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良い意味で〇〇っぽさがない、杉浦非水のデザイン

はじめに ~ after展覧会「杉浦非水 時代をひらくデザイン」

こんにちは、アートブロガーの町平亮です。
2021年8月30日(月)まで島根県立石見美術館で開催中の同展覧会に行ってきました。
before展覧会の記事はこちらです。

〇〇っぽい、は嬉しいのか嬉しくないのか

印象派の画家たちの絵をここで引き合いにだすのは変かもしれませんが、
例えば、見たことのない絵でもモネっぽい、ルノワールっぽい、セザンヌっぽいと思ってしまうことがあります。当たることもあれば、もちろん外れていることもあります。J-POPでも同じようなことを思うことがあります。イントロが流れてきて、あっこの曲は〇〇さんのかな、とかありますよね。

逆に、アーティスト側の人々は正直どう感じているのでしょうか。タイアップとかなら依頼主からリクエストがあったりするので、見る側・聞く側としては耳馴染みのあるメロディーとかで、そうコレコレ、と思わず手を叩いたりします。
でも、作り手側からしたら今までとは違う一面を見せたかったり、新たな挑戦とかあえて真逆を行ってみるとか、したくなったりするのかもしれません。ただし、専業作家として仕事をしている場合はどうしても売れるかどうかも重要なポイントですし、それが一番の目的ではなくても最低ラインはあるのでしょう。だから、急に作風が変わったりすると本人は満足しても、周りの人はびっくりしてしまうのです。

では、杉浦非水のデザインはどうなのでしょうか。

切りひらいた商業デザインの道

元は日本画家を目指して東京美術学校にも入学した杉浦非水ですが、黒田清輝の奨めや当時のアール・ヌーヴォーの隆盛を間近で体験することで図案家への転向を決めました。それは自分が描きたい題材やモチーフの絵を描くのではなく、依頼主がいてアピールしたいことを伝える表現とも言えるのでしょう。そのために最適な手法を選択するために、杉浦非水は自ら様々な図案(デザイン)集のストックを作っていきます。
人物画にしても輪郭線がはっきりとした漫画のようなものから、ベタ塗りの色を組み合わせて描いたりもしています。
↓ 《東洋唯一の地下鉄道 上野浅草間開通》昭和2年(1927)

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展示会場の入り口に設置されている撮影用のパネルです。
実はこの裏面の駅のホーム内には猫が紛れ込んでいるんです。

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また、同じ猫でもこんな作風の絵もあります。

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ミュージアムショップで購入したポストカードです。
『非水創作図案集』大正15年(1926)に収められている猫のデザインです。
熊谷守一の猫の絵を彷彿とさせるような、ちょっと違いますか。ちなみに、1880年生まれの熊谷守一は杉浦非水よりの4歳年下。経歴を調べてみると1900年に東京美術学校西洋画科撰科に入学しています。そして黒田清輝や藤島武二の指導を受けていました。杉浦非水は1901年に同校を卒業しているので、もしかしたらどこかで会っていたかもしれないですね。

まとめ

図録を手繰るとその図案の多彩さに驚きます。本当に同じひとりの人間が作ったデザインなのだろうかと思います。しかし、だからこそ、杉浦非水は日本の商業デザインの第一人者のひとりとなったのでしょう。いつ何時でも依頼主の要求に答えられるように、アイデアの貯金を常に増やしていたのだと思います。晩年は教育者として後進の育成に励むとともに、自らは日本画を再び描き始めるという画家としての原点回帰もしています。人はもしかすると最後が近づくと感じたら、最初に戻りたくなるものなのでしょうか。

さて、本展は巡回展となっています。
以降のスケジュールをご紹介します。

2021年9月11日(土)~11月14日(日) たばこと塩の博物館
2021年11月23日(火・祝)~2022年1月30日(日) 三重県立美術館
2022年4月15日(金)~6月12日(日) 福岡県立美術館

なお、島根県立石見美術館の次回の企画展は、
「河井寛次郎と島根の民藝」
2021年9月11日(土)~11月1日(月)です。

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

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