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冷たい雨の厳島

12:35広島発、鹿児島中央行さくら553号の車内は、落ち着いた鶯色の座席が深々としていて心地よい。
左手には明るい瀬戸内海の青が、工場地帯越しに遥か見渡せる。

今わたしは、仕事の関係で3泊4日にわたる西日本横断の旅を余儀なくされている。
淡路→広島→鹿児島を3日間で巡る弾丸旅行だ。
昨日は本降りの雨だというのに、折角だから行ってらっしゃいと、社長の親切(ああ……)で初めて宮島へも渡った。

宮島口から10〜20分おきに出ている連絡船は、純喫茶を思わせるボックス席が設けてあり、絶妙にノスタルジックである。
師走の寒さにこの雨だから、さすがに観光客はまばらと思いきや、意外に満席近い。

もちろん、吹き荒ぶ海風の中、展望席は無人。
ここで波の音だけを聴いていると、まるで霧に包まれた未踏の島を訪れるような心持ちになった。
ベックリンの絵画≪死の島≫を彷彿とさせる景色である。

着船後、昼食は同行してくださった方の計らいで、念願の牡蠣をいただくことができた。

牡蠣めしに、牡蠣のみそ汁、佃煮、かき小町(広島のブランド牡蠣)。
こんな贅沢があるだろうか、否、ない。
一口では収まりきらない牡蠣を頬張りながら、ただただ顔を綻ばせる。

牡蠣屋
https://www.kaki-ya.jp
(行き当たりばったりで入ったが、後で調べたところ評価☆4以上の名店と判明した。宮島に行かれた際はぜひ。)

参道での寄り道もそこそこに、水溜りを避けながら、烟る厳島神社へ向かう。
(伊勢神宮もだけれど、どうして参道はこんなに誘惑が多いのだろう。お土産、お菓子、揚げもみじ…)

彼の大鳥居は、不意をついてわたしたちの前に現れた。

満ちた潮の真ん中に佇み、海原に向かって梁を広げる姿は、わたしたち人間ではなく、大自然に息づく神々の訪問を、静かに待っているように見える。

本殿の、少し隙間のあいた床板からは、しんとした冷えがのぼってくる。
晴れていればおそらく鮮やかなのだろう朱色も、緑灰色の海や空に包まれて、眠るようにくすんでいる。

天候と時間の関係で早々に島を後にしてしまったが、潮の満ち引きや季節によって、これほど表情の変わる神社は他にないと聞き、今から再訪の日が待ち遠しい。
紅葉と桜の時分は、息をのむ美しさだという。

平清盛をはじめ、数々の権力者を惹きつけてやまなかった厳島神社の力の源に、その美しさは確実に含まれている。
日本人が幽美な景色を見たとき、「神々しい」と形容するのは、美しいものに神が宿ることを無意識のうちに感じ取っているからだろうか。

そろそろ、景色が海から田園風景へと移ってきた。
来たる鹿児島への思いを馳せながら、もうしばし、車窓を楽しむことにする。

#エッセイ #コラム #旅行記 #広島 #厳島神社 #神社 #旅 #日記

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