:1のガチトークバトルを3本、全く事前打合せもシナリオもないなかでSlidoを併用して会場参加型で行う取り組み。
イメージするのは、熊本で行われた伝説のオールナイトライブ「BEAT CHILD」

このまま行くと、このnoteの記事がBEAT CHILDで終わりそうなので。。。(今だったら絶対に中止&社会問題になるレベルw)

今回も全国各地から多くの方に参加いただき「双方向型・再現性ナッシング・ここだけの話オンリー」のリアルで熱いトークバトルが繰り広げられた。

公共FMフェス2024in福山

今回も企画した自分が全プログラムのファシリテーターを務めたこともあり、自分が聞きたいこと・知りたいことを会場参加者からのSlidoでの意見も踏まえながら徹底的に聞きまくることで、本当に多くの刺激と学びが得られた。

登壇者の発言から

・地元事業者との関係から一部の業務を包括施設管理業務の範囲から除外している
・地域を分けて発注しているが、事業者の質にバラツキが生じている
・契約後に敷地におけるトラブルが発覚して血の気が引いた
・計画よりも実践できることを少しずつやってきている
・(報道では首長が毅然とした態度で評価されていたが)担当として本当はやりたくないことだったので、炎上覚悟でやり切った
・非常に評価されていて突破力のある首長だが人の意見は聞かず(敵をあちこちに作るので)民間との連携は難しい
・優れたプロジェクトを数々展開する一方で政治的にどうにもならないものもあるが、そういうものは補助機関として割り切ってやるとともに、少しでも爪痕を残す
・行政的な手続きの順番が多少違っても形にしていくことを優先
・庁内での立ち位置をきちんと確立することが大切で、そのためには小さなことでも成果を出していくこと
・法令遵守は大切だが、できないと思っていてもどこかに突破口があり、それをうまく見つけて関係者にYESと言わせていくこと
・政治との距離感を保ちつつも、政治とリンクしたり理解を得ないとプロジェクトは回せない
・量の削減はしなければいけないが難しい。難しいところからやろうとするのではなく、目の前にある公共資産の利活用からはじめた方が良いのでは
・愛されない公共施設は不幸だし、ガムテープで補修して誤魔化してはいけない

公共FMフェス2024in福山の意見

プロジェクトをひとつずつ形にしていくこと、計画よりもプロジェクトを実践していくこと、試行錯誤しながら自分たちらしくやっていくことなどの大切さを、それぞれの視点や経験から話していただいた。

iti SETOUCHIから

iti SETOUCHI_外観
iti SETOUCHI_エントランス
iti SETOUCHI_フードビレッジ
iti SETOUCHI_マーケット
iti SETOUCHI_店舗
iti SETOUCHI_コワーキングスペース
iti SETOUCHI_サイクルショップ
iti SETOUCHI_公開通路

今回の会場は福山市のiti SETOUCHI。
経緯・概要等は下記のリンクを参照してほしいが、福山市中心部に立地していたそごうが撤退し、その後2度にわたる再生を試みたもののうまくいかず、今回は1階だけを(7年間の契約期間で)暫定利用するというもの。

約70,000㎡と巨大な建築物だが、その1フロアのみを「屋根のある公園」に見立てて利活用している。
パブリックスペースを全体の50%以上とすることを条件に賃料を安くすること、屋外空間(公開空地)の利活用をしやすくするため、屋内の通路を公開空地として換地すること(上の写真の黒い舗装部分が公開空地)、2F以上を使わない代わりに消防設備の付置義務を緩和することなど多様な工夫がなされている。

何より、ここに関わる多様なプレーヤーが魅力的で、それがこの場の空気感につながり個性溢れるコンテンツが展開されている。徐々に使いながら必要なものを整備していく柔軟さと不確定さも魅力に繋がっている。(政治的リスクや将来的な方向をどうFIXしていくのかなどの難しさも内包しているようだが、それはプロジェクトが魅力的だからこそ発生する課題であり、少しずつ丁寧に関係者が寄り添って整理していける気がする。)

意外と。。。

今回の公共FMフェスでは上記のように(ここでは記せないことも数多くあるが)非常に大きな刺激と学びがあったが、同時に感じたのは「意外と初歩的なところでコケている・勘違いしている」部分もあることだった。

