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年金制度の厳しい見通しを受け、今後どう底上げするか?(日本経済新聞 柳瀬和央氏/Morning satellite Apr,2024)

厚生労働省が公的年金制度に関する5つの改革案により、年金の給付水準や年金財政に与える影響について解説する。

この年金制度の検証作業は、5年に1度行うことにしており、今年がその年にあたる。その結果を踏まえて来年の通常国会に必要な制度改正を提出すると言う段取りになっている。

今回の検証作業では、以下の通りである。
⑴ 出生率や賃金などの動向によって将来の年金がどう変わるのか?
⑵ 制度を修正する5つを実施した場合、どんな影響が出るのか?

現在の年金制度の大枠は、少子高齢化への対策として実施した2004年の大きな改革により導入されたが、当時の想定よりも基礎年金の財政が悪化し、将来の年金額が大きく目減りする課題が浮上している。

現在、20歳から40年間保険料納付した場合に、65歳から受給される基礎年金額は68,000円となっている。しかし、2019年の前回検証で行った試算では、2046年以降になると、月47,000円程度と、今の7割程度に減少する結果となり、20-30年後の引退世代の生活を守るために年金額を底上げしなければならない状況である。

改善案⑴

基礎年金の保険料を収める期間を5年間延長し、45年間にする。保険料の納付額が5年分増えるため、それに応じて老後の年金額を底上げすることができる。65歳まで働き続けることが当たり前になった現状に合わせた改革とも言える。

改善案⑵

基礎年金の給付抑制を早期停止する。
2004年の改革で導入したマクロ経済スライド、つまり将来の年金を確保するために足元の年金額を抑制すると言う仕組みである。

ところが、デフレの状況では抑制措置を発動しないと言うルールになっているため、実際に発動されたのは、2024年を含めて5回だけとなる。

その結果、基礎年金の財政は、当初の想定よりも悪化し、本来なら2023年にこの調整処置は終わるはずだったが、財政を均衡させるには2046年までこれを続けなければいけないと言う状況になっている。

この状況を防ぐため、厚生年金からお金を移管することで、基礎年金の抑制を2033年頃に打ち止めにするという案となる。

改善案⑶

厚生年金の対象者の拡大である。
厚生年金は、基礎年金部分と報酬比例年金と2階建てとなる手厚い仕組みとなるため、対象者の増加により、国民全体として老後世代に必要なキャッシュが厚くなると言う考え方である。

厚生年金に加入するパートタイム労働者の範囲は、これまで段階的に拡大されてきた。2024年10月から、従業員50人超の企業で、週に20時間以上働き、月給が88,000円以上ある人はすべて対象になる。

今回の改革では、現状よりさらに広げ、従業員数や賃金の要件を見直したり、現在対象外である個人事業所で働く人も、厚生年金の義務付けを検討される見通しである。ただ、事業所は、事業主としての保険料負担を求められることから、慎重な反対意見が出てくることが考えられる。

今回の5つのメニューは、あくまで検証作業であるため、全て行うと言うことが決まっているわけではなく、政府与党が総合的に判断していくと言うことになる。

年金制度の現状について、国民一人一人が理解を深める重要な局面になっているため、負担だけでなく、なぜそうした改革が必要なのか、総合的に考える必要がある。

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