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溺愛マリービスケット

ポケットの中にはビスケットがひとつ...
という歌よろしく、じいちゃんのお菓子タッパーには、ビスケットが必ず入っていた。

マリービスケット、ムーンライト...森永の名画のような少女のイラストが今も脳裏に焼き付いているほどに印象的だったボックスパッケージ。マリービスケットは赤、ムーンライト深いブルーだったと記憶している。

じいちゃんはおやつの時間をなによりも大切にしていて、3時になると、じいちゃんのいる奥の間に家族が集まり、お茶とお菓子をもらって、一緒に食べるのが習慣だった。たまに奥の間に行かないでいると、「おーい、お茶の時間だぞー」と奥からじいちゃんの呼ぶ声が聞こえた。

じいちゃんを囲んで奥の間に集まるのは人間だけでなく、実家で飼っていた猫や犬も一緒だった。猫はじいちゃんのそばに来て、じいちゃんの膝の上に座り、なでてもらえば満足。犬は外で飼われていたから、窓の外の縁側に座って、クンクンと鳴いて、おやつをねだった(実際、人間と同じお菓子を食べていた)。

茶まんじゅう、ふ菓子、ビスケット。犬も人もみんなが大好きだったお菓子のひとつが、マリービスケットだった(ムーンライトではなかった!)。

じいちゃんは、意外にも、子どもの成長と栄養を気にする人だったので、バターたっぷりのサブレー(もちろん鳩サブレー!)やビスケットやクッキー、あるいは、ミルクをたっぷり使ったキャラメル(森永のミルクキャラメルかハイソフト)などをよくくれた。
心と体の健康には、食事が大切。三度三度のごはんでは足りない栄養を、おやつで食べる。いま思えば、おやつでは、心の栄養を大切にしていたのかもしれない。
ほっとする時間、甘く満ち足りた気持ち。息抜きやリフレッシュ、ひとときの対話の時間、ちょっとしたコミュニケーションのきっかけ。
食事では得られないものを、1日の中でおやつの時間に求め、大切にしていたのだろう。

大人になった今も、たまにマリービスケットが無性に食べたくなる時がある。じいちゃんと一緒に食べていた頃とは、パッケージも装いもずいぶんと変わり、サイズもひとまわり小さく食べやすくなった。普段は牛乳を飲まない私だが、マリービスケットを食べるときは、何となく、一緒に飲むのは牛乳を選びがちだ。

心と体にたっぷりと栄養をチャージ。じいちゃんの太陽のような笑顔を思い出しながら、ゆっくりとしたひとときを味わうのだ。

先日(といっても、もう何か月も前の話だが)、マリービスケットのアイスサンドをコンビニで見つけた。マリービスケットの新形態が興味深く、マリービスケットのたたずまいがとても懐かしくて、思わずじいちゃんの分も、と購入し、実家のじいちゃんの祭壇の前で食べた。

うん、おいしい。マリービスケットには、ミルク感があう。キャラメルのこっくりやさしい甘さがあう。マリービスケットのほんわりと甘いほっくり感とバニラキャラメルアイスのミルキーな甘さが、おやつの時間のじいちゃんのほんわりとやさしい笑顔をふと思い出させ、何とはなしに笑顔になった。

いい時間だ。

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