唐突な暴挙 ~リターンズ~
ソイツは、もはや手のつけられなくなった、飽くことなき暴力である。人を傷付けることを厭わず、むしろ楽しんでいる。
以前、私のノートパソコンについてのお話をさせていただいた。
それは、唐突な暴挙だった。
突然、キーボードの「E」と「O」の心臓が止まったのだ。
つまり、それは私の文章作成能力が死に絶えたに等しい。
せめて「Q」などが逝ってくれればまだ私は戦えたのだが、しかし、母音という主力を2つも失ってしまえば、私は戦場に転がる赤子のようである。
相手の慈悲を請うように泣き叫ぶことしかできない。
一時期は、そのキーボードを叩く音色を高く評価された私ではあるが、今や響く音なし。
しかも、パソコンを開くパスワードに「O」を採用していたため、もはやホーム画面を眺めることすら叶わぬ。
実に、哀れ。
ただの、可能性のあった板と成り下がった遺物がそこにはあった。
黙祷。
と、思われていたのだが。
人生は劇的である。
事実は小説より奇なり。
スーパーウルトラギガント逆転の一手ベイビー。
画面内にキーボードを表示し、実際のキーボード入力を必要としない、スクリーンキーボードの輸入に成功したのである。
それ即ち、多少の使用上の面倒はあるものの、パソコンの復活に他ならない。
ビバ、異国の文化。
長崎の出島に敬礼。
ババンバ、バン南蛮、アビバビバってな感じ。
私は意気揚々と、ネットの海に飛び込もうとした。
その時、私は気付かなかったのだ。
忍び寄る、海の怪物に。
鳴り渡る、かの有名なBGMに。
私を、悲劇が襲った。
WAO!!
画面のブラックOUT!!
It's Surprise!!
デーデン、デーデンという音に続き、悲鳴が聞こえたと思ったら、私の悲鳴だった。いや、パソコンと私の混声二部合唱か。
そこには、アホな面を携えた、私の顔が映っていた。
突然、画面が消えたのである。
嘲笑うかのように、私を映し出すディスプレイ。
息の根が止まったかのように、無音となるマウス。
実際に息の根が止まった、パソコン。
二人の重傷者と一人の死者を記録した、とんでもない事件である。
後世まで語り継がれるべき、恐ろしい事件だ。
何が起きたのか、最初は全く分からなかった。
何せ、いきなり画面が消えたのだから。
私は、とりあえず再び電源ボタンに手を伸ばす。
パソコンは、問題なく立ち上がる。
何だ、ただの夢か。
面倒なパスワード入力。
ホーム画面。
さて、さっきの続きを…。
そこには、アホな面を携えた、私の顔が映っていた。
突然、画面が消えたのである。
鎖国は、終わってなどいなかった。
むしろ、刀狩りと言わんばかりに私の愛刀が奪われたのである。
ソイツは、充電の残量などお構いなしに、急に私を突き放すのだ。残された私には、何もできない。
かくして、私に訪れた2度に渡る唐突な暴挙は、私からノートパソコンを奪う形で、幕を閉じた。
今、部屋の隅で冷たくなったソイツの瞳には、もう何者も映ることはない。
この事件は、繰り返してはならない。
この世に数多あるノートパソコンに、幸あれ。
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