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[010]観光の地産地消


先日のWBSで星野リゾート代表の星野佳路さんが、とある言葉を用いているのを見て、「これだよ、これこれ!」となってしまった。


今般のコロナ禍において、旅行も出張もままならない状況に追いやられ、最も打撃を受ける業種のひとつになった観光業界。
そんな観光業界は、今後大きく針路を変えなければならないのではないかといったインタビューの中で、ひとつの観光の考え方として星野さんは「マイクロツーリズム」を掲げていた。

ググってもちゃんとした和訳が出てこなかったため、本当に最近になって言われてきた言葉(もしくは造られた言葉)なのかもしれないと思ったが、その概要を説明する星野さんの言葉に聞き入ってしまった。


「マイクロツーリズム」とは、超カンタンに言うと「地元を観光すること」である。

飛行機や新幹線に乗ってどこかへ行くというのは当分考えにくい以上、この状況が続く中で始めなければいけない、星野さんが推進していくべきと考えた新しい観光のカタチなのだと思う。

ただ、この新しいカタチ、実はいつも自分たちが日々やっていることだったりする。
例えば、「会社の帰り道、一度行ってみたかった飲み屋の暖簾をくぐってみる」というのも、地元にお金を落として経済をまわす、いわば観光と仕組みは変わらない、れっきとしたマイクロツーリズムである。

つまり、地元を観光するということは、言い換えるならば、地元の魅力再発見ということになってくるのかもしれない。


昨今、多くの大学で開設が相次いでいる地域創生系の学部学科には、なるほど「観光」の言葉がその学科名や授業科目に躍っているところもある。

京都外国語大学を例に挙げれば、国際色豊かなその学風から2018年より国際貢献学部をスタートさせており、学部が抱える2学科のひとつはグローバル観光学科という名前であった。

グローバル観光学科のカリキュラムを覗けば、「ホテル事業論」「観光まちづくり論」「京都の歴史」………第3外国語まで卒業単位として用意されているのはさすが外語大といったところだが、京都好きで地方創生に関心が強い私としては、もし10年前に戻れれば絶対に受験し、入学したに違いないそんな魅力的な内容がHPには載っていた。

京都外国語大学の卒業生全員が地元を知って社会に出ていくカリキュラムに、勝手ながら”わかってるな……”となってしまった。

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(カリキュラム表は京都外国語大学HPより抜粋)


大学の学部学科トレンドもこのように変わってきた潮目、まさかコロナの影響によって地元の魅力再発見の考え方がアプローチごと見直されるとは思わなかった。

とはいえコロナ禍も相まって生活様式や雇用形態など多くの側面で撤退戦を強いられるにあたって、災害(コロナも含めましょうか)からの復旧・復興、それ以降のまちづくりにおいて、最後の砦となってくるのはやはり、”そこの地図を知っている人”ではないかと思う。

そういった事業の大がかりな立て付けを行うのは、総務省や電通といった大きな組織体だが、それはあくまで必要不可欠な存在である一方で、脇役に過ぎない。
消滅可能性都市と呼ばれる地元を少しでも快方に向かうようにする主役は、他の誰でもない地元の人たちであることをいま一度確かめる、そんなきっかけとなったインタビューだった。


1次、2次産業が盛んな地方では、いまでさえ観光地化され、オーバーツーリズムの問題が表面化するなど、観光が急速に消費されて地元の人が観光客を敬遠する事態も残念ながら顕出してきている。
しかし、地元を観光する、つまり、ちょっとお出かけをすることで、地元を救うことにつながるという考え方は面白いアプローチだと思う。

コロナの影響がもっと終息し社会情勢が落ち着けば、従来の旅行が盛んになってくるだろうが、それはまだまだ先の話になりそうで、このマイクロツーリズムについてもいま現在(2020年4月下旬)においては、共感も実行も難しい。

ただ、観光客は他の地域から来るもの、という固定概念を破って、観光を地産地消するという星野さんの考えは、コロナが落ち着いた後も注目されてほしいと願っている。



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