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譲受後の対応を行う(PMI)

このステップに取り組むタイミング

「譲受後の対応を行う(PMI)」ステップは、M&Aの事前検討期間において、「クロージングを行う」ステップの次に取り組みます。

クロージングが完了し、M&Aのプロセス自体が完了したら早速統合の価値を最大化するためのPMIを進めます。

このステップのまとめ

PMIは、M&Aの成果を最大化するためのキープロセスです。PMIの目的は、M&Aによって期待されるシナジーを実現し、企業の価値を高めることにあります。

PMIは、企業文化、経営体制、業務プロセスなどを目的に対して、いかに最適な形で融合していくかが重要です。そのためには統合方針・ビジョン策定含む明確な目標設定、実行力の高い人材選定と推進体制構築、従業員との円滑なコミュニケーションが不可欠です。

ランディングプランで短期的な統合を行いながら、100日プランで腰を据えて短・中期目標を設定、アクションプランで実行に移し、柔軟に調整しながら進捗をモニタリングして実行していくことが必要となります。

このステップで押さえるポイント

  • PMIの概要を理解する

  • 統合方針を策定する

  • 推進体制を構築する

  • ランディングプランを策定する

  • 100日プランを策定する

  • アクションプランを進める

各ポイントの解説

PMIの概要を理解する

PMI(Post-Merger Integration)は、譲り受け後の経営、業務、及び意識の統合を指し、M&Aによる目的達成やシナジー効果の実現に不可欠な重要なプロセスです。
明確な目標設定、適切な推進体制の構築及び効果的なPMI実施が肝であり、PMIの成功がM&Aの成否を大きく左右します。

PMIは譲り受けた企業・事業価値の最大化を目的に行われます。価値を最大化していくために、どの分野をより重点的に取り組んでいくか、イメージを持つことが重要です。

分かりやすい方法としては、キャッシュフローを最大化するための事業推進、あるいは安定的な運営となるような組織構築・人材登用やガバナンス・内部統制構築などの基盤強化、どちらをより優先度が高く取り組んでいくかを、整理していくイメージが付きやすいです。

M&AではPMIが成功の鍵を握ります。多くの場合、M&Aの契約締結及びクロージングに時間を費やし、PMI準備が後手に回ることが問題となりますが、早期の統合により、M&Aプロセスの中で想定していた効果を速やかに享受することが可能になります。

PMI初期段階では、統合方針を立案し、決定することが重要となります。これには、デュー・ディリジェンス(DD)で検出した課題に対する優先的な対応方針検討も含まれます。

統合方針を策定する

PMIにおける統合方針は、M&A後の企業をどのように統合されるかの指針を定めるものです。主に「吸収型統合」「支配型統合」「連邦型統合」「放任型統合」のアプローチがあると考えられています。統合方針の選択は、目指すシナジー効果、企業文化、業務プロセスの相違などを考慮して決定されます。

  • 吸収型統合:譲り受けた企業を完全に譲受主企業に吸収させ、効率化と業務の重複排除を目的とします。

  • 支配型統合:譲受主企業が運営を主導し、迅速な統合と一貫性を求める場合に適用されます。

  • 連邦型統合:譲り受けた企業の自立性を尊重しつつ戦略的調和を目指し、異文化間の統合に適しています。

  • 放任型統合:譲り受けた企業に自由度を与え、既存のブランドや独立性を保持させます。

推進体制を構築する

PMIの推進体制は、統合プロジェクトを管理し、戦略的目標達成をサポートするために設置される専門チームや委員会を指します。
この体制は、統合の計画、実行、モニタリングを担い、異なる機能間の調整を図ります。推進体制は通常、経営層からの強力な支持を受け、クロスファンクショナルなチームで構成され、各種の専門知識を有するメンバーが参加します。

PMIの推進体制構築は、M&A成立後の統合プロセスを効率的かつ効果的に管理し、シナジー効果を最大化するために重要です。
この体制構築は、統合における課題の特定、リスク管理、および異なる企業文化の融合を支援し、統合後の新組織のスムーズな運営と目標達成を確実にします。

ステアリングコミッティは、統合プロセス全体の方向性と意思決定を監督する役割を持つ高レベルの委員会です。
主にプロジェクトの進捗状況のモニタリング、重要な問題の解決、およびプロジェクトのゴールに向けた調整を行います。ステアリングコミッティは通常、経営層や主要なステークホルダーから構成され、PMIの成功に向けた戦略的な支援を提供します。

プロジェクトオーナーは、統合プロジェクトの最終的な責任者であり、プロジェクトのビジョンと方向性を設定します。経営層から選ばれ、プロジェクトの目標達成に必要なリソースとサポートを提供します。

プロジェクトリーダーは、日々のプロジェクト管理とチームの指導を担当します。彼らはプロジェクトオーナーからの指示に従い、プロジェクトの目標達成に向けて具体的な活動を計画・実行します。

PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)は、プロジェクトの全体的な計画、管理、コーディネーションを行う中央集権的な部署です。
M&Aの目的と戦略に基づき、統合プロセスのマイルストーンやKPIを設定し、プロジェクト全体の進捗を管理します。PMOは統合の成功を確実にするために、リスク管理、問題解決、ステークホルダーとのコミュニケーションなど、幅広い活動を担います。

分科会は、特定の分野や機能に焦点を当てた小グループで、PMOと密接に連携しながら、プロジェクトの特定の分野や機能(例:人事、財務、IT、営業等)を深く掘り下げて取り組みます。分科会は専門知識を生かし、細かな課題の解決策を開発します。

PMIの成功には経験豊富な人材が不可欠です。譲受企業側からの派遣だけでなく、譲受された企業内からも適切な人材を選定し、PMIチームを構成することが重要です。異なる企業文化の融合による従業員間の軋轢を解消することも重要です。

M&Aによる不安や抵抗感を持つ従業員への適切な説明と理解の促進が必要です。従業員との積極的なコミュニケーションを通じて、理解と協力を得ることが成功に必須です。これには経営陣のリーダーシップが求められます。

ランディングプランを策定する

ランディングプランは、クロージング後3〜6ヶ月程度の短期的なタスクリストを作るというイメージを持つと分かりやすいです。

短期的に成果の出しやすい分野に集中して、譲受主企業と対象企業が連携してタスクを推進することで、両社が連携する場の土台としても活用ができます。

また、PMIの目標とスケジュールを明確にすることで、方向性が定まり、従業員の理解と協力が得られやすくなります。また、進捗管理により計画とのズレを適宜修正できます。

100日プランを策定する

100日プランは、中長期的な課題に取り組むために、クロージング後100日以内に策定する中期経営計画とそのアクションプランを指します。

100日プランでは、ランディングプランで短期的に対応するような項目でなく、本来のM&Aの目的を達成するために、中長期的に対応が必要な課題解消であったり、M&Aによって実現できる両社にとってのシナジーを本格的に発現するためのアクションプラン及び実現後の経営計画を策定します。

100日プランを策定するタイミングでは、既にM&Aのクロージングを迎え、対象企業が譲受主企業と同一グループになっている状況が基本的です。

ここでは、改めて外部環境や内部状況に関する両社から見た現状認識をすり合わせ、DDを含むM&Aの過程で検出した対応事項を洗い出します。

次に、両社が保有する資源を組み合わせることで実現可能な中期的ビジョン、達成に向けたロードマップ、ロードマップ実現に必要な戦略を策定し、更に戦略実行に向けた課題やタスクを洗い出します。

挙がった課題やタスクを主要テーマ別に区分し、PMI推進に必要な各チーム及び会議体で分担し、アクションプランの策定を含む具体的な検討を実施していきます。

アクションプランを進める

PMIにおけるアクションプランは、M&Aの効果を最大化するために行う具体的な計画のことを一般的に指します。
100日プランで検討したように、短期的な課題を解決するリストではなく、中長期的なビジョンを達成から逆算した実行リストになっている必要があります。

PMIに関与する全員共通の行動リストとなっていることで、M&Aによって期待されるシナジー効果を実現し、組織間の円滑な統合を達成することに繋がります。

なお、アクションプランを策定する際には、文化的な違いや従業員の感情を十分に考慮する必要があります。また、計画は柔軟であるべきであり、状況の変化に応じて適宜調整を行うことも必要です。

アクションプランを策定し、実行に向かって動き出したら適宜PMOや各種分科会、あるいはステアリングコミッティを通じて、進捗状況のモニタリングを行うことが重要です。

基本的には各担当者が、PMIで取り組んでいる内容の最終目的を理解して推進することが望ましいですが、全ての担当者がPMIだけを業務として行っているわけではありません。進捗状況も計画策定通りに順調なばかりではありません。

時には進捗する中で、向かっていく方向や軌道の修正も必要になる場合があります。そのために、各チームや会議体での情報を早期に共有し、迅速な対応を行うことがPMI成功の重要な進め方になります。

よくある失敗事例

  • 統合方針を明確にしないまま形式的な統合を行ってしまい、対象企業の負荷を高めたり従業員のモチベーションを低下させてしまう場合があります。

  • 対象企業との文化的な違いを見落とし、統合後の従業員間での摩擦や不和を招く場合があります。

  • 統合プロセスにおける不安定な状況や組織変更により、重要な人材が退職し、譲受後の事業運営に支障をきたす場合があります。

よくある質問

PMIプロセスで最も注力すべきポイントは何ですか?

  • コミュニケーションと従業員のエンゲージメントが最も重要です。従業員が変化を理解し、新しいビジョンに納得し参加できるようにすることが、統合の成功に不可欠です。

PMIプロセスを開始する最適なタイミングはいつですか?

  • M&Aは譲受後の価値向上を目的の一つとしたものであるので、PMIに向けた検討は可能な限りM&Aプロセスの早期から開始することが望ましいです。ただ現実的にM&A検討で手一杯となり、十分な事前のPMI検討が難しい場合には、最終契約が締結された直後に開始することが重要です。クロージング前に計画を立て、実施の準備を整えることで、統合プロセスがスムーズに進行します。

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