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【感想】「美しい彼」シリーズを観て

せっかくなので記憶が新しいうちに…と思っていたものの、結局感想や感情を咀嚼するのに数日を要した。

それくらい、私の中では衝撃を受けたのだなと自覚する。
「美しい彼」は、私にとってそんな作品となった。

内容に触れずには語れないので、ネタバレ前提の記事となります。もしネタバレを気になさる場合は、ご視聴後に以下を読んでもらえればと思います…!

そして、気がつくとなかなかのボリュームになってしまったので、お時間のあるときに暇つぶしのお供にでもしてください!


では、いざ!

はじめに

私はこれまで、いわゆる深夜帯のドラマをあまり観てこなかった。
ゴールデンタイムと言われる、21〜22:30帯のドラマが基本視聴対象で、そこに特に大きな理由はない。
追うドラマが多すぎると忙しいので、自分なりに線引きをした結果だった気もする。

そんなわけで、界隈のドラマのテンションを全然知らなかった

TVerか何かでタイトルを見かけて、ああそう言えば過去に友人が良かったと言っていたな、今ちょうど暇だし観てみようかなくらいの軽率さで観始めた。

「ああBL系か、深夜やもんな」くらいの浅い感想と共にだらだら観だしたくせに、1話を観終わった勢いそのままで、シーズン1を完走することとなる。あな恐ろしや!

これが私のエターナルへの入り口であった。

主要キャラクターとあらすじ

何がそんなに自分に刺さったのか。
それを語るために、まずはキャラクターとあらすじを確認してみたいと思う。

公式サイトはこちら

・主要キャラクター

平良一成(ひら かずなり)
演:萩原利久
「吃音症」をもっており、人前で話すことが苦手。いつも”ぼっち”で、クラスのカーストでは最底辺。
そんな日々に痛みを感じているわけではないが、自分の人生に対する諦めが強い、趣味はカメラ。

公式サイトより

清居奏(きよい そう)
演:八木勇征
学校内のカーストではトップにいるが、クールで人に流されず、周囲をよく観察している。
独特の雰囲気とカリスマ性を持つ。平良からは「キング」として崇拝されているが、「キモイ」と思っている。

公式サイトより

上記の二人をメインキャラとして、話しは進む。
原作は凪良ゆうさんの、同タイトル「美しい彼」である。

・あらすじ

プロローグは、吃音持ちゆえ(もちろん本人の性質もあるだろうが)気弱で卑屈の塊のような平良の視点から語られる。
彼が、絶対的神のように清居について語るモノローグにガンガン背を押されながら、我々は映像を見てその美しさを視覚的にも知ることとなる。

タイトルにある、「美しい彼」とはすなわち清居のことだ。

狂気的な好意が相互に与える変化、その変化に併せて生まれる勘違いやすれ違いを乗り越え、関係が進展するまでがシーズン1で描かれている。

シーズン1は全6話。そのうちの4話分はほぼ平良視点、1話分が清居視点、ラスト1話が入り混じるような描かれ方をしていて、二人の考え方の違いなどが丁寧に読み取れる。モノローグが非常に多い作品になっている。

シーズン2は全4話。シーズン1同様、モノローグはやはり多い。
同棲を始めた2人だが、恋人との社会的立場の差に悩む平良と、普通の恋愛がしたい清居とですれ違いが生まれる。周囲のサポートや勃発する事件を経て、平良が絶対神清居から、恋人としての清居に向き合い始めたところまでが描かれている。

…そんなん、もう続きが気になりますやん!こっからどうなるんよ!の先にあったのが、劇場版というわけだ。

キャラクターの妙と神キャスティング

平良からの、狂気的な好意に清居が振り回されていくことで、だんだん清居も平良のことが気になりだす、というわりと王道な展開ではあった。

ただ、好意の矢印の大きさや方向性が特殊。

平良→清居の気持ちは、もう本当に宗教的な感情がある。清居の存在を王、何なら神として、言うことは絶対、触れるなんてとんでもない。近くにいられたらそれだけで…いやでも…みたいな、もどかしさをだんだんはらんでいくのが良かった。

一方で、清居→平良の気持ちはごく普通な恋愛感情と言えるもの。好きだから付き合う、ただそれだけのものなのに、平良がこっちを崇め奉ってくるもんだからそうもいかない。

んもぉー!の連続。そんなキャラクターと相互に影響する感じが、繊細な描かれ方をしていて良かった。

併せて重要なのがキャスティング。

先述したが、タイトルの「美しい彼」は清居のこと、つまり清居は美しくてナンボなわけだが、まーーーーー美しい。

私はこの作品で八木勇征さんを初めて知ったわけだが、まーーーーーー美しい!(大事なことなので2度言う)


こんな可憐な見た目で、EXILE系(ムキムキ日焼けのお兄さんイメージが強い)の人と最近知って変な声が出た。役作りでかなり努力されたんだろうなあ…!

