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孤独のランチ ~お題2つでショートショート その5~ 『学校』『蛇』

 
 ――やることのない昼休みほど辛い時間はない。
 
 僕は自席で昼食を食べ終えると、一人弁当箱を片付ける。
 つい先日、田舎から都会にあるこの学校に転校してきたばかりの僕は、まだクラスに馴染めていない。
 言うまでもなく、まだ友達もいない。
 
 話をしようにも話し相手がいないし、本を読もうにも図書室の場所が分からない。
 はぁ……こんなことになるなら、家から本を持ってくればよかった。
 
 結局僕は、教室の外の廊下を徘徊したり、用を足す訳でもないのにトイレに行ったりして、必死に残り37分の昼休みを乗り切った。
 
 
 次の日、また重々しい気持ちで校門をくぐる。
なぜか校舎脇に生徒が集まり、人混みになっている。
 
 一体どうしたのだろうか?

 僕は人混みの中をかき分けて進む。
 人混みを抜けると、そこには皆が何かを避けているかのような空間があった。

 見下ろすと――そこには、蛇がいた。

 こんな都会にも蛇が出るものなのか。しかもこの蛇って……。
 少し驚きながらも僕は叫んだ。
 「皆さん、逃げて下さい! この蛇は毒蛇です!」

 皆、僕を一人残し一斉に逃げてゆく。
 でも大丈夫。ずっと田舎で暮らしていたからこういうことには慣れている。
 蛇は水をかければ驚いて逃げ出すのだ。

 僕は近くに水道がないか探す。転校してきたばかりで、どこに何があるのかまだわかっていない。

 ――あった!

 皆が逃げたことを確認し、僕は水道に一目散に走った。
 そして、その蛇口についていたホースを使ってすぐさま蛇に水をかける。

 蛇はびっくりした様子でヒクと体をうねらせると、ものすごい勢いで花壇の方へと逃げて行く。

 僕は辺りを見渡して状況を確認する。

 校庭でこの学校の体育教師らしき男が苦しそうに壁にもたれかかっていた。
 どうやら蛇にかまれたらしい。

 「大丈夫ですか!」

 僕は駆け寄って先生の足を見ると、やはり脛の部分にかまれた跡がある。

 「あぁ、だい……じょう……ぶだ。毒を……取り除かねば……」
 
 先生はそう言って傷口の部分を口で吸おうとする。
 僕はあわててそれを止める。

 「ダメです! 口に傷があると、その傷口からも毒が体に回ってしまいます。タオルで傷口を縛るので、ちょっと待っていてください」

 僕は鞄からタオルを取り出し、先生の傷口に巻いた。

 「今救急車を呼ぶので安静にしていてください」

 僕は慌ててスマホを取り出し、119番にかける。
 事情を説明すると、数分後にはもう救急車が到着した。

 先生は、病院へと運ばれていった。

 ――もう安心だ。事情も説明したし、あとは大人がなんとかしてくれるだろう。
 俺はほっと胸をなでおろした。

 予鈴のなった教室に着くと、クラスのみんなが僕のところに集まってきた。
 「蛇を追っ払ったのって君なんでしょ! すごいじゃん!」
 「え? まぁそうだけど……僕は蛇に水をかけただけで……」
 「いやいや、俺は見ていることしかできなかったんだぞ。お前、勇気あるな!」
 「それに、教師の手当もしたんだろ? すげぇよ。お前!」

 早速噂が広まっているらしい。
 僕が困惑していると、その時、担任の先生が教室に入ってきた。
 「お前ら。ホームルーム始めるぞ~」

 僕たちは席につく。

 先生が話し始めた。
 「今朝、この学校の校門付近で蛇が出たが、まだ見つかっていないらしい。あと、教師が一名、蛇にかまれたが丁寧な応急処置のおかげで無事だったそうだ」

 クラスメイトが僕の方を一斉に見てくる。
 「やっぱり、スゲ~!」

 この出来事をきっかけに、僕はクラスのみんなと打ち解けることができ、友達もたくさんできた。

 その日以来、やることがない、と重々しく昼食を食べることはなくなった。

 数日後、あの蛇は警察に捕まって駆除されたらしい。

 今となっては、あの蛇に感謝している。

<了>

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