金原瑞人

法政大学教授。翻訳家。https://www.kanehara.jp

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  • 2023年後期

    2023年後期の作品と感想をまとめました。

  • 2020年前期

    2020年前期の作品と感想をまとめました。

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はじめに&目次

はじめに 最近の若者は、読解力が低く、ろくな文章が書けない、という俗説に対するささやかな反証を集めてみました。  いや、ちがうなあ。  いまの大学生が書いた、ぼくにとっておもしろい作品を集めてみました、というほうが近いような気がします。学生の提出した課題を読んで、いつも驚くのは、ぼくが大学生のときに書いたものよりはるかにおもしろいものを書いてくる学生がいるということです。  たとえば、大学で「創作表現論」を教えています。授業の内容は、明治時代の日本語改革について話したあと、ヨ

    • 「私のバスタイム」 嵯峨明

      (以下は2024年1月9日の金原のブログからの転載です)  そろそろ大学の授業も終わり。というわけで、今日は創作実践指導も最後の授業。いい作品がずらっと並んで、読むのが大変だった。書ける学生が増えてきている実感が強い。  そのうちのひとつ、嵯峨明さんのエッセイを。  コロナで2年近く対面授業を受けられなかった大学生の気持、バス通学をするようになったときの気持、卒業を間近にしての気持などが、嵯峨さんらしい文章で綴られている。また多摩キャンパスの雰囲気もちょっとだけわかる。

      • 「旅立ちの日に?」 村上遥香

        (以下は2023年12月20日の金原のブログからの転載です)  創作表現論の秀作。  今回も前回と同じ村上さんですが、今回はまったくテイストのちがう作品。  こういう感性、ほんとにおもしろいと思う。ちょっと不思議な作品です。  今回のテーマは「若者」。授業でアメリカの1950年代の若者の誕生と60年代の若者文化について話したので。 「旅立ちの日に?」 村上遥香  灰色には思えない。朝の空気は澄んでいるはずなのに、霧がかったような、うすぼんやりとした白。高すぎないビルと隙

        • 「果実の工程」 村上遥香

          (以下は2023年12月14日の金原のブログからの転載です)  久しぶりに創作表現論の秀作を。  ギリシア神話の次にヘブライ神話の話をして、そこで簡単に解説した「天地創造」の「創造」をテーマに何か書きなさいという課題。  こんな作品が出てきました。  なんとなく、『ゴドーを待ちながら』に似ているところがおかしい。たぶん、本人は読んでない(観てない)と思う。  あ、読んでたら、ごめん。 「果実の工程」 村上遥香 カラカラ、ごうんごうん、カラカラ。あっ、ごとり。……カラカラ

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        記事

          「出会いの珈琲屋さん」 大場愛紘

          (以下は2023年11月30日の金原のブログからの転載です)  こちらは創作表現論の授業の秀作です。毎週ひとつ課題をこなさなくてはならない。のに、こんな作品が出てくるところがうれしい。というわけで、大場さんの短編小説を。このときのテーマは、「『ハムレット』を読んで、何か書け」だったと思う。 出会いの珈琲屋さん 大場愛紘  高校の授業が終わり、帰りのホームルームで配られた進路希望の調査書と、進路面談のお知らせの紙を、学校指定の黒い革のスクールバッグに入れる。二年以上使った

          「出会いの珈琲屋さん」 大場愛紘

          吉澤颯太(短歌、詩)

          (以下は2023年11月29日の金原のブログからの転載です)  秋学期から、創作表現論とは別に「創作実践指導」という授業を持っていて、こちらは、少人数のゼミ形式の授業。 前にもひとつここに載せたんだけど、今回はまたちょっと違うテイストの作品を。 ちょっとこれは書けないなあと思わせる力のある作品です。まあ、読んでみてください。   吉澤颯太(短歌、詩) 〈短歌〉 (ブルースター) 消えていたことに気づいて思い出す記憶の色は蒙古斑あざのみず色 カーテンのふくらむ音を待

          吉澤颯太(短歌、詩)

          「ロシア語初級」 落合健太郎

          (以下は2023年10月14日の金原のブログからの転載です)  2023年度秋学期、創作実践指導という授業を半期、開くことになり、以前の金原ゼミの要領で授業を進めているところ。  最初の授業でとてもいい感じのエッセイが出てきたので、紹介します。 ロシア語初級 落合健太郎 Ⅰ  この秋、ロシア語初級の授業を受けている。本来であれば一年生のうちに履修を済ませておくべき第二外国語の授業だ。これは偏に怠惰さが原因なのだが、一年、二年と続けて単位取得に失敗したおかげで、週二回、一

          「ロシア語初級」 落合健太郎

          「劇場で彼の言葉に背を押され ~ミニシアター雑記~」 吉澤颯太

          (以下は2022年12月16日の金原のブログからの転載です)  今年度の秋学期、「創作表現論」とは別に、「創作実践指導」というミニゼミのような授業をしていて、毎回、なかなか楽しい作品が出てくる。  こないだ、映画に関するエッセイが出てきたので、ご紹介を。 創作実践指導(9)                     2022年12月11日提出  劇場で彼の言葉に背を押され ~ミニシアター雑記~ 吉澤颯太  大学生になってから、映画館を利用することが急激に増えた。とはいえ

