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親子でわかる実録童話3「猿の小惑星――ラスト・ジェネレーション」

(2014年夏「Ministry」第22号・特集「引退――そのとき、牧師と教会は」掲載)

 20XX年。目覚ましい科学の進歩により、人類は惑星間の移住を可能にしていた。教勢の低迷にあえぎ閉塞感に覆われた地上の教会は、新たな宣教の地を求めて、大気圏外へと乗り出した。銀河派遣宣教師の誕生である。――この物語は、これまでの取材で得られた複数の証言をもとに、再構成してお送りするSF短編小説。これは、他愛もないおとぎ話か、それとも?

このお話に出てくる人
・平 譲治=たいら・じょうじ=(銀河派遣宣教師)
・コネリウス(ウキキ教会長老)
・オンタイ(ウキキ教会牧師)
・オンゾウシ(オンタイの長男)

 超光速宇宙船タコルス号に乗って銀河系への宣教に赴いた平譲治は、不慮の事故により、宣教に赴いた平譲治は、不慮の事故により、異空間をさまよった挙句とある惑星に不時着した。
 広大な荒れ野を40日間歩き続けた末、人間のものと思われる前近代的な集落にたどり着いた平だったが、なんとこの星では、知能の発達した猿が人類の言語と文明を駆使し、人間と同等に生活圏を形成していた。
 さらに驚くべきことに、その集落の中心にはキリスト教の教会(ウキキ教会)が建てられ、週ごとに多くの猿たちが礼拝に集い、創造主である神に祈りをささげているのだった。平は異界からの寄留者として猿たちに迎えられ、次第に信頼関係を築いていく。
 平を特に歓待してくれたのは、ウキキ教会長老のコネリウス。聖書学者でもあるコネリウスの協力で、この星のキリスト教についても少しずつ理解を深めていく。それは知れば知るほど、人類が営んできた教会共同体と酷似しているのだった。

 幾度か礼拝に通ううちに、平は不思議なことに気づく。オンタイと名乗る老猿牧師の説教が、毎週ほとんど同じなのである。繰り返し、開拓時代の自慢話が延々と1時間以上続く。高齢であるため言葉も聞き取りにくい。しかし、それについて信徒の猿たちはまったく触れようとしない。
 あるとき、平はコネリウスに尋ねた。
 「オンタイ牧師はなぜ同じ話を繰り返すのですか」
 コネリウスは小声で平の言葉をさえぎった。
 「滅多なことを言うものではない」
 その慌てぶりが尋常ではなかったので、疑念はより一層深まった。
 「滅多なことではありません。説教とは神のみ言葉を取り次ぐ働きであり、自分の話したいことを演説する場ではない。少なくとも私は神学校でそう習ってきました。猿の寿命について詳しくはありませんが、オンタイ牧師はもう身を引くべき年齢ではありませんか」
 近くで聞いていた猿たちも、にわかにざわつき始めた。互いに目を合わせ小声で何やらささやき合っている。コネリウスは思わせぶりに答えた。
 「オンタイ先生はウキキ教会創立者の子孫で、この教会をたいへん愛していらっしゃる」
 聞けば、「生涯現役」がオンタイの口癖だという。これに異を唱える猿は1人もいなかった。都合の悪いことについては「見ない、聞かない、言わない」のが猿社会の掟なのだ。なんということだ。これでは、ただただ牧師が天に召されるのを忍耐して待つだけではないか。平は部外者でありながら、その理不尽さがどうしても受け入れられなかった。

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