と思ったら、しっかりムキムキ系の方でギャップぅーーー!と悶えた。
何や!そのけしからん腹筋は!!

からの、平良の独特な湿っぽさ、卑屈さ、そこに隠された頑固さ…なかなかややこしい役どころを、キャリアと実力で演じ切ったのが萩原利久さん。
さすがである。モノローグの語りの上手さも、とても良かった。

清居への想いの強さは、もう特別も特別。
何なら異常の域ではあるが、清居に「キモイ」「ウザイ」と何度言われてもめげないキャラを、変質者一歩手前のギリギリラインまで攻めて演じられるのは、彼しかいなかったと思う。

この二人でなければ、「美しい彼」は完成しなかっただろうし、ここまでの人気にもならなかったのではないだろうかとすら思う。
平良と清居の、解像度が高すぎた。大絶賛である。

キャスティングした人は、本当にすごい!そしてそのキャスティングを活かしきった、監督をはじめとするスタッフさんが素晴らしい!

監督は酒井麻衣さん、脚本は坪田文さん。
いずれも女性で、作品を振り返るとそこにも少し納得。繊細さというか目のつけどころがさすがと感じた。

いいなあと思ったシーン

好きなシーンなぞ、挙げたら止まらないくらいいろいろあるのだけど、私がこの作品を観て一番「ああいいな」と思ったことは、平良と清居の関係をバカにする存在が一人もいなかったところだ。

高校編の友人たちは、二人の関係の変化に違和感を抱かなかったのかな…なんて思いもした。
ただ、そこは清居の「絶対的キング感」が「まさかそんなわけないか!」と思わせるに値するものだったのだろうと納得できた。

清居なんて女の子に絶対絡まれてたと思うけど、軽々とあしらって、もし嫌な感じの噂がたったとしても鼻で笑って見せるような、そんなパワーがあったはずだと想像できた。

だって、清居だもん(?)


大学編は、すでに周囲に同性愛を認める人が「普通」にいた。

恋愛と性別の繋がりが、特筆事項ではなくなっている世界。なるほど、何というか…現代的だ。
現実もそうあってほしい。こんな世の中が良い。

そんな中、夢を叶えて芸能界に進んだ清居が、共演者の女優さんとプライベートな話をするシーンがあった。
私は、このシーンがたまらなく好きだ。

時期は冬、バレンタイン前。撮影の合間の休憩時間を切り取ったようなタイミングのワンシーン。

安奈「清居くんチョコ好き?」
清居「ああ、嫌いじゃないけど」
安奈「多分今年大変だよ、とんでもない量届くと思う」
清居「だといいんだけどね」
安奈「彼女に言っといた方がいいよ、喧嘩になる」
清居「彼女じゃないんで。彼氏なんで」
安奈「…そうなんだ」
清居「うん、一緒に住んでる、みたいな感じだし」
安奈「いいなあ…!」
清居「いや、でも変なやつでさあ…喧嘩ばっかだし」
安奈「それでも羨ましいよ。…私もいるよ、大切な人」

ドラマ「美しい彼」シーズン2の4話より

この、仁村紗和さんが演じる安奈の「いいなあ…!」の表情が、本当に純粋な「いいなあ…!」を見事に体現していて、たまらない気持ちになった。

偏見なんて微塵もない、素直な羨望。安奈さん、私は大好きだ。

変に深掘りしたり、当たり前だけど茶化したりしない。
もちろん応じる清居も、何一つコソコソしない。堂々と「彼氏です」と言う。

もう、そういう世の中になっている。
性別に囚われない考え方はもはや当たり前で、別に違和感を感じるところは一つもない。

そういう空気感が、この作品には終始漂っていて、私は素直に平良と清居の関係に集中できた。
そこが、本当に良かった。

今日び、よく話題に上がるLGBTQそれぞれの当事者が、もしこれを観たとして、どう感じるかは…ごめんなさい。私にはわからない。

でも、ただただ真っ直ぐに平良と清居の物語を見つめられて、私はいたく感動したし、素直に良い作品だなと感じた。

何ならそんな深刻に観るものではないのかもしれない。ドラマだし。ジャンル的なものだし。「そういうもの」として観るべきなのかも知れない。

ただ、何というか…。

個人的に、性別と恋愛云々の話を、一つのエンタメみたいに割り切って楽しむことはしたくなかったので、どうしてもこういう感想を無視はしたくなかった。

だからこそ、初見時の「BL系か」なんて浅い感想で終わることができなかったのだ。

音楽も良い…!