既得権益や外郭団体との関係、指定管理者制度やPark-PFIなどの仕組みへの理解が不足したり運用がぎこちなかったり、庁内のごく一部のネガティブな声に引っ張られたりといった声がかなり聞かれたことである。
同時に(テーマ設定も一因になっているだろうが)公共施設等総合管理計画や市民ワークショップなどは、こうしたリアルなディスカッションでは対象にならないことも改めて感じた。

対局にあるオママゴト依存症

公共FMフェスに参加いただいた方は「ガチにプロとして生きる」とはどういうことかを直感として感じていただけただろうが、一方で全国的な動きには気になることがある。

これらのnoteでも記したように総量縮減一辺倒のザ・公共施設マネジメントにリアリティがないことは既に証明されている、わかっているはずなのに、いまだに「そこに留まろう」とする人・まちが多い。
自分が訪れたり関わった自治体でも「もう少し優しくやってほしい」「(サポートじゃなく)自分たちの答えを教えてほしい」「そんな早いペースにはついていけない」等の意見がチラホラ出され、そのうちに何故か行政に従順なアホコンサルに依存したり、理論的な学識経験者に頼ったりすることに何度か直面している。

認めてほしいの?

自分たちの計画至上主義、ザ・公共施設マネジメントをベースにした(なかにはコンサルへ丸投げして作ったものもある)公共施設等総合管理計画やこれまでの庁内・議会への説明の正当性を認めてほしいのだろうか。
自分たちがお花畑の市民説明会、市民ワークショップ、有識者委員会などの二次元の世界だけで(実践するつもりはないが役所のなかで)頑張っていることを認めてもらいたいのだろうか。

慰めてほしいの?

施設所管課から「お前らは命令するだけで手を動かさないから楽でいいよな!」、利用者市民から「生活を壊さないでくれ!」、市長や議会から「みんなの声をよく聞くように!」と多方面から色々なことを言われ、統廃合の市民説明会では罵声を浴びながら大炎上している自分たちを慰めてほしいのだろうか。
「理論的には公共施設の統廃合必要だから大変だけど頑張って。いつかは市民や議会も理解してくれるよ、皆さんはよくやっているよ」の言葉が欲しいのだろうか。

答えを教えてほしいの?

現場をやらない学識経験者や他事例の劣化コピーしかしないコンサルタントに聞いたり、形式的な有識者委員会を開いて、なんとなくそれらしい再配置計画の姿を書いてもらったり、リアリティのない諮問に対する表面的な答申を出してもらったり、「答えっぽいこと」を言ってもらいたいのだろうか。
経験知を持たないリアリティのない人たちは当たり障りのないことしか言わない・書かないし、みんな・賑わい・将来のためといった曖昧で情緒的な「答えっぽいこと」は言えるかもしれないが、直球で本質を突くことも無ければその人・まちの欠点も指摘しない。こうしたことをやっていれば傷つくことはないだろう。
「こうやればうまくいくよ」と外部の人間から答えを教えてほしいのだろうか。

誰かのせいにしたいの?

公共施設等を取り巻く環境、そして本質的な問題である「まちの衰退」は自分ではない誰かが引き起こした問題であるし、簡単には解決できないから仕方ない。
統廃合をしようとしても総論賛成・各論反対で一部の市民が猛反発するのは理不尽だし、そういう人たちが悪いとでも言いたいのだろうか。
市長が決断してくれないから、議会が理解を示してくれないからと、自分たちの襟を正せばできる小さなプロジェクトの一つもせず、行政の経営感覚の欠如が引き起こした問題であることを認識せず、誰かのせいにしたいのだろうか。

やってるフリをしたいの?

それなりに名の知れたコンサルや公共施設関連を研究分野にしている学識経験者を呼ぶことで、なんとなくやっている感を醸し出すことができる。また、そうした人たちに相談することで自分たちなりに頑張ってますよと庁内にもPRできる。
自分たちだけで悩んでいるわけではない、持っているネットワークを一生懸命使っている、理解してくれる人がいると盲信しているかもしれないが、こうした人たちは決してプレーヤーではない。リアルなネットワークや可能性はそこにはない。
それでもやっているフリをしたいのだろうか?

