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つながり促進プログラム#02 「情報伝達だけでは終わらない,ファンづくりのための広報」

京都がもっとよくなる、もっと住みやすくなる、まちづくりの取組提案を募集し、提案の実現に向けたサポートを行う“みんなごと”のSDGs,レジリエント・シティ推進事業。

まちとしごと総合研究所では、「まちづくり団体、NPO、企業、行政、大学関係者等」の異なるセクターの様々な主体が共通のゴールを掲げお互いの強みを出し合いながら地域課題の解決を目指すための学びの場を開催しています。

2021年度の公開講座はオンラインでの3回シリーズ。今回の記事では、11月17日に開催された第2回の様子をお届けします!第2回のテーマは「情報伝達だけでは終わらない,ファンづくりのための広報」。広報はついつい後回しになりがち、届けるだけになりがちだったり、何を届けたらいいのか整理できてないことも。今回はソーシャルセクターでもビジネスセクターでも共通する広報のポイントを2人のゲストから学びました!

ゲストトーク①ファン度を上げる広報のいろは

1人目のゲストは、認定NPO法人テラ・ルネッサンスの島 彰宏さん。

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幼いころから紛争や平和を考えてこられ、平和をつくることを仕事にしたいという夢をお持ちだった島さん。テラ・ルネッサンスでは、オンラインマーケティング担当として、SNSやメールを活用したオンラインでのファンドレイジング、広報を担ってらっしゃいます。

テラ・ルネッサンスは2001年に京都で創立された国際協力NGOです。テラ・ルネッサンスの広報で大事にしてらっしゃることを、余すところなく教えてくださいました!

「広報は、ファン度を上げるためのアクションです」

ファン度とは、団体のことが好きだという気持ちのこと。活動報告書を受け取ってくれること、メールを受け取ってくれること、イベントに参加してくれること、関わってくれる期間などで、「ファン度」が計れると言います。

では、ファン度を上げるためにどのタイミングで広報をするんでしょう?
団体を支援してくれるまでの道のりをドナージャーニーといいます。

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まず団体を知って共感をする。次に情報収集。次に、応援するに値する団体だと信頼が生まれる。そしてボランティアや寄付という形で支援が成される。さらに、1度きりで終わらず何度も関わってもらう。この2回目につながるための信頼をどうつくるか、フェーズごとに必要な広報を考えます。

ドナージャーニーを細かく落とし込んだものがこちら。

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相手が団体に対していどんな想いをもっているんだろう、どんな気持ちの上がり方をするんだろう、と想定します。ファン度を測る指標が、フェーズごとの評価方法に書かれています。
このように一覧すると、どのフェーズの広報が必要なのか、とてもわかりやすいですね。

次に、何を伝えたらいいのかに関して、活動報告と感謝だと教えてくださいました。

ずっとずっと大事にしないといけないのは、活動報告と感謝だと思っています。特に感謝。ありがとうは何回言ってもいいです。どんなタイミングでもありがとうで始めます。そして活動報告は信頼をつくるために最も大事なものです。何をやっているのかわからないことが、一番信頼を妨げます。月に1回は報告したいところです」

テラ・ルネッサンスはメールマガジンとFacebookでの動画で活動報告をしてらっしゃいます。

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「あなたのおかげでこんなことができた」と明確に伝えるのがポイントだと教えてくださいました。動画は情報量が圧倒的に多いし、受け身でも見てもらいやすいので動画に力を入れてらっしゃるということです。
支援があってこそ活動が成り立つものなので、活動報告自体もお礼のメッセージとして伝えるものなんだなと、根本の姿勢に気づきました。

では、それを誰に伝えるのかを考えるときに、ペルソナをつくるのが有効だそうです。人によって響くポイントは違うもの。応援してくれる人の像をつくり、その人が自分たちのどこを応援してくれているのかを絞っていくと、広報のときに伝える言葉、見せる内容が決まってきます。

最後に、押し付けでなく相手の行動を促す広報にするために島さんが大事にされているのは、「関わってくれる人にどうなってほしいのか」を考えることだと教えてくださいました。
例えば、夏季募金キャンペーンでは、「それでも、一歩を。」というキャッチコピーで広報されました。

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「大変なんです、困っているんです、お金が必要です」だと、支援したい人の気持ちがどんよりしてしまいます。そこでつくったのは、「それでも、一歩を。」というキャッチコピー。コロナで大変だったけど、ここまでがんばってきた。だからこそもう一歩踏み出せるよね。そんな、共感を生むようなキャッチコピーを考えました。寄付をする人が幸せになる。幸せになった人が現場にいる人を応援することで、幸せが循環するんじゃないかなと思っています」

