私たちは海を通してつながっている。
海の見える街で生まれたからか、海を見ると安心する。
波の音に心が洗われて、空の色に合わせて移り変わる海の表情に見入っていると、時がたつのを忘れている。
ピンク色の夕焼けに染まった海に浮かぶ世界遺産の町は、夢と見紛うほどの景色だった。
ずっとこの時間が続けばいいのにと思う反面、一秒一秒変わり続ける空と海が、この後見せてくれる表情を楽しみにしている自分もいた。
遠く離れていても、海は故郷とのつながりを感じさせてくれる。
海は果てしなく思えるけれど有限で、この海を泳いでいけば故郷に帰れるのだと思うと安心する。実際に泳いで渡ることはできないのだけど、つながっているという事実にぬくもりを感じるのだ。
今年のはじめ、私の故郷の海は急に表情を変えた。
故郷である能登での地震と津波のニュースを、私は遠く離れた土地で耳にした。大好きな海が、大好きな街を飲み込む映像を見て、目の前が真っ白になった。
幼いころからともにあった海の、初めて見る顔だった。
家は全壊し、すぐに戻ることは難しいと言われた。
今は遠い国にいるけれど、日本に帰れば当たり前にあの町に変えるのだと思っていた私にとって、受け入れがたい事実だった。
それでも、やはり海は私にとって、自分のいる場所と故郷とをつないでくれる大切な存在だ。
地震から2か月がたった今、能登で暮らす家族や友人から送られてくる映像の中の海は、再び穏やかな表情をしている。
地震による隆起で海岸線が下がってしまったが、海は恐ろしさすら感じるほどに今までと変わらず、静かな波音を立てる。
海の見える街で生まれ、世界中を旅して海のいろいろな顔を見た。
今日も海を見て、その向こうの故郷や、旅の途中で出会った人々に思いをはせる。
時間や場所によって全部違う海に見えるけれど、いつもどこでもこの星に海は1つ。
私たちは海を通してつながっている。
カメラ:Panasonic LUMIX GF10
撮影地:イタリア・ベネチア(Venice, Italy)
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