どこまでも語ることは尽きない。
次はドラマに使われていた楽曲について。

シーズン1
OPがもさを。さんの「カラメル」
ポップな曲調で、平良から清居への視点を歌ったもの。

EDはロスさんの「Follow」
ダークめな曲調で、清居から平良への視点を歌ったもの。

シーズン2
OPがロスさんの「Bitter」
シーズン1と逆転して、ダークな平良→清居視点の曲。

EDがもさを。さんの「キンモクセイ」
こちらもシーズン1の逆転、ポップな清居→平良視点の曲。

この、シーズン1・2で曲調と楽曲制作者を逆転させて、相互の視点の楽曲にしたのは本当に天才かと思った。音楽のちからは偉大だ。

どちらの視点にも、真っ直ぐさとダークさが孕まれていることを象徴しているかのような。
往々にして、こういうのって表裏一体だよねえ、と。

そして何より、曲を聴くだけでシーズン1とシーズン2における、それぞれ二人の関係の変化が見える。

シーズン2の、清居の健気さがたまらないし、ブレない平良の無意識な傲慢さがしっかり現れていて良い…!

ここまでキャラクターの心情やストーリーを楽曲で表現できるものなのかと、心底驚いた!もさを。さんも、ロスさんもすごい。

特に好きなのは、シーズン1のドラマOP。
清居が平良を、指先一つで動かすところが「まさに!」という感じがして良かった。


そして劇場版へ

そういった背景諸々を経て、シーズン1・2と完走した後、これは劇場版も観たい!となった。
ドラマを全て観終わった、その場(なお深夜)で、すぐにまだ上映している映画館を検索し、最速で観られる時間を確認して、タイミングがうまく合ったので翌日映画館に走った。

この!お家大好きで!出不精の!私が!

劇場版は、ドラマの内容の延長上にあり、二人がようやく同じ方向に歩き始めたあたりから展開していく。もう同じ方向…見てるよね?大丈夫だよね?という危うさを含みつつ。

映像美もあるし、ドラマシリーズの「それはそうきたか!」が散りばめられていて、真剣に見入ってしまった。
隣の席のレディが途中から泣き出してしまって、おおぅ…!ともなった。ただ、泣いてしまう気持ちはよくわかった。

それくらい、何もかもが「美しかった」。

ドラマ版で、良い演技をしていた安奈さんもしっかりストーリーに絡んできて、その点でもたまらない気持ちになった。

最終的に観終わって映画館を出るまでに、どうしても公式にお金を落としたくて、取り急ぎパンフレットを買った。

映画館でパンフレットを買うなんて、私のこれまでの人生で二度あったかどうかというくらい珍しいことだ。
何なら映画館に行くこと自体が、もう珍しいことではあったのだけれど。

結果として、私は「観て良かった」と心の底から思った。上映期間中に、間に合ってよかった。

最後まで平良は平良だし、清居は清居だけど、この先もずっと「ひらきよ」としてどこかで生き続けてほしいと切に思う。

演じ切った、萩原利久さんも八木勇征さんも、本当に素晴らしい。いい仕事をした、本当に素敵な演者さんたちだ。

二人とも夏のドラマに出るみたいなので、そこを観るのも楽しみになった。

終わりに

映画を見に行った感想を書こうとしていたのに、気がつくとただただ「美しい彼」について語った記事になってしまった!

慌てて、タイトルを【感想】劇場版 美しい彼〜eternal〜を見て、から今のものにとりあえず書き換える。

ここまでで、すでにこの記事は5000字をゆうに超えているという状態。この熱がいかほどか、理解してもらえるだろうか?笑

作品そのものの素晴らしさもあるし、なるほど、キャラクターの描き方はこんな角度でみるのもありなのか、と勉強にもなった。

私はこれまで、性別にこだわらないショートショートもいくつか書いてきたけれど、キャラクターの掘り下げ方を模索していたのでいい刺激をもらえたようにも思う!

はあ、いい作品だった…!劇場版に間に合って良かった…!

というわけで、今の私の悩みは、円盤を買うか、ビジュアル本を買うかというところである。何周も遅れに遅れたうつかれロスは、まだまだ私を離さないだろうなあ。

まだ観たことがなくて興味を持った方がいたら、「ぜひ!」と声を大にしてオススメしたい作品の一つになった。

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