親切は伝染することを、電線のカラス様に教えられた話
ピンポーーーン。
ピンポーーーン。
朝8時前、メルカリの配送にしては早すぎる時間に、インターホンが鳴り響いた。カメラをのぞくと、お隣さんだった。
嫌な予感がした。
お隣さんの時間外訪問は、決まってコチラが何かやらかしてしまった合図だ。大雨なのに車のトランクが開けっぱなしだったり、飛んではいけない洗濯物が飛んでいたり・・・
わざわざ来なくても何の損も無いのに、こちらを気の毒に思ってインターホンを鳴らしにきてくれていた。今日は何をやらかしたのか・・・
「あの、、、カラスに生ゴミが荒らされてるみたいです」
やられた。。やらかしの中でも、特に避けたいヤツだ。
散乱した生ゴミの片付けが臭く汚く面倒なだけでなく、歩道を歩く人たちへの迷惑が尋常ではない。
その上、見られてはいけない恥ずかしいゴミたちが一定時間人目に晒される。もう拷問でしかない。
はぁ。。。
感謝の言葉もそこそこに、ホウキとちりとりを手に玄関のドアを開けた。
予想以上の惨状だった。歩道の幅いっぱいにモヤシやティッシュやアレやコレやが散りばめられている。
しかも不思議なことに、こうならないようにかけてあったはずの”おもし付きカラス対策ネット”が、なぜか歩道の真ん中に放り出されていた。
誰かが嫌がらせで外したんだろうか。。。いや、そんなはずはない。
道ゆく人に怪訝な顔をされるたびにヘコヘコ謝りながら電線を見上げると、ヤツがこっちを見ていた。
クアァ〜
クアァ〜
グアァ〜〜〜〜
早朝の住宅街に響き渡った、ヤツの声。悔しいけどよく通る。
勝どきにも聞こえたが、その見事なやり口に、なぜか怒る気にはなれなかった。きっとコチラのネットのかけ方が甘かったのだろう。
反省しながら、妻と一緒に掃除を終えた。もうこんな仕打ちはゴメンだ。
でも、次の生ゴミの日、ふたたび悲劇が。
仕事で朝早く車で移動していると、息子から電話が入った。何だろう、珍しい。ゾワゾワ胸騒ぎがした。
「さっきお隣さんが来てくれて、ゴミが荒らされてるって・・・」
なに〜〜〜〜〜〜!!!
入念にネットをかけておいたはずなのに!!
玄関先の惨状を想像して、運転しながら、首からガックリ絵に描いたようにうなだれてしまった。
引き返せなかったので、掃除は登校前の息子に任せることに。
それにしても、一週間に二度も足を運ばせてしまったお隣さんに申し訳ない。。どんな気持ちで来てくれたんだろう。
デリカシーの無い、学習しない家族だと思われただろうか。。恥ずかしい。
きっと、カラス対策ネットの掛け方がまだまだ甘かったのだ。もうこんな失敗は絶対に繰り返さない。そう心に誓った。
二度あることは、三度ある。間違いない。これは、われわれの祖先達の苦い経験から紡ぎ出された教訓なのだ。
次の生ゴミの日、三たび悲劇が起きた。。
朝8時前に窓のから歩道を眺めると、ついさっき出したばかりのゴミが散らばっているではないか!!!
お隣さんが来る前に爆速で外に飛び出た。心を込めてかけたはずのネットが、キレイに外されている。
確信した。。ヤツは、カラスは、ネットをくわえて動かせるのだ・・・!!
高度に進化したカラスの知能に驚愕した。
ゴミ袋はケンシロウに秘孔をつかれた敵キャラのように、クチバシで穴だらけにされていた。
恐ろしい。ただのカラスではない。カラス様だ。カラス様なのだ。もはや尊敬の念すら覚える。。
クアァ〜
クアァ〜
グアァ〜〜〜〜
電線から送られるあの御方の視線を背中に感じつつ、驚きと悔しさと臭さと尊敬を飲み込みながら、ひとり掃除を続けた。
四度目の失態は死に値する。もう繰り返せない。もう対策ネットではカラス様には勝てない。あの御方には勝てるはずもない!!
家族会議で、ふた付きの大きなゴミ箱を玄関前に設置することを決定した。見た目の美しさが損なわれるが、ここは美より機能だ。
決定事項は次の生ゴミの日に即座に実行された。しかも、閉めたフタの上からカラス対策ネットをかける念の入れようで。
午前中、固唾を飲んで見守った。生ごみは無事に回収されていった。流石にあの御方も諦めるしかなかったのだろう。
人間様を甘く見ると、こうなるのだ。
勝ち誇りたかったが、もう電線にカラス様はいなかった。
甘かった。本当に甘かった。
数日後、朝早く家を出ていつもの歩道を歩いていると、20メートル先の様子がおかしい。
近づいて愕然とした。生ゴミだ、生ゴミの散乱だ!汚い!酷い!臭い!
直感した。
カラス様だ。。カラス様にちげーねー。。(日本昔ばなし風)
我が家から締め出しの仕打ちを受けたあの御方が、近くの家にターゲットを変えたのだ!
さすがだ。戦略の転換がシリコンバレーのスタートアップ企業並みに速い!!
あの御方に畏敬の念を覚えながらその場を通り過ぎようとしたが、立ち止まった。
浮かんできたのだ。二度も我が家に足を運んでくれたお隣さんのことが。何の得もないのに、わざわざインターホンを押してくれたお隣さんのことが。
共感できたのだ。被害にあった方が感じるであろう怒りや落胆や臭さや汚さに。
ぎこちなく回れ右をして、前にお隣さんからしてもらったのと同じことを、そのお宅にした。
「あの、、、カラスに生ゴミが荒らされてるみたいです」
驚きと申し訳なさが混じった「ありがとうございます」の言葉をインターホン越しに受け取って、ゴミまみれの玄関を後にした。
駅に向かいながら、結構なゆるい顔でひとり笑ってしまった。
カラス様に完敗している哀れな人間様に。
カラス様がきっかけで、自分がしてもらった親切を他の人にもしてあげられたという満足感に。
誰かが親切にしてくれるのは、その人も同じ経験で悩んだり、傷ついたり、後悔したり、喜んだり、幸せを感じたりしたことがあるからかもしれない。
できごとは変えられないが、辛さは共感で軽減され、喜びは共感で膨らまされることがある。
そして、親切は伝染していく。
経験の分だけ、親切が増えていくのだ。
すべてカラス様の計らいのもと、カラス様の手のひらならぬ翼の上で踊らされていた気分だ。
背景、電線のカラス様
この手紙 読んでいるアナタ様が
幸せなことを願います🙏
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