結局はオママゴト依存症

プロだから結果が全てであるし、プロジェクトのプロセスは前述の公共FMフェスでも明らかになったように、決して綺麗なものばかりでも理論的に解いていったものでもない。
そして、ひとつずつ現場の状況に合わせながらオーダーメイド型で試行錯誤していくしかないし、誰かが教えてくれるものでもなければ、どこかに答えが書いてあるものでもない。
三次元のリアルな世界では二次元の計画になっていない計画が通じるわけもないのに、旧来型行政の思考回路・行動原理ではうまくいかないことも証明されてきているはずなのに、いまだに二次元の世界に閉じこもってしまう。
当たり障りのないコンサルや学識経験者に依存するのは、市民ワークショップや啓発マンガでお茶を濁そうとするオママゴト依存症とほぼ同義である。
「耳の痛い話」なんかではない。純然たる事実をそのまま伝えられることにビビるようでは、自分たちが手を動かさないことを否定されてヒヨるようでは、エグい世界では全く通じないどころか、レベルの低いコンサルや学識に食い物にされてしまうだけだ。
そして、リアルな世界に向き合い自分たちが手を動かさなければ、まちは猛烈な勢いで衰退していく。

お前が選ばなかったATフィールドの存在しない、全てが等しく単一な人類の心の世界。他人との差異がなく、貧富も差別も争いも虐待も苦痛も悲しみもない、浄化された魂だけの世界。そして、ユイと私が再び会える安らぎの世界だ

シン・エヴァンゲリオン劇場版_碇ゲンドウのセリフ

居心地の良いところで安住している場合ではないし、自分たちの頭のなかで勝手にアディショナルインパクト起こしている場合ではないw

リアルな世界で生きる

行政だけでは生きていけない

2024年1月1日に発生した能登地震は、甚大な被害をまちに及ぼし多くの方の生命・財産が奪われることとなった。そのようななかで全国の自治体から職員が応援に駆けつけている。

こちらのnoteで書かれていた「神戸の経験や役立たない」こと、(配給がままならない)救援物資の荷重で体育館の床が抜けるという信じられない事態なども多分各地で起きているだろう。
今回は、比較的小規模な自治体が(帰省などで職員数も限られるなかで)被災したこともあり、指揮命令系統が十分に機能せずボランティアセンターの開設が遅れたり、支援物資が被災者の手元になかなか届かなかったり、被害実態の把握が困難になったりしている様子が伺える。

北陸地方で唯一、包括施設管理業務を実施している射水市では、震災直後の職員がまち全体の被災状況の確認・避難所の設営等の業務に忙殺されるなか、受託者である日本管財が(後回しになってしまう)公共施設の点検を延べ60名以上のスタッフを派遣して対応している。
小規模な自治体になればなるほど、平時から多くの地域プレーヤーと連携して「まちを経営」していくことが重要になるし、こうした非常時を想定したフォーメーションをどう組んでいるかが問われてくる。

実際に常総市では市民・民間事業者などとリンクした多重的な取り組みを実施しており、全職員が参加する本格的な訓練も実施している。

もはや行政だけで生きていける時代ではないし、PPP/PFIといった概念だけでなく、市民なども巻き込みながらの「まちとしての総力戦」が非常時だけではなく平時も求められている。

計画になっていない計画は意味がない

そもそもほぼ全ての公共施設等総合管理計画(だけでなく行政が作る各種計画)は、計画になっていない。
「いつ・誰が・何を・どうするのか」が示されず、「何を以て成果とするのか、どこを損益分岐点(重点投資や撤退ライン)とするのか」も定められていないので実効性云々を議論できない。

しかも、総合管理計画に至っては計画期間が総務省の策定要請で10年以上とされており、長い自治体では60年や100年といったものもあり、今生きている世代では全く計画をレビュー・モニタリングできない。
昨今の物価高騰で将来コスト推計も抜本的に見直す必要があるだろうし、新型コロナウイルスの蔓延を経験しSNSがつなぐツールとして一般化した社会では「集まる」ことを前提とした公共施設のあり方・存在意義も全く変わっている。
こうした状況にあるにも関わらず「どんな公民館がほしいですか」「将来の子どもたちに負担を残さないために公共施設の統廃合を。。。」といった世界にリアリティは全く存在しない。

