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感情を残していたいから文字を連ねる【1言目】

先日、ラジオ番組の収録でお邪魔した古民家カフェで初対面のオーナーに向かって泣いてしまった。

悲しいでも嬉しいでもない。心の奥にストンと落ちていくような安心にも似た感覚で、それでいてどうにも言葉にするにはどれを選んでもなかなか納得できないでいた。

最近、そのときの涙が何の涙だったのか分かり始めたので、今日はあのときの涙を記録しようと思う。

オーナーからの問い

ラジオ収録も終わって、オーナーのご厚意で、パスタを二種類いただいていたときだった。一緒にやっているNちゃんと目をキラキラさせて口から零れ落ちないギリギリのニヤけ顔でパスタを口いっぱいに頬張っていた。

そろそろ食べ終わるころ、心を見透かすような、少し何かを企んでいるような顔でオーナーは「生きるってどういうこと?」と訊いてきた。

首を捻りながら、自分でもまとまっていないなあって思うくらいの言葉の羅列を口から吐き出す。もう今では自分が何を言ったのか覚えていない。そのくらい自分の中で「生きる」ことの言語化が納得いっていない状態だった。

覚えているのは、「私は苦しんでも本望だと思って生きていたい」と言ったこと。オーナーは「なぜ苦しむんだ?」と返した。そう考えるようになったきっかけは自分話が長くなるから話さなかったけど、「その感情を書いていたいから」と伝えた。

そのあともいろいろと言葉を並べたが、自分の中ではモヤモヤしていて答えは出せなかった。しかし、オーナーは「もう貴女は答えが出ているはずだ」と言った。そしてもう一度「生きるってなんだと思う?」と訊いてきた。

「……私の中で、生きるとは書くこと」と答えた。その答えにお互い納得していなかった。
オーナーはその答えに首を横に振って「貴女にとって生きるって残したいってことなんじゃないの?」と言った。

あ、駄目だ。
これ、泣くやつだ。

言われた瞬間、一気に熱くなる目頭から必死で涙を零すなと心が命令する。

残していたい。

直感的に「これだ」と思った。

それからオーナーは「貴女は出来事よりも心を見ているんだと思う」と言った。
全てが繋がるような感覚で、私は今何か言葉を発したら一緒に涙が出るからとただ作り笑いで誤魔化して頷いた。

綺麗な感情も汚い感情も残したい

人の出来事よりも感情に興味がある。
喜び、楽しさ、驚きとかのポジティブな感情よりも、怒り、悲しみ、焦燥、不安、嫉妬、劣等感とかネガティブな感情の方を強く意識する。
それを記したい。

だって、大きな集団の中で生活している私たちは、その場では周りと居心地よい環境を保とうとポジティブな感情か無の感情で調和を取りがちで、ネガティブな感情は内に押し殺しているから。

ネガティブな感情がゼロであることなんてないのに、それを滲みださずに表面では幸福感や充足感を鎧のように着ている。

次第に、ネガティブな感情は悪いものだと思って押し殺して、自分にまで嘘を吐きはじめる。
ネガティブな自分を見た途端、苦しくなって見ていられなくなる。
ずっと共存しないといけないネガティブな感情を見て見ぬふりなんてできない。
ネガティブな感情は弱さであり強さでもあるんじゃないか。

それなら愛してあげたい。

口に出して、周りが疲弊する恐怖があるなら、書けばいい。読みたい人が読む環境にすればいい。
ネガティブな感情は大きくて強くて、人を突き刺す力があるけれど、同時にその感情を表現して救われる人がいることも知っている。

大切な過程だと思うから、陽だけの感情だけを綴るんじゃなくて、陰の感情も綴りたい。

「私」という存在を残したい

一卵性三つ子として母が妊娠して言われたのは「死産になるか、生まれてこれても一年生きられないかもしれない」ということだった。
それを知ったのは、高校生くらいだったと思う。
みんなに産むことを反対されていたとも聞いた。

詳しくはこちらのマガジンへ。

自分の生まれる前の状態を聞いたからこそ、残したいと思うようになったんだと思う。

本当は、生きていなかったかもしれないから。
だからこそ、自分が奇跡的に産まれてきて、奇跡的に死ななくて、大きな病もなく成長した生きた証を残したい。
かつて反対された命が愛されて育って死ぬまでの過程を残したい。

それから、一卵性三つ子という珍しい環境もあって、個人ではなく3人で一つと捉えられていることが多かったからこそ、「私」という個人を認めてもらいたかった。
そのために小さいながらに考えて、勉強、運動、芸術いろいろ手を出せるものには手を出して、気づいたら握っていたのが「書く」ことだった。

私は、私を表現するのに「書く」ことにいつの間にかしがみついていて、それが自分にとっては心の拠り所になっていて、自分を救うものになっていた。

自分にとって「書く」という行為が、「食べなくては死ぬ」と同じような位置づけになってきているからこそ、自分の存在もこれから自分が触れる人も場所も想いも全部書きたい。

書いて残したい。

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