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【初心者でもわかる】わたしが高校3年間で極めたチャイムと同時に教室に滑りこむ方法



タイムリミットまで、2分を切った。

最短距離を描くように校門を走り抜ける。
他の生徒を避けながらも、ペダルを漕ぐ足は緩めない。



(※つい胡散臭い情報商材みたいなタイトルにしてしまったのですが、皆さんは優しいので許してくれます。 )



気持ちのいい青空だ。こんなに晴れているのに、夏休みを終えた北海道の風は、既にどこからか秋の匂いを運んでくる。

なんて、考えている場合ではない。


学年ごとに分かれている駐輪場は、玄関に近い方から3年、2年、1年と年功序列制。

ちょうど全体の真ん中あたりに隙間を見つけ、いつもと同じように自転車を止め、鍵を掛け、籠に入った荷物をひったくるように取った。すっかり身体に染みついてしまったこの一連の動作は、誰よりも素早い自信がある。無駄な動きはない。

今日は英数国に世界史、体育まであり、なにかと重い一日だ。(いや、体育はほとんど遊びのようなものだから、荷物が増えるって意味で。)だが、こんな日だからこそ、この2分に負けてはならない。

あとからきた自転車とぶつからないように避けながら、正面玄関まで、必死に足を動かす。右ひじ左ひじ…じゃない、右足左足を交互に出す。

今日は、追い風。
風向きを味方にしてこそ一流だ。
風に乗って、はしる、はしる。

リュックが肩から落ちないように押さえて走る。

セーラー服の胸ポケットからスマホを取り出し、時刻を確認する。

タイムリミットまで、あと1分。


どうやら今日はイレギュラーなメンバーはいない。周囲はいつもの顔ぶれだ。名前すら知らない人ばかりだけれど、そこには不思議な一体感がある。

同じ目的のもと、がんばる仲間がいる。絶対に遅刻はしない、いかにギリギリで滑りこむか。

走る、走る。

急いでいながら、仲間たちの表情に焦りはない。それはプロである証。ときに負け、悔し涙をのみながら、幾度も厳しい闘いに挑んできた人間の顔だ。

前の人が開けたドアを加速度MAXで突破した。ドアを自分で開けることは時間と体力のロスになる。誰かが開けたドアに、タイミングよく滑り込む。

ローファーを脱ぎ、自分の靴箱に入れ、上履きを履く。靴ひもは、履きやすいように予め緩めに結んである。

さあ、ここからが勝負だ。

スマホの時刻表示は、先程と同じ8:29を指している。ここからは日々の経験により研ぎ澄まされた体内時計に頼るほかない。
タイムリミットまで、およそ20秒。


いかに無駄なくゴールまで走り抜けられるか。

上靴を履き終えると、仲間たちはそれぞれ別の道を歩む。ここでスピードを緩めるのは3年生。

教室までの階段は学年が上がるほど少なくなるけれど、わたしが目指すは2年8組。

中央階段を駆け上がり、3階西側。コンピュータ室と5、6、7組を通過してようやくたどり着く場所だ。今日は少しの無駄も許されない。

タタタタタンッタンッ

一段ずつの小走りと、一段飛ばしを組み合わせて階段を上がるのがわたし流。スカートなんて気にしてる暇、ない。

タタタタタンッタンッ


キーーンコーーーーーン
チャイムが鳴り始めた。
わたしはまだ2階。
経験上、これは間に合うか間に合わないかの瀬戸際だ。


3階に、ようやく、つく……

………ついた。


全身から汗が吹き出る。
北海道は既に秋とかなんとか言ったけど、気のせいだったかもしれない。

各担任が廊下に立って呼びかける。
「遅刻だぞ〜はしれ〜」
つまりこのときばかりは、廊下は走るな、というルールは教師の了解のもと破られるのだ。


無理、つかれたよ、
私が5組だったら、余裕だったのに。

キーーーン

いや、だめだ、諦めない。
諦めてはいけない。

コーーーーーン

これは自分との闘いだ。

カーーーーン

教室前方のドアから、
担任が教室に、入る、

コーーーーーン


瞬間、後方のドアから教室に飛び込んだ。

セーフ。
…だと思う。

感覚では、間に合った。
確実にチャイムの最後の音の余韻が残っている。体が、空気の震えを感じとっている。

判定はどうだろうか。
アウト判定であれば、リクエストを要求するのみ。


「遅刻だ遅刻〜〜」

担任はそう言いながら、出席簿に印をつけた。


いつもの台詞。

わたしは知っている、この台詞を言うとき、担任は遅刻を表す△ではなく、◯を付けているということを。




これが、わたしの高校時代の、懐かしき日常。








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