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【ショートショート】 幸せが光るとき

ーヴゥン…

 深夜2時。スマホが枕元で震えて光る。メッセージの主は、見なくともわかる。
 十中八九ナオだ。

 確かナオは今日、好きになれそうな男とデートだと言っていた。大方その感想でも聞いて欲しいのだろう。

ーヴゥン……ヴゥン…

 スマホは、不規則な間隔を置いて震え続けている。寝付けずに起きていた俺は、ふう、とため息をついてそれを手に取る。

「思ってたよりいい人だった!」
「今度こそ、好きになれるかもしれん!」
「ねえ、聞いてる?」
「おーい」
「聞けよー、私の話をよー」

「…ビンゴ」
 つらつらと続くメッセージを、ざっと流し見する。まあとりあえずは楽しかったらしい。

「良かったじゃん」
「お、生きてた」
「殺すな」
「コウが死ぬまでに、結婚するし頑張って生きてて」
「だから殺すなよ」

 画面の向こうのナオは、今日は一段と浮かれている。
 矢継ぎ早にきていた返信が、束の間止まる。俺はメッセージの画面を開いたまま、そっとスマホを置く。

ーヴゥン…
「私結婚できるかな」

ーヴゥン…
「私、幸せになれるかな」

 ナオは突然、こういう先端の鋭い言葉を俺に向けてくる。真面目な俺は、脳内にある辞書をめくり、いろんな言葉を探して探して、できるだけ真面目に返信する。

「結婚云々はしらんけど、幸せを諦めた人より、幸せを求め続ける人の方が幸せに近くなるとは思う」
「なるほど」
「結婚なんて、その気になればいつでもできんじゃね」
「それはそうだけど」

 コイツはまじで…、と心の中で舌打ちをする。

「相手選びをミスったら、後々絶対面倒なことになるだろ」
「それは、そう」
「結婚だけしたくて、適当に人選んでるならさすがにバカだなと思うけど」
「好きとかよくわからん」

 俺にどうしろと、と思いつつも慣れたもので当たり障りのない返信をしていく。

「幸せになりたいー」
「なればいいじゃん、地に足つけていけよ」
「周りがどんどん結婚していくのが羨ましすぎる」

 おおよそ、これが今回一番言いたかったことなのだろうと読む。

「幸せは、周りと比べるものじゃないだろ」
「うん」
「自分の中で光るものだ」
「光る?」
「そう。多分。その光を感じられるアンテナの感度に個人差はあるだろうけどな」
「どういうこと」
「小さい光でも、光った!ってなる人は基本めちゃくちゃ幸せな人、みたいな」
「確かに」

 また、パタリと返信が止まる。タクシーにでも乗ったか、家に着いたか…。光りっぱなしだったスマホは、そっと息を潜める。

 これも、わりといつものこと。取り止めのない、俺たちの日常。俺のスマホは、ナオのお陰でよく光る。

 鈍く、光る。
 光り続ける間は、見守り続けようと思っている。それだけの覚悟が、俺にはある。


(1097文字)


=自分用メモ=
人とのやり取りの中で、書いてみたいフレーズが出たのでそこを基盤に展開した。
幸せにはいろんな形がある。幸せは、優しくて甘いだけのものではないことを、我々はだんだん知っていく…。

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