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コロナ禍で進化した会社、沈む会社

2020年に始まったCOVID-19のパンデミックにより、私たちの生活は激変しました。 行動が制限され、店は営業できなくなり、オフィスで働く者は通勤することができなくなりました。 当初の混乱から2年が経ち、個々の人々の忍耐と努力によって、私たちの日常に新しい秩序ができつつあります。

個人のレベルでも企業のレベルでも、このコロナ禍は、それまでの私たちの価値観を見直すきっかけを与えてくれました。 自宅での時間を楽しむことを知ってしまうと、もう以前のように通勤電車に毎日乗ったり、夜遅くまで飲みに行ったりする生活には戻れない、という声をよく聞きます。

個々の企業をみてみると、このコロナ禍にうまく対応できている企業と、そうでないところがあるのではないでしょうか。

私は現在、ITエンジニアとして外資の企業で働いていますが、コロナ禍に対応できている企業は、この2年の変化によって更に業務が洗練されて、企業として進化したように思えます。

外資系の企業は、本社が海外にあるため、もともと対面に頼らないコミュニケーションができることが不可欠です。 パンデミックの前から、海外とのコミュニケーションはメールかチャットで行い、ミーティングはカンファレンスシステムまたはビデオ会議システムを使用、文書はもちろん全てデジタルで作成、ということが浸透していました。

紙の書類が必要になることはほとんどないですが、例外があるとしたら、何かサインするときぐらいでしょうか。 その場合も最終的にはPDFファイルになります。

コロナ前はオフィス勤務が基本だったわけですけれども、当時から作業はすべて各スタッフのPCの中で完結していました。 書類の作成はそれぞれのlaptopで行い、サーバーやクラウドに保存します。 ミーティングの通知と会議室の予約も、Outlook を使って一瞬で終わります。

私自身は所属の業種がITで、仕事の内容がそもそもデジタルの世界のものなのでした。 Webアプリケーションの開発、スマホアプリの開発など、全部がPCやスマホからの作業です。

つまり、コロナ以前から、最も今のリモートワークに近い業務形態であったのが、外資系の企業(業種を問わず) と IT系企業だったのだったのだと思います。 そのため、COVID-19のパンデミックにより自宅勤務となっても、それほどの混乱もなく、スムーズに業務を遂行できています。

一番変わったのは、ミーティングですよね。 さすがにコロナ前は、自分が働いたどの企業でも、ミーティングは会議室での対面が基本でした。 ひとつのオフィス内のミーティングなら、会議室をひとつ使用する。 海外のオフィスとのミーティングとなると、向こうのオフィスの会議室とこちらの会議室をつないで話す。

リモートになってからは、ミーティングもPCを使って行うようになりました。 Teams というツール(アプリ) を使うようになったら、ミーティングもチャットも電話も全て Teams ひとつでできてしまうし、Teams と Outlook がアドインにより連動しているので、ミーティング含めたスケジュール管理は全部 Outlook に集約できます。

私は、コロナ禍で世の中がリモートワークになってからの2年の間に、すでに複数の外資系企業で働いているのですが、ITに強い会社は決まって Teams を使っているのですよ。 やはりPC環境がMicrosoftなのだから、それが一番相性がよい、のでしょう。

さらに、Teams で効率が良くなっただけでなく、その他のツール(Jira, Azure DevOps 等) との相乗効果で、アジャイル開発の生産性も高くなってきました。

これらの変化は、間違いなくコロナショックが与えてくれたものです。 リモートワーク (Work from home) を強制されたおかげで、結果として業務の質が向上したのです。 元々の社内環境が Advantage となり、リモートで無駄が減って生産性がさらに高くなり、企業としての競争力も増していると感じています。

それに対して、リモート化への対応に苦労するところがあるのも無理ないですね。 この場合、問題はどこにあるのでしょうか。 私が過去 30年の間に働いてきた、数々の日本の企業を念頭にお話ししてみます。

ある程度以上の規模の企業は、すでに(コロナ前から) ひとり 1台の PC が貸与されているのが普通ですよね? PC と個人のメールアドレスがなければ、業務にならないでしょうから。

その状態で各々が PC を持って、自宅からの勤務を開始するとき、難しいのは何かと考えてみます。 まず思いつくのは、今まで使ったこともないミーティングのアプリなどをインストールして、使っていかなければならないということですが、これって一時的なことで、実はそれほど深刻なことではない。

