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【言葉】食いしん坊について語るだけ

今回は、ただの言葉好きが気になった言葉を、ひたすら掘り下げるだけの記事。

私はときどき、「この言葉の語源って何だろう」とか「あの言葉はどういう変遷を辿って、今の形になったのだろう」とか、そういうことを考える。

暇なとき、コスメが好きな人が、コスメについて考えるように、ファッション好きな人が、ファッションについて考えるように、私は言葉のことを考えるのである。

言うなれば、ただの暇つぶしの思考内容ではあるのだけど、個人的に残しておきたいので記事にすることにした。

長めの暇つぶし記事です、お時間のあるときにお付き合いください。

では、いざ。


今日のテーマは、タイトルにも入れた通り「食いしん坊」について。

もっというと、「食いしん坊のしん、、の部分って何だろう」とふと思ったのです。
「食い」は、動詞「食う」の活用したものとして、じゃあ「しん」ってなんだ?となったわけで。

「ん」の入る言葉は、だいたい音便変化が起きていると見るのだけれど、何が変化したものなのだろう…。

その辺について、個人的にお勉強メモを以下に続けます。

そもそもの言葉の意味は、

くいしん‐ぼう〔くひしんバウ〕【食いしん坊】
[名・形動]食い意地が張って、むやみと食べたがること。また、そういう人や、そのさま。くいしんぼ。「—な子供」

デジタル大辞泉(小学館)

思っていたよりネガティブな意味合いが強くて、へえ!となった。ニュアンスとしては、グルメな人みたいな意味だと思ってたなあ。

話しは戻って。
とりあえず、「食いしん坊」自体は名詞として確立していることがわかった。

今回私が興味を持ったのは、品詞分解したその先なので、このまま掘り進めてみることとする。


「〜坊」のつく言葉には、いろんなものがある。

甘えん坊、けちん坊、怒りん坊、暴れん坊、慌てん坊──。

ぼう〔バウ〕【坊】
[名]
1㋐僧の住居。僧房。房。転じて、僧侶。「師の—」㋑寺社が信者のために設けた宿泊所。宿坊。

2 幼い男の子に対する愛称。また、その自称。「—をつれて散歩に行く」

3 奈良・平安時代の都城の行政区画の一単位。平安京では、東西南北の大路に囲まれた区域。1坊は4保で4町四方。また、その大路をいう。

4 皇太子の居所。東宮坊 (とうぐうぼう) 。また、皇太子をいう。東宮。

[接尾]
1 人名に付いて、親しみや軽いあざけりの意を表す。「お花—」「けん—」

2 人の様態を表す語に付いて、そういう人である意を表す。「暴れん—」「けちん—」「朝寝—」「風来—」

3 僧侶の通称や坊号などの下に添えて用いる。「武蔵—弁慶」「法界—」

デジタル大辞泉(小学館)

そもそも語尾についている「坊」は、上記太字箇所の2にあるように接尾語らしい。

名詞「甘え、けち、怒り等」と、接尾語「坊」を繋ぐ助詞「の」で、成り立ちとしては「甘えの坊」「けちの坊」「怒りの坊」が元々の形だったことがわかる。

では次に、その変化の内容について。

はつ‐おんびん【×撥音便】
音便の一。主に活用語の連用形の語尾の「に」「み」「び」が「て」「た」「たり」などの語に連なるとき、撥音「ん」となること。「死んで(←死にて)」「読んだ(←読みた)」「学んだり(←学びたり)」の類。広義には、名詞の語中に見られる現象についてもいう。「簪(かみさし→かんざし)」「残んの雪(のこりのゆき→のこんのゆき)」の類。

デジタル大辞泉(小学館)

身近な音便変化なら、「すみません」で考えるとわかりやすいだろうか。

すいません←「み」が「い」に変化したイ音便変化
すんません←「み」が「ん」に変化した撥音便変化

「すみません」による音便変化の例

この、後者に起きている「ん」への撥音便変化が起きたことで、「甘えの坊」は「甘えん坊」になると。なるほど。


つまり、大きく話を戻すが「食いしん坊」の「ん」の部分は、助詞の「の」が、「ん」に変化したものということになる。

じゃあ残っている、「し」は何なのだろう。助動詞…?何の?

ということで、とりあえずインターネットを中心に、その語源を探ってみたところ、どうやら「もじり」が生じているらしいことがわかった。

順を追って確認してみることとする。

先述した、「の」が「ん」になるシリーズで、「いやしん坊」というものがあるとのこと。

動詞「卑しい」+助詞「の」+接尾語「坊」→「いやしの坊」

これが撥音便変化して→「いやしん坊」

ここでいう卑しいの意味は以下の通り。

いやし・い【卑しい/×賤しい】
[形][文]いや・し[シク]
1 身分・社会的地位が低い。「—・い身」

2 品位に欠けている。下品だ。「—・い言葉遣い」「根性が—・い」

3 貧しい。みすぼらしい。「服装が—・い」

4 飲食物や金銭に対して貪欲である。さもしい。「口が—・い」「金に—・い」

5 つたない。とるに足りない。
「なにがし(=私)が—・しきいさめにて、すきたわめらむ女に心おかせ給へ」〈源・帚木〉

デジタル大辞泉(小学館)

4の食べることに貪欲で、今の「食いしん坊」と似たような意味である、「いやしん坊」をもじって生まれたのが、「食いしん坊」と言うことらしい。

さらに参考までに、もじりの意味を。

もじり〔もぢり〕【×捩り】
1 著名な詩文・歌謡などの文句をまねて滑稽化すること。また、その作品。→パロディー

2 言語遊戯の一。言葉を、同音または音の近い他の語に言いかけること。地口(じぐち)・語呂(ごろ)など。

3 付句の一種。前の句の終わりをもじって付けるもの。

4 男性が着物の上から重ねて着る、筒袖または角袖の外套 (がいとう) 。捩り外套。

5 ⇒錑錐 (もじぎり) 

6 袖搦 (そでがら) みの異称。

デジタル大辞泉(小学館)

これでいうと、2の意味になるのかな。

食い意地のはった卑しい人を示す「いやしん坊」に音の語呂が近いので、食い意地の張った人のことは「食いしん坊」って呼んじゃおう!というところがスタートらしい。

つまり、「食いしん坊」の「し」には何も意味がないと言うことになる。

え、何それ面白い。そしてゆっるい!

言葉のこういう柔軟なところが、本当に興味深くて楽しい。


さらに掘ると、「食いしん坊」は江戸時代に成立した滑稽本が文献上の初出例らしい。

文献自体を自分で確認できたわけではないので、そこはまあネットの情報として軽く読むとしても…。

本当に初出が江戸時代なら、「食いしん坊」が持つ歴史はそんなに長くないんだな。(令和の時代で、江戸を最近のように語る不思議)

文献上はという話しなので、江戸以前に会話では出ていたかもしれないけれども!

とまあこんな具合に、興味を持った語彙について不意に深掘りするのが、私の趣味の一つなのでございました。

はあ、ほどほどに好奇心が満たされた!満足。

長々とした取り留めのない話しに、お付き合いありがとうございました!

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