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第35回歌壇賞落選作品 無宗教

今年の歌壇賞を獲られた作品がわたし好みすぎて何度も読み返しました。頑張ろうと思います。
自分の尻を叩くつもりで。

写真(さむね?)は私のお気に入り



無宗教

人よりも幸せになりたいのです 鉄骨階段を駆け上がる

弾丸が降り注ぐ街の何処かにも誰かに愛される人がいて

良き孫であるべきと悟る盆の入り食道がんの祖父の灰色

天国の存在を願う人の死をのみ込んだとき 神は隣に

かわいいの過剰包装カッターを刺して私のかわいいを抱く

誰かとは違う私でいたかった英和辞典を後ろから繰る

ずっとこの気温がいいねとつぶやいた君のとなりを私は歩いて

昨晩のコンソメスープで内臓をかたどって人 になりゆく朝は

現代が平和かのように教えられ僕たちはな にものにでもなれた

雨粒に振り落とされた花びらを避けて歩けていたときのこと

この先も入り用だからと受け継いだ母さんの喪服 二十三歳

バスに揺られたわたくしの右頼に午前十時の ジャズが溶れる

君が来て再生を止めた音楽と入れかわるそのざわめきは恋

精神科に行くときにしか着られないお気に入りのワンピースは赤色

医者代と洋服代を見比べて私は外面ばかり気にする

ちっぽけな私を抱きしめられるとき神の作った空を見上げる

おくすりで流れるべき涙を止めて神にさからう人らしき私

誰でもない私がいると叫びたい口角びらん の静かな痛み

自転車で切りさいた冬 どうしても忘れられない夢があるのだ

弾丸が降り注ぐような雨の日も私には愛する 人がいて

朝焼けにエモさが欲しくてありふれたcitypopを奏でるAl

珍しくらしさを求められたので腕毛を生やしておけばよかった

人の間にくらげのようにたゆたえば世渡り上手の称号を得て

脳みそで育んだこのおしゃべりを経血にして満員電車

ついさっき読んだ小説の文体で「僕は新橋駅で下車した」

営みが止まる改札もう一度タッチしてみる人 生とする

絡み付く頭上の電波でマッチした彼と理想を埋めあったとき

また今日を引き伸ばす26時半いっそ千切れしてしまえばいいのに

私しか使わない歩道橋の上君に言われたことをつぶやく

新しくしたシャンプーでととのえた髪を私にしてゆくタ風

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