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『JUNK HEAD』をとにかく語りたい!<クリエイターなら是非観るべき>



はじめに

事の発端は、ガンプラを使ってストップモーションアニメを制作してるRihito UeさんのこのTweetを見てからでした。

個人制作から映画化だと・・?、と無性に気になり、そして待ちに待って4月1日に映画館へ足を運び視聴したのですが、、、なんかもう、とにかく凄くて、Instagramでの感想だけじゃ物足りなかったので、熱が冷めない内にここで言語化しようと思います。


あらすじ


環境破壊が止まらず、もはや地上は住めないほど汚染された。人類は地下開発を目指し、その労働力として人工生命体マリガンを創造する。ところが、自我に目覚めたマリガンが人類に反乱、地下を乗っ取ってしまう。

それから1600年──遺伝子操作により永遠と言える命を得た人類は、その代償として生殖能力を失った。そんな人類に新種のウイルスが襲いかかり、人口の30%が失われる。絶滅の危機に瀕した人類は、独自に進化していたマリガンの調査を開始するのであった・・・。(公式HPより)


魅力①: 先が読めないほどクレイジーな世界観


僕はこの映画を視聴してる間、違和感をふんだんに感じざるを得ませんでした。それは無意識の感覚だと思いますが、要因は二つあると思います。


まず一つ目は、全体的に無生物の要素で溢れていることです。

物語を簡単に説明すると、科学技術が進み、人間の生活も大きく変化した遠い未来の世界で、地下都市調査を引き受けた主人公の頭部が、ガラクタと化しながら謎に包まれた地下世界を転々と漂流する話です。

したがって、舞台の中心は大半が地下都市なため、映るのは自然と鉱物や金属ばかりで色味の少ない背景が続きます。自然的なものは最初のシーンの青空と木人間だけで、植物のような緑で青々としたものはほぼ出てきません。

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物語は未来SFに設定しているし地下の雰囲気を作るためにほぼ倉庫内で舞台セットを制作してるので、必然的に工業的な仕上がりになったのでしょう。しかし、私たちは普段の生活で多種多様な色を目にするので、この色覚の面で非日常感を感じる人も中にはいるかもしれません。



二つ目は、キャラクターデザインなどの見たことない造形や聞いたことない言語です。

映画ではマリガンという架空の人工生命体が登場するのですが、これがなかなか癖のある造形ばかりです。人間っぽい形のやつもいれば、モンスターハンターのフルフルを変形したような口だけの不気味な奴も出てきます。

人によってはこの気持ち悪さをキモカワイイと感じてハマるようですが、ここはたぶん一番好き嫌いが激しく分かれる部分だと思います。

個人的には、3バカ兄弟が一番好きで、赤マッチョの女衆とエレベーター乗務員のデザインも気に入りました。
クノコのシーンが一番キツかったです。。。



また、監督の堀貴秀氏は登場人物たちのオリジナル言語も作り、聴覚からも独特な世界観を観客に仕掛けてきます。(例えば、「おはようございます」は「シャケナツミソース」等。)

発音やイントネーションを聴いてると、ジョージア・アルメニアなどがあるコーカサス地方の言語に近いかなあ、と感じました。

おそらくオリジナル言語を作ったのは、物語の世界感を引き出させるためと、素人の演技をカモフラージュできるためと、字幕を付ければ世界でも通用するためだと思いますが、脚本を自分で書いて、その上全部にオリジナル言語を当てるのは凄まじい労力です。。。


このように、『JUNK HEAD』は私たちになじみのない世界、まさにSF特有の別世界を見せるために、視覚と聴覚を通して視聴者にガンガン仕掛けてくるため、とにかく圧倒されることでしょう。

僕は作品の世界観というか、監督の感性に鑑賞中圧倒されて、物語の先の展開を考える暇がなかったです。いや、考えたとしてもあの世界観は次どんな場面に進むのか読み取りづらいと思います。

個人的に、視聴者に展開を悟らせない技術は映画を面白く感じさせる要因の一つだと思うのですが、それを映画館で実感できたことは非常に良い体験となりました。



魅力②: 退廃な世界にも見える陽気さと道徳性(※注ややネタバレ)


『JUNK HEAD』は未来の話なのに全体的にグレーでどこか退廃的な雰囲気が漂っており、マリガンというややグロくて不気味な生命体が次々登場します。

そういう訳で、僕は映画の途中までは、「ディストピア風な世界で人類を代表して立ち向かう主人公vs謎に満ちた悪の地底人」という設定を想定していたんですが、意外にもマリガンは人類に敵対心を抱いてる感じはなく、彼らはそれぞれ地下世界を受け入れながら明るく生きてる感じがしました。