もっと大事なのは、「紙を使えずデジタル文書になること」、「『空気』に頼らないコミュニケーションが必要になること」 などに適応していかなければならないということ。

身にしみついた習慣だけでなく、無意識に持っている 「価値観」 や 「思考回路」 までも変えていく必要があるのです。 これはなかなか難しいことです。 ひとつの会社に長くいて、その環境に慣れきっている人ほど難しいのでしょうね。

まず紙の問題は、いわゆるペーパーレス化ということで、単純なようで、そうでもない。 文書が紙に出せず、コンピュータの画面で見るだけというのはけっこう不便だったりします。 また、すでに言われていることですが、はんことか署名については難しいですね。 日常の業務の文書では、ハンコは不要だったり、電子印(普及してきました!) でよかったりするかもしれませんが、領収書とか大事な契約書とか、やっぱり紙に印刷してハンコを押さないとダメ、な場合もあるのですね。 社会全体で、「紙でなくてもOK」 にならないと、デジタル化は進まないのでしょう。

コミュニケーションの問題、これは奥深いテーマです。 日本によくある、上下関係ありきのコミュニケーションでは、例えば会議の場で発言の内容に関係なく、立場が上の人や声が大きい人の意見が通ったりするものでした。 それがリモート会議になると、「雰囲気」 や 「空気」 は意味をなさなくなり、発言そのものにフォーカスして話を聞けるようになった、という話を聞きます。

それと関連して、「勤務態度」 とか 「実働時間」 なんてものがオフィスでは評価されがちだったのが、リモート勤務でそれらが見えなくなると、「成果物」 や 「進捗」 などで正しく評価できるようになったとのこと。 各人の実力がよく見えるようになりましたよね。

これらは歓迎すべき変化ですね。 会社に本当に必要なものは何なのか、何をやらなければならないか、そして本当の意味で貢献しているのは誰のどういう作業なのか、ということが明確になって、業務の効率もあがるでしょう。 裏を返せば、このような変化に適応できなければ、世の中の進化についていけていないということになり、消えていくことになるかもしれません。

ここで思うのは、変わっていかなければならない時、図体のでかい企業よりも中小企業のほうが有利ではないか、ということです。 いわゆる 「大企業」 のほうが、余計な荷物が多くて、大きく変わることが難しい。 特に、歴史の長い企業。

一部の大企業の中で働いてみると、経営陣の頭が固く、考え方が古いことに驚きます。

21世紀も2割が終わりそうな頃になっても、まだ 「前例がないからやらない」 と言っていたり。

朝から晩までいくつもの会議をこなしても、成果のあった会議が1つもなかったり。

グローバル企業(日本発) のグローバルな部署に、外国語(英語でなくても) のできる人間がほとんどいなかったり。

こういう、とにかくセンスのない企業に、今回のパンデミックが乗り越えられるのだろうか、と考えてしまいます。

まぁ当面は、何となく周りを見ながら、それらしいことをやって、何となく何とかなるのかもしれません。 でも、表面を取り繕っているだけでは、企業としての経験値は上がっていません。 内面的には、しっかり対応できた企業と、どんどん差が開いていく一方なのではないかと思います。

そういえば、PCがlaptopではなくdesktopだったり、シンクライアント方式だったりする企業もありました。 そういうところは、リモートワークにするために全員にlaptopを用意するだけでも大変ですよね。 大変だから、リモートにはできないのかな。 それとも、各自の私物のPCを、業務に使わせることにするのだろうか。 私だったらそんなことは受け入れ難いですが。

一般的な日本の企業についての報道を思い返すと、コロナ禍の初期は、ミーティングに Zoom を取り入れたところが多かったようで、爆発的に浸透しましたね。 それは定着しているのでしょうか。

日本版の Zoom には、ほかの国にはない 「上座」 の機能が追加されたと話題になっていました。 日本のそういった文化は、効率化の真逆にあって、Zoom などの会議アプリが提供している世界観を無駄にしてしまうものだと感じますが、それでもそうやってリモートに慣れていけているのであれば、かなり変化に対応できていますよね。

今回のパンデミックは、一生に一度あるかないかの歴史的な出来事だというだけでなく、これまで何十年と続いてきた消費社会を見直してリセットする、転換点になるのでしょう。


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