このように、伝えたい相手がどうなってほしいのかを考え抜いた広報は、思わず行動に移したくなるような、ポジティブな行動の循環を促すんだなと学びになりました。広報のポイントを細かく網羅して伝えて下さり、すでに大満足になったところで、今度は潮崎さんから、より多くの主体を巻き込む広報について教えてくださいました。

ゲストトーク②多くの主体を巻き込む広報

2人目のゲストは、認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長の潮崎 真惟子さん。

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潮崎さんも学生時代から途上国の貧困問題、国際協力への関心をお持ちでした。企業やNPOの社会課題解決を目指した事業のコンサルティングを経て、今年の4月からフェアトレード・ラベル・ジャパンの事務局長を務めてらっしゃいます。
フェアトレード・インターナショナルは全世界で180万人以上の生産者・労働者が参加されている、フェアトレード認証の取組みです。フェアトレード・ラベル・ジャパンはその日本支部という位置づけになります。
生産者さんは市場の情報を手に入れることが難しく、価格交渉ができず安く買いたたかれ、それが原因で児童労働や環境破壊が引き起こされることがしばしばあります。そこで、ビジネスの歪みを直して、持続可能な生産を促すものがフェアトレードです。フェアトレードは市民活動の領域でも進んでおり、地域を認定するものもあるそうです。

フェアトレード商品を買ってもらうことで、まだまだ少ない日本でもフェアトレードの動きを広げていくのが潮崎さんの団体のミッション。そこで実施したのがフェアトレードミリオンアクションキャンペーン2021という取組みでした。5月をフェアトレード月間とし、全国の自治体や企業、市民団体を巻き込み、商品の購入数、イベントの参加者数、SNS投稿数などのアクションで100万を目指すものです。

実際の結果は1ヵ月間で119万アクションを達成。参加団体・企業数は86、商品販売数は100万、イベント参加者数は1万2千人を超え、大きなインパクトを与えました。


キャンペーン終了後に参加組織にとったアンケートから、うまくいった理由を分析してみます。

すると、共通のビジュアルデザイン、特設サイトの設立、多くの団体を巻き込んだことが挙げられました。

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「力を入れたのが、共通のビジュアルデザインです。同じものをたくさん置くことで、何となくブルーのチラシが記憶に残るようにしました。本屋さんでのポップや企業のWEBページ、自治体のサイト、SNSでの情報発信、イベント、レストランなど、いろんなところに使いました」

たしかに、このかわいいデザインを何度も見かけることで愛着や関心が高まる気がします。

イベントはビジネスパーソン向けのパネルディスカッションや、食に興味がある方向けのイベントなど、ターゲットを変えていろんなイベントを実施されました。

また、多くのステークホルダーを巻き込んだ秘訣は、一般消費者の方の目線に立った広報と、発信者になる導線だったそうです。

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「普段は競争相手でも、キャンペーン期間だけは一緒に取り組めるように、協働できる体制を整えました。デザインの方向性は自団体の目線ではなく、関心をもってもらうために可愛さ、楽しさを前面に押し出しました。あえて生産者さんの写真は下にスクロールしないと出てこないようにして、楽しさから入ってフェアトレードの意義を知ってもらう流れに変えたんです

このように、消費者の方の目線に立った広報の戦略は多くの団体を仲間として巻き込む力があることを学びました。

さらに、今まで情報を聞いてもらう側だったステークホルダーに、SNSに投稿するときの枠、ポップ、フライヤーといった「発信の武器」を提供することで、発信者になってもらうようにもされました。

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「自分が発信のすべてを担うのではなく、発信者を増やすということです」

あくまでも自然に、多くの主体を運営側に引き込む潮崎さんの広報の仕方は、島さんの「ファン度を高める」こととも近いのかなと感じました。

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ゲストトークセッション

続いてはゲストトークセッション。参加者からの質問もすべて拾って、丁寧に疑問を解いてくださいました。

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情報を届けたい相手を知り、整理するコツは何でしょう?