おそらく堀監督はあえて地底のマリガンたちにクスッと笑えるようなコメディ演出を施すことで、映画の印象が暗くならないように仕立てたのでしょう。


『JUNK HEAD』のこうした世界観を観てると、僕は行ったことないですが、噂で聞くキューバの情景に少し似てるのかもなあ、と感じました。

お笑いコンビ、オードリーの若林正恭さんはキューバを旅行した時の街の様子を自身の本で次のように記しています。

キューバの古びた建物達。マクドナルドやスタバやコンビニの看板が見当たらない。たまに、飲食店があるのだが、店はとても小さく鉄格子の間から食べ物を受け取っているのが見える。ハバナの旧市街に入ったのだろうか?路上のキューバ人が増えてきた。旅行番組で見たような石造りの建物が橙色の街灯に照らされている。テーマパークの中を走っているような感覚になるが、作り物ではないマジさが建物の壁に年輪のように刻まれていた。 ー『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』、p52

広告の看板がなくて、修理しまくったクラシックカーが走っている、この風景はほとんどユーモアに近い強い意志だ。
キューバの人たちの抵抗と我慢は、じめじめしていない。
明るくて強い。 ー『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』、p104


思考が単純で、ちょっかいが大好きな3バカ兄弟。

奥さんには弱いけど、部下には威勢を張る職長。

ゴミ山で残飯を拾い食い、馬鹿にされながらも忍耐強く生きるニコ。

等等、人類とは別の生命体ですが、彼らの人間と同じような行動と生き様を見てると、「なんかそんなに遠い存在じゃないな・・」と不思議と親近感が湧いてくることでしょう。


さらに興味深いことに、『JUNK HEAD』は人類が生殖機能を失うという衝撃的な設定を一方で、物語の中に宗教性や道徳性の要素を組み入れています。

例えば、「生命の木」「神様」「天国」などのキリスト教ワードは、地底人マリガンから随所で発せられます。

グロームに追いかけられた末に主人公がワームに食べられて吐き出される所も、聖書の「生きんとする者は死に、死なんとする者は生きる」っぽい演出です(ちょっと違うかも・・)。


また、道徳の部分では、「自己中心で利己的に生きる人には罰が下り、他人のために利他的に生きる人には救いがある」という場面が所々に出てきます。

その例を挙げると、うまく騙してクノコを独り占めにしようとしたサギ師や、神様と知るや否や態度を一変させて自分のお陰と威張った職長は、後々災難な目に遭っています。

一方で、8番管管理人にイスを作ってプレゼントしたり、一人だけニコに優しく接したりした主人公は、数々の危機を運と援助で生き延びています(余談ですが、3バカ兄弟はこの法則に則ってどうか救われてほしいです)。


監督がどういう意図や思想を持って脚本を書いてるかわかりませんが、何にせよ未来の退廃した世界でも徳の高い精神が生き残ってるのは素晴らしいことです。

こうした視聴者が共感できそうな部分をキャラに巧みに組み込むんだ結果、難解でシリアスそうなSFにギャップが生まれ、それが視聴者を退屈せずに最後まで観続けられる要因になったんじゃないかなー、と思います。


もしかしたら監督は、今後も景気の衰退が見込まれる日本と日本人に対して、「世知辛い世の中だけど映画のキャラたちのように明るく前を向いて、助け合って生きようよ」、と暗に伝えるのではないかな・・と思ったりして。。。



魅力③: 監督とスタッフの作品に対する惜しみない労力と情熱


今まで作品面を語ってきましたが、『JUNK HEAD』を多くの人に観てほしいと強くオススメする一番の理由は、スタッフと映画制作の部分です!


まず、『JUNK HEAD』はクレイ(粘土)やパペット人形を少しずつ動かしてコマを繋ぎ合わせるストップモーションの手法でアニメを制作してます。いわゆるコマ撮りアニメなのですが、これは普通の動画撮影と比べてとーーーっても手間がかかる技法です。

どれだけ手間がかかる作業かと言うと、例えばスタジオライカが制作した2017年公開の『クボ〜二本の弦の秘密〜』を例に取ると、一週間で制作される尺はなんと約3.3秒だったそうです!

そのアナログ技法にあえて堀監督は挑戦して、コストを抑えつつ新しい表現方法を追究しています。


さらに驚くべきことは、(もう皆さんお気づきでしょうが)堀貴秀さんは当初一人で映画制作に取り組んでいただけあって、監督・原案・キャラクターデザイン・編集・撮影・照明・音楽・声優をほぼ1人で基本的に担当してます。こんなキャスト紹介は今まで見たことがありません笑。自分の思い通りに映画を作れるとしても、これを実行するということはどれほど勇気とスタミナと情熱を必要とするか計り知れません。


僕はザ・マスミサイルというバンドの『今まで何度も』という歌が泣ける程大好きなのですが、堀監督のヒストリーを想像するとその曲の歌詞が思い出される程非常にマッチしている気がします。