日経グローカルNo.476における全国首長調査の結果では「人口減少が進む集落の集約・再編への取り組み」として「実施している_4.2%、実施していないが今後実施する可能性あり_22.8%」に対して「実施しておらず今後も実施しない_39.4%、人口減少が進んでおらず実施予定なし_9.9%」となっている。
これが総量縮減一辺倒で総務省が「要請」までしたザ・公共施設マネジメントのリアルであり、総合管理計画が全国各地の首長の意識のどこにあるのかが如実に現れている。

綺麗事では進まない

リアルな世界でプロジェクトを進めていこうとすると、驚くほどエグいことに遭遇する。エグいだけに全く合理的ではないし、どのような方向に進もうとも相当な困難と、ある意味の割り切りが要求される。
行政は「驚くほど非合理的な世界」であるし、経営感覚を持たない・プロ意識の欠如した・全く世の中を勉強しない(しようとしない)幹部職や議員も残念ながら多数実在する。しかし、そうした人たちとも折り合いをつけないとプロジェクトを前に進られないことも多い。

更に政治との関係も切り離せない。地方自治法で「財産の所有者であり総合調整権を持つ首長」と、執行部の執行権に対して「議決権を有する議会」の二元代表制が採用されている以上、補助機関としての職員はクライアントである首長に覚悟・決断・行動してもらわなければならないし、(全会一致である必然性はないが議決に必要な分の)議会の理解も得なければいけない。
バーターでいろんなものを差し出したり、軸さえブレなければ相手の主張を飲んだり一部を削ぎ落としたりしなければいけないこともある。

場面によって裏から手を回したり、あらゆる手段を風向きを見ながら講じていくことがポイントで、法令遵守は絶対要件だが、合法的な範囲においてやれることはなんでもしなければいけない。そこに「綺麗事」の世界はない。

「優しさ」はまちに対して注げ!

リアルな世界は厳しい。非合理的でうまくいかないから心も折れるだろうし、不安だらけで、やっていけば不満もあっという間に溜まっていく。
公務員時代から今日までの経験上、頑張っている姿を誰かに認めてもらったり、慰めてもらったりしたくなる気持ちも十分にわかる。答えを誰かが教えてくれたら嬉しいし、誰かのせいにして逃げ出したり、やっているフリをして異動を待ちたい衝動に駆られることもあるだろう。

「あなたを慰める優しさ」を求めるのは、リアルな世界で何もしない(していない)ことを誰かに肯定してもらいたいだけではないか。一瞬、心は和らぐかもしれないがそのことでまちが良い方向に変わるわけではない。
結果を出していくことは難しいし、公務員であれば結果を出さなくても(出そうとしなくても)クビになることはない。やらなくても「難しいから仕方ない」と優しい人たちが慰めてくれる。

しかし、自分も含めて一般市民・民間事業者は、行政が「まちに真剣に向き合い、クリエイティブにまちの中で試行錯誤しながら少しずつ良くしてくれる」ことを期待して、その対価として納税している。

まちに対して何もアクションを起こさない、ルーティン業務しかしない(しようとしない)職員(とその家族)を養うために必死になって働いて得た貴重な金を納税しているわけではない。
自分たちの経営感覚の欠如を認め、まちに真剣に向き合い、多様なプレーヤー・地域コンテンツとリンクしながら試行錯誤していくしかないはずだ。
リアリティのない外部からの「優しさ」を無垢に享受するのではなく、プロとして「優しさ」を三次元の世界でまちに還元してほしい。

実践!PPP/PFIを成功させる本

2023年11月17日に2冊目の単著「実践!PPP/PFIを成功させる本」が出版されました。「実践に特化した内容・コラム形式・読み切れるボリューム」の書籍となっています。ぜひご購入ください。
出版記念企画の「レビュー書いて超特濃接触サービス」も絶賛実施中ですので、ぜひこちらにもご応募ください。

PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本

2021年に発売した初の単著。2023年11月現在5刷となっており多くの方に読んでいただいています。「実践!PPP/PFIを成功させる本」と合わせて読んでいただくとより理解が深まります。

まちみらい案内

まちみらいでは現場重視・実践至上主義を掲げ自治体の公共施設マネジメント、PPP/PFI、自治体経営、まちづくりのサポートや民間事業者のプロジェクト構築支援などを行っています。
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