「関わってくれている人にアンケートを取ります。簡単なアンケートを作って、自分たちの団体のどこが好きかや性別を聞きます。大まかな支援者像が見えてきたところで、それに近い方に直接お話を聞き、どんな言葉が響いたのかを探りつつ、ペルソナをブラッシュアップしていきます」(島さん)

こういった簡単なアンケートと詳しいヒアリングを組み合わせた本格的な分析を2-3年に1回されているそうです。前者に関しては、既存の調査結果も使えそうです。
ちなみに、アンケートなどでお誕生日の情報を得て、お誕生日プレゼントを送ったりと、サプライズな還元の仕方もなさっていると知って素敵だなと思いました。

「情報を届ける前に、相手のことを知る方法を整えることから始めるのが大事そう」と潮崎さん。
逆のアプローチとして、どんな人に活動や団体を知ってほしいか、自分たちで勝手に定めることもできるとおっしゃいました。どちらにせよ、届けたい相手を絞ることでそこから周りに広がっていきやすくなります。

次に、広報担当として日頃大事にされていることを聞いてみました。

社会や世間がどういう空気なのかは知っておくべきだと思います。コロナ禍でより国内に目が向いている状況で、海外のためにお金集めるのはこのタイミングでいいのか、社会の空気を読まないといけません。社会に寄り添った広報をすべきです。社会でどういうことが問題になっているのかを、できるだけ肌で感じるようにしています」(島さん)
信頼感を得られるように資料を作りこんだ上で最初の打ち合わせをするのを心がけています。話す間隔が空かないように、相手がメディアに出ていたら積極的に反応したりもしています。こうやってコミュニケーションの熱を冷まさないことで連携をつなげることを心がけています」(潮崎さん)

広報において必要なスキルはあるのでしょうか?

「特別なスキルは必要ないと思います。スキルよりも想い。熱が乗っていないと伝わるものも伝わりません。そこに対して想いをもっているかが何よりも大事だと思っています」(島さん)

スキルよりもまず、本当に伝えたいと思っているかどうかだと、また根本的なことに気づかされました。そして広報の仕事は、ソーシャルセクターでもビジネスセクターでも変わりはないと言います。

「ソーシャルセクターとビジネスセクターでやっていることは変わりません。ビジネスが売れ続ける仕組みをつくっているとしたら、ソーシャルセクターは支援をしてもらい続ける仕組みをつくっている。やっていることが良い意味で変わらないと分かると、ビジネスセクターを引き込みやすいと思います。そうやってビジネスセクターとソーシャルセクターがミックスしていくと社会はもっと良くなるんじゃないかと思います」(島さん)

「ビジネスセクターとソーシャルセクターを行ったり来たりできる人材が増えるのが大事」と潮崎さんも共感。セクターの壁を超えて人材が移動しやすいようにプロボノを進めたり、学生インターン経験者で民間で働いている人とチームを組んだりして活躍できる体制をつくっているところだそうです。

このように支援の形も、寄付や参加だけでなく、スキルのシェアなどいろんな形があることが分かります。同じように、支援者の方が感じる価値や喜びもいろんな形があるということ。
支援のバリエーションを増やすためには、もっとソーシャルセクター内の交流を増やせるとよさそうです。団体同士がわからないことを相談し合ったり、活動をシェアしあったり自らほかの団体のファンになりに行ったり。そこに行ったからこそ自分のスキルが見つかりやすくなったりもするはずです。

また、広報の内容や影響力は、規模で語られることが多いと思うのですが、地域に密着した小さな活動や、すぐにファンになりづらい活動での広報のポイントは何でしょう?

「地域密着の方が、その地域の方に課題が伝わりやすいと思います。近いけど気づかれていない課題があるときに、「自分と関係があるんだ」と思ってもらえるポイントを、いかにたくさん伝えるかが大事だと思います。生活の中で関わっているポイントを少し刺激して喚起させます」
「規模感の違う団体が連携するとき、地域密着型の小さな団体と組むのは、リーチできていない層ところにリーチできるようになる点で大きな価値になります」(島さん)
「問題の構造をしっかり伝えることが自分ごとにしてもらうために大切です。加えて、私たちはわかりやすく楽しく伝わるように、デザインや漫画など表現にこだわっています」(潮崎さん)

自分たちの団体にベストな広報を考えるとき、団体の位置づけや強み、どんな問題と向き合っているのかを改めて整理する機会になりそうだなと思いました。

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ゲストのみなさん、参加者のみなさん、そしてここまで読んでくださった読者のみなさん、ありがとうございました!次回の講座で今年度の公開講座は最終回。ぜひご参加ください!

第3回
12/1(水)つながり促進プログラム#03
「共感の視点から考える,持続可能なアクションのための資金調達」



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