maa坊/中野雅博 裏で作業中

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喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 14話

「だからまあ、怒る気にはなれない。でも――」  出来るなら、彼女も――。 「少しでいいから、助けてくれないか? 警察でも、どこでもいいから電話を……」  返事はしかし、別の声で遮られた。 「ほんま、女ったらしやのう」  パンチだ。もう、帰ってきたのか? いや、それ以前にもしかして盗聴でもされていたのかもしれない。タイミングが良すぎる。 「仏心なんて出すんやないぞ。お前の携帯も没収や、財布も預かっとく」  外からそんなやり取りが聞こえる。  そして徐にドアが開かれ

    • 喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~13話

      僕が連れてこられた先は雑居ビルの一室だった。場所は分からない。ワゴンには目隠しなのか黒いシートが窓に貼られていたからだ。  僕はパイプ椅子に座らされ、さっき僕を連れてきたパンチパーマに縞のスーツに身を包んだ、全身に金色の装飾品を身に付けた人物と向かい合っている。 「まずお前が未成年のゆいかをホテルに連れ込もうとしていた証拠写真や」 そう言われ僕は彼にプリントされた一枚の写真を見せられる。あの時見た閃光はカメラのフラッシュだったようだ。 「というわけでな、お前、詫び代支払

      • 喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 12話

        そろそろ陽も落ちかけた曇天の午後。。気だるげな空気が街に漂い、雨が降りそうな予感がしていた。 待ち合わせの西武新宿線横のレンガ塀に寄りかかる、恐らく東雲ゆいかと思われる女性に僕は声を掛けた。 「こんにちは! デイライトから来ました、REITOです。東雲ゆいかさんでしょうか?」 「……」 返事は無い。間違いだろうか? しかし、指定された特徴とは合致している。 その女性は艶のある黒い髪を肩まで下げ、真っ赤な口紅を塗り、全身を黒のパンクスーツで覆っている。小柄な顔に華奢でスレン

        • 喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 11話

          第三章 東雲ゆいかの監禁 喫茶ライスシャワー内。今日何度目か、数えるのも面倒になっていた電話に僕は出ていた。 「はい、ありがとうございます! 失礼します」 ハキハキと返事をした後に、僕は身体の力が抜け、スマホをカウンターに置き、うなだれる。 「あ!」 その時僕は右手側に置いておいた名刺ケースとスマートフォンを取り落としてしまった。 「拾います」 珈琲カップを持ち傍に控えていた雫さんがカップをカウンターへ置き、何も言わずにそれらを拾い上げてくれる。 「……すいま

        喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 14話

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 10話

          「は?」 そう言ったまま二階堂真琴は口を暫く開けたまま動かなくなった。 数分して、ようやく妹の方へ向き直り、マジマジと眺めたあと「本当に?」と確認するように呟いた。 それに呼応するように、彼女は小さく頷く。 「え……っと、ちょっと待って、どういう……こと?」 戸惑い、混乱、そしてわずかに感じ取れる、真相に対する恐怖。彼女の指先は微妙に震えている。 「言葉通りです。犯人は貴方のお母様でしょう」 「え、だってお母さんが、え、え、えええええええ!?」 大声を上げた彼女は梟

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 10話

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 9話

          「犯人分かったって!?」  僕の電話に出た二階堂真琴は声を弾ませそう言った。 「うん、詳しくは後で」  僕は彼女にこのライスシャワーの場所を伝える。  店の中なら彼女の警戒心も薄れるだろう、という判断からだ。それに――。 「あの――出来れば同席して頂けませんか?」  僕の方から雫さんに同席を頼んだ。 「宜しいのですか? 懺悔室でのお話は私たちだけのことで――」 「はい、でもそのほうが良いと思うのです。僕ではきっと……彼女にすべて伝えきれないかもしれません。ですから

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 9話

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 8話

          「父と母と聖霊の聖名において」  恭しく行われる儀式。肉体的なそれよりも、遥かに緊張するそれを僕は再び行う。 「では、どうぞ」  彼女はそう言うと前と同じように僕の言葉を待った。  僕は矢も楯もたまらず、今日会ったことを全て告白した。  一通り僕の話を聞いた彼女は暫く黙ったままだったが、不意に一つの名前を出した。 「ユダ、という名をご存知でしょうか?」 「ユダ、ですか? あの、キリストを裏切った、とかいう……」 「そう、一般的に知られているのはそのユダです。キリストが

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 8話

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 7話

          意味が分からない。 彼女と別れた後その言葉の意味を反芻しても全く自分の中に入ってこない。 一応僕はその言葉の意味を訊ねた。 「ですから、その華屋兄弟と私が売春したっていう証拠を見つけて下さい。お願いします!」  そう言って彼女は僕に頭を下げる。 「いや、そういうのは自分でやっているかどうか、わかるでしょう?」  自分でやっていることが分からないなんて変だ。 「ううん、詳しくは言えないけど、私は売春してないけど、してることになってるの。だからその証拠が欲しいんです」