堀監督のマルチタスクさがインパクト強すぎてここばかりフィーチャーされがちですが、忘れてはならないのが他の制作スタッフの存在です。

悪条件の中セットを組み立てた後、エグい量の編集を四苦八苦しながらこなした杉山さん

アニメートを短期でお手伝いするはずが、声優までやる羽目になった三宅さん

沖縄から制作に参加するも、脊髄に負担をかけながら小道具を黙々と作り続けた牧野さん

そして、彼ら主要制作スタッフ以外で少しでも制作に携わったり、映画上映に向けて宣伝に携わったりした方々

もちろん『JUNK HEAD』の発端は堀監督からですが、こういう人たちが作品づくりに協力してくれたおかげもあって、約7年の年月を経て上映に至ったのです。


映画パンフレットにはキャラの名前や物語の詳細な設定が記載されているのですが、制作時の工夫や苦労の裏側も存分に拝見できます。お値段は1500円なのですが、この1冊だけでも映画づくりの参考資料としても活用できる程なので、もし在庫が残っていたら是非購入をお薦めします。

また映画制作の裏側は、下記の牧野さんのTwitterや三宅さんのInstagramからも垣間見ることができるので、興味がある方は是非どうぞ。

三宅さんのInstagram



おわりに


自分でもびっくりする程長文になりました。ここまでお付き合い下さりありがとうございます。

『JUNK HEAD』は他の大手制作会社と比べると、確かに派手なCGが少ないし、モーションもまだぎこちない箇所も見受けられたし、キャラの表情も口を開けるだけでほぼ無表情です(キャラの顔パターンまで作っていたらさらに膨大な労力がかかるので仕方ないですが)。

でも、1人の日本人がアニメ映像を独学から始めて、低予算かつ少人数(しかも映画制作経験無し)でもここまでちゃんとしたクオリティに仕上げて一本の映画を作れるんだ、と是非映画館で鑑賞して感動してほしいです。

そして、何か作品をクリエイトして世に出したいと望んでいるすべての人は『JUNK HEAD』という成功例から勇気とチャレンジ精神をもらって、弱者でも這い上がれる可能性を信じてどんどんクリエイティブに励んでほしいです。

こう書いてる僕も、実務はないんですがデザインでも漫画でも映像でもいいから何か作品を作り続けて世に出していきたいと常々思っています。だから、『JUNK HEAD』と堀監督からはすごく勇気をもらいました。

この映画をきっかけにいろんなクリエイターが奮起され、いろんな面白い作品が世に出てくると良いですね。


ちなみに、『JUNK HEAD』は三部構成でまだ続編があるみたいです。今作の制作期間から予想すると、完成までにまた長い年月を経るかもしれませんが、また『JUNK HEAD』の住人たちに会える日を楽しみに待ってましょう。


<ファンアート作品>


J.H.ファンアート

この絵は『JUNK HEAD』の世界ではありえないと思いますが、愛すべき3バカ兄弟を偲び、せめてもの手向けとしてファンアートを描きました。


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『JUNK HEAD』ファンアートPart2は、幻となった「トゥリック至福の食事」です。物語としては最低なキャラなんですけど、赤塚作品や藤子作品に出てきそうな、憎たらくも愛嬌あるキャラっぽくてなんだか100%嫌いにはなれないんですよね。。。彼には来世で真面目で勤勉な者に生まれ変わることを期待しています。


JHファンアート3

『JUNK HEAD』ファンアートPart3は、「マッシュアップ、チケチケ姉妹(兄弟?)」です。この2体はなんか付いてくるし、腐ったクノコにがっつくし、あげないと豹変するしで、鑑賞中めちゃめちゃ不気味な印象が残ったシーンの一つでした。。。「形が似てる2体+(映画では)狭い通路+不気味」ということで、映画好きの方は何をモチーフに。。


追記


まだ書き残したいことがあります。他の人の映画の感想を見ていると、ギレルモ・デル・トロ作品(『パンズ・ラビリンス』等)みたいとか、『BLAME!』みたいと仰ってる方がちらほらいたので、堀監督はそういう所から影響受けてるかもしれません(ちなみに、監督の一番大好きな映画は『不思議惑星キン・ザ・ザ』らしいです)。気になった方はそれらの作品をチェックするのも良いと思います。

あと、僕は『サガフロンティア』というゲームの中でT260のシナリオと音楽が一番好きなのですが、『JUNK HEAD』の世界と相性ばっちしだと思います。もしサガフロわかる方はこの映画非常にお薦めです。

あと、頭だけが基本コロコロと漂流するのですが、頭部、つまり脳って自己のアイデンティティを認識する目的で超重要というか、やはりしぶといんだなー、と思わされました。こういう話は、「やりすぎ都市伝説」が好きな方はきっと『JUNK HEAD』の話も理解できるし、ハマると思います。

信じるか信じないかはあなた次第です!








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