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「馬鹿!もう知らない!」と叫んで、私はコーラを浴びる。

高校時代、人に直接指摘されるほど、人に頼れない性格だった。

「人に頼れない」ということは、人を信頼していないということだ。
高校時代の私は、まさしく、それだった。
そして、頼れなくわりに、自分で処理するのは下手くそだった。
嗚呼、どうしようどうしようと、一人で焦る中、それでも、現状は改善されない。

そのときの私を解決してくれたのは、人に頼ることではなく、
一度、その状況から逃げることだった。

高校時代、演劇部に入っていた私は、高校二年の初夏、先輩の引退と共に、部長になった。
まとめなくては、そう思う中で、人間関係に靄が掛かり始めた。

こそこそと、しかし、分かるようにある人を馬鹿にする。
私はそれをいじめと認識した。

そう思った時点で、顧問に相談すればよかった。
なのに、私は、自分のせいでこうなってしまったんだから、自分が解決しなくてはと変に焦り、相談するという選択をしなかった。

筋トレでペアを組めないその子と自分からペアを組むようになった。
学校から駅までの帰り道、一緒に帰るようになった。
「私が悪いんです」と涙ぐむその子に、「そんなことない」と返し続けた。

支えなきゃ。私がしてあげられるのは、これしかない。

そう思いながら、その生活を続けていると、次第に自分もいっぱいいっぱいになっていた。

いつも通り過ごしていると、担任の先生に「放課後職員室に来い」と呼び出された。

何かしてしまったか?と不安になりながら、放課後、心臓をバクバクさせて、職員室のドアを開いた。
担任は笑顔で招いて、持ってきてくれた椅子に私を座らせて向かい合った。

「最近、どうだ? 部活とか」

「そうですね……」と笑いながら返したが、心臓が口から出そうなほど脈打った。
このまま「順調ですよ」と言ってしまおうかと思った。
しかし、口から出たのは、逆だった。

「最近、部員同士が上手くやれてなくて」

具体的には話さなかったが、本当のことを伝えた。
先生は「そうか」と何度も頷いた。

「屈橋(実際は本名)」

先生は、優しい顔をしていた。

「偶には、逃げてしまうのはどうだ?」

衝撃だった。

「みんなにな、『馬鹿! もう知らない!』って言って、部活急に飛び出して、コーラとか炭酸ジュースをガーッて飲むんだよ。そんな日があってもいいんじゃないの?」

泣いてしまいそうだった。

目頭と鼻先がじんわりと熱くなるのを感じながら「そうですね」と笑った。

実際には、そんなことできる勇気もなく、現状は変わらず私の目の前にあった。

だが、心が軽くなった。

人に頼ることが下手くそな私にとって、そのとき一番の対処方法だった。

向き合って逃げて向き合って逃げて。

気付いたら、いじめはなくなっていた。

自分が引退して、久しぶりに通し稽古を見に行ったとき、
その子は、舞台で堂々と役を演じていた。

逃げたいけど、逃げてはならない状況はある。
そんなときほど、辛くなる。

今でも、そういうときは、深呼吸をして心の中で目を瞑る。
そうして、「馬鹿! もう知らない!」と言って、逃げ出して、逃げた先にある自販機でコーラを買い、一気にグビッと浴びてやるのだ。

なんだスッキリする。
リセットされるのだ。

解決できない自分を責めない。
目の前のことに舌を出して逃げ出す。

偶にはそうしてもいいのだ。

偶には。

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