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 7話

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 6話

          第二章 二階堂真琴の売春 彼女に対する最初の印象はそれほど悪くは無かった。 今回のお客様は実は事前に店から注意を受けていた。もしかしたら、出禁にするかもしれないから、と。しかし、目の前のベンチに座る彼女からは、まだその片鱗など見て取れなかった。  レンタル彼氏(この仕事)をする以上あまり先入観は持たないようにしようと努めている。誰がどんな事情で僕を呼び出すのか、そういうことは向こうから言わない以上詮索しないのがマナーだ。事務所を通じて最低限の情報を貰い、相手の要望を聞き入

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 6話

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 5話

          種を明かせば簡単なことだった。 僕はずっと、彼女が僕と知り合ったのは僕の登録されているレンタル彼氏のサイトを通じて、だと思っていた。でも、それは違っていたのだ。先ほどの彼女と雫さんのやり取りの中で、唯一僕の中で引っかかった言葉、『後をつけてみれば』だ。 僕は後をつけられた覚えはない。というかかなり細心の注意を払っていたと言ってもいい。自慢ではないが、他人の行動の機微には人一倍敏感なつもりだった。後をつけてここを知られたわけではない、とするなら彼女は初めから、ライスシャワーの存

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 5話

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 4話

          僕らが急いで部屋を出ると、店内に大きな石が投げ込まれて、窓ガラスが割られていた。僕はその割れた窓ガラスの外に立つ人影に気付いた。 「嘘つき」 『彼女』は、僕の姿を認めると大きな声でそう言った。 「嘘なんて……」 「嘘つき!」 先ほどよりも大きく、彼女は叫んだ。 「お店はもう閉まってるのに、なんで他の女と一緒にいるの!? 礼人は私の『彼氏』でしょ!」 「違う、この人は……」 「うるさいうるさい! 言い訳なんか聞きたくない!」 耳を抑えた彼女はひとしきり髪を掻きむしり

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 4話

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 3話

          「いらっしゃいませ」 気が付けば、僕の足はライスシャワーに向いていた。店内には誰もいない。そろそろ、終業の時間でもある。僕は何も言わず、奥の席へと座る。 暫く瞳を閉じていると――いい香りが僕の鼻腔を擽った。 「え?」 「どうぞ、サービスです」 僕の目の前に珈琲が運ばれていた。 「あ、いや、支払います。どうせ、その――」 これを注文するつもりだったのだ。何か気を遣わせてしまった気がして慌てて否定する。 「お疲れ、ですよね」 「え? いや、あの……はい」 「この店は

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 3話

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 2話

          「礼人くん!」 大学へ向かう銀杏並木の中で、現れた要詩織(かなめしおり)に声を掛けられた。 少女趣味の服装に身を包んだ彼女の姿はこの背景の中、悪目立ちしている。 「一緒にいこ!」 彼女は僕の手を取り歩き始める。 「あの……こういうことはあまりしないで欲しいって、お願いしたよね? それに今日は授業があって……」 彼女の予告のない襲撃は今回が初めてではない。 僕の予定を顧みず、待ち伏せされたことは多々あり、僕は幾度か注意し、断りを入れた。あまりこういうことはやらないで欲

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 2話

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 第一話

          あらすじ 静謐な公園の森の中にある、教会風の建物――喫茶ライスシャワー。 謎多き美しき店主、米田雫。 彼女に憧れ、今、一つの悩みを抱える青年、兼平礼人。 彼女の店ライスシャワー、その奥には『懺悔室』がある。 悩みを告白するとき、事件は形になり解きほぐされていく。 二人を巡る、恋と愛の事件とその記録の物語。 第一章 兼平礼人の憂鬱 花嫁の門出に送る米の雨。 幸せな夢を、儚い現実を、全てを祝福し花嫁は旅立つのだ。 幸せになろう。 なろうという言葉は願いを込めた希望であり

          喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 第一話

          ピッコマノベルズ大賞シーズン4抜けました。そして、その間に色々あったこと。

          というわけで、3年ぐらい商業的に死んでた泡沫作家である私の『悪の女幹部、スーパーヒーローと結婚する。』という作品がピッコマ様の賞一次抜けを果たし、連載権を頂きました。 しかしまあ、3年強ですよ3年強。ほとんど4年。こいつ遊んでなんも作ってなかったなw とか笑われて後ろ指刺されてもまあ文句言えないぐらいにはなんも表に出てません。自嘲が過ぎるかもしれませんが、消えかけの才能であった私がどのように落ち込んで色々やってここまで来たのか、愚痴にならない程度に面白おかしく書ければなと思い

          ピッコマノベルズ大賞シーズン4抜けました。そして、その間に色々あったこと。

          歌劇ファンタジア~輝きの歌姫と夢追い人形~3話

           万雷の拍手。終わらないアンコールの声。  しかし、人形姫はそれに応えることはなかった。  観客に手を振ったあと、本当に操り糸が切れるかのように彼女は倒れたのだ。    正確には、倒れる直前にそれをステラが支え、事なきを得た。  二人は寄り添いながら舞台袖に消え、その日の舞台は幕を閉じたのだった。 「レビ!」  舞台袖に戻ったと同時に彼女に駆け寄るブロンド髪の偉丈夫の男がいた。 「……お父様」 「喋らなくていい。これを飲みなさい」  レビの父、ラーズはステラからレビを

          歌劇ファンタジア~輝きの歌姫と夢追い人形~3話