          「劇場で彼の言葉に背を押され ~ミニシアター雑記~」 吉澤颯太

          「ハードはソフトを規定するか ~その2~」 小林千尋

          (以下は2022年5月13日の金原のブログからの転載です)  創作表現論、秀作をもうひとつ。こちらは前回のものとは、まったく趣の違うエッセイです。  ユーモラスなエッセイとして、とてもうまく書けてます。とくに後半、星野源が出てくるあたりから、一気に加速します。その加速ぶりがおかしい。 「ハードはソフトを規定するか ~その2~」 小林千尋 ……「~その2~」⁉ なんだそれ、そんなのアリか。  提出の締め切り3時間半前まで何も書くことが浮かばないという絶望的な3週間前の夜、

          「ハードはソフトを規定するか ~その2~」 小林千尋

          「ハードはソフトを規定するか」 宮本美来

          (以下は2022年5月11日の金原のブログからの転載です)  今回、創作表現論Iで提出されたレポートがとてもよかったので、ご紹介します。  じつは、このレポートを読んだので、今日の創作表現論Iの授業は謄写版印刷についての話から始まった。もともと、この授業では(対面授業のとき)、印刷の話をすることにしていたので、活字や謄写版に使う原紙、鉄筆などは研究室においてあるのだ。  さて、レポートです。 「ハードはソフトを規定するか」 宮本美来 「ハードはソフトを規定するか」という

          「ハードはソフトを規定するか」 宮本美来

          「スカートと海」 菊川華

          (以下は2022年01月20日の金原のブログからの転載です)  創作表現論Ⅱもそろそろ終わり。  また、ひとつ、こんな作品を。 「スカートと海」 菊川華  夏休み前、最後の日。新名くんがスカートをはいて登校してきた。  彼の言い分はこうだった。  「妹が学校で学ラン使うって言って、持ってっちゃってさー……仕方ないから姉ちゃんの着てきた」  新名くんはそう言って笑った。  クラスは笑いに包まれた。  おまえ似合ってんじゃーん、新名くんかわいいよー、男子からも女子からも

          「スカートと海」 菊川華

          「確かにそこにいた」 落合健太郎

          (以下は2021年12月16日の金原のブログからの転載です)  創作表現論Ⅱで、またいい作品が出てきたので、載せます。  大学の授業というのは、本当に疲れます。準備も大変だし、提出された課題や訳文を読んで評価するのも大変です。しかし、たまにこういう作品が出てくると、あと1年か2年は大学で教えようかという気持ちになります。  知り合い何人かに送ってみたところ、こんな感想がきました。 ・結末が、絵を描いた死刑囚を思う方向ではなく、自分自身も含めて犠牲者になりうる人たちへの祈

          「確かにそこにいた」 落合健太郎

          「悲劇喜劇判定」 Pana

          (以下は2021年12月03日の金原のブログからの転載です)  創作表現論Ⅱの秀作です。テーマは「シェイクスピアにからめて」。  今回はPanaさん。発想といい文体といい、とても現代的でおもしろく、1週間で、よくこんなものを書くなあと驚いてしまいました。 「悲劇喜劇判定」 Pana 「は? 恋愛相談?」 「そう。頼む、聞いてくれよ、蓮! 好きな子、出来ちゃったんだよ」  私の耳元に口を寄せ、そう囁く董二の顔面を力一杯ぶん殴りたい衝動に駆られた。直ぐ側に董二の顔が来たから

          「悲劇喜劇判定」 Pana

          「本の間」 落合健太郎                          

          (以下は2021年11月27日の金原のブログからの転載です)  創作表現論Ⅱの秀作。  落合健太郎さんの作品。こういう作品のよさを説明するのは、ほんとに難しいと思う。なんか、おかしい、なんか、いい、なんか、変、だけど、とにかく、気になる。こんな感覚をうまく文章にするのは、なかなか難しいんだと思う。  まあ、読んでみてください。 「本の間」 落合健太郎  英米文学の書棚で本を探していた。「シ」に並ぶ本の背表紙を眺める。左から右へ、右から左へと視線を動かすが、見つからない。

          「本の間」 落合健太郎                          

          「久部くんと魔女」 菊川華

          (以下は2021年11月20日の金原のブログからの転載です)  さて、『マクベス』がテーマのもうひとつの秀作です。この柔らかい雰囲気と、それにぴったりの文体が快い。 「久部くんと魔女」 菊川華  隣の席の久部くんは、不思議な人だ。なんて説明したらいいのだろう。見た目が奇抜とかそういうんじゃなくて、なんか雰囲気が不思議って感じ。そのよくわからないオーラが彼のどこから出ているかは定かではない。そうだなぁ……良い言葉が見つからないけど、うーん。あ、そうそう、彼には「トレンド」

          「久部くんと魔女」 菊川華

          「大きな怪我には気を付けろ」 沼上晴省

          (以下は2021年11月20日の金原のブログからの転載です)  創作表現論IIの秀作をひとつ。  今回のテーマは『マクベス』。ストレートなショートショートながら、一気に読ませます。なんといっても『マクベス』との落差が素晴しい。 「大きな怪我には気を付けろ」 沼上晴省  ある男が、自分の住む国からは遠く離れた王国の、最北端に位置する洞窟の中にいた。男の目的は、この洞窟に住み着いているという「予言の魔女」に出会い、自分の行く末を見てもらうこと。数分、洞窟の中で待っていると、

          「大きな怪我には気を付けろ」 沼上晴省