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【本から学ぶ心理学】「注文の多い料理店」と搾取する職場

「フットインザドアテクニック」と『注文の多い料理店』

「フットインザドアテクニック」とは、家を訪問するセールスマンがドアを開けさせるために、最初はドアの隙間から足を入れて閉じないようにし、
そこから少しずつドアを開かせていくような小さな要求を重ねていくことで、最終的に相手の行動を変容させる心理テクニックです。

『注文の多い料理店』に出てくる2人の紳士も、店に入っていきなり全ての注文を聞いていたら、気味悪がって逃げていたかもしれません。

山奥で西洋料理店を見つけ中に入った2人は「コートを脱いでください」、「クリームを顔に塗ってください」と、少しずつおかしな要求をされていきます。

紳士たちは変な要求をされても、室内で上着を脱ぐのは当然、と納得する理由を自分たちで探して指示の通りに動きます。

そして、彼らは最後の部屋で、「塩を身体に塗り込んで欲しい」との注意書きを読んで、はじめてその料理店が、来た客を食べるために注文をしていたことに気づきます。

感想

この物語に出てくる山猫のように、少しずつ要求をしていって最後に相手を食べてしまおう、というキャラクターについて、宮沢賢治が何を思い描いていたかは、様々な見方があると思います。

ブラックな職場には、料理店の山猫のように巧妙で、知らず知らずのうちに他者を巻き込んで、使い潰そうとする人がいる、と過去に私が所属していたIT系の職場を振り返って感じました。

巧妙に、あたかも、それを自分がしないと、いけないかのように責任を感じさせて、気がついた時には、自分の生活が全て搾取されている・・・。
過酷な職場ほど、注文の多い料理店が立ち現れるのかもしれません。

この物語のラストも印象的でした。

紳士たちが連れていた白い大きな犬が飛び込んできて、山猫たちを撃退すると、たちまち料理店は消失して、あたりは今まで脱いだコートなどが散らばった、ただの森の中に戻ります。


私の勤めていたIT企業は、リーマンショックの煽りを受けて倒産しました。

それまで、残業続きで何日家に帰れていないかを自慢し合う同僚たちの努力も、社内での出世競争や派閥争いも、会社が潰れてしまえば何も残らない。まるで、料理店が消えた後の、森のように・・・。

つまり、私の体験に照らし合わせると、注文の多い料理店はブラック企業で、紳士たちはそこに取り込まれてしまった社員。山猫は、労働者を搾取しようとする経営者・・・。
と、いう見方が、個人的にしっくりきます。

物語終盤に紳士たちを助けた白い犬は紳士たちが連れていましたが、物語の冒頭で、気を失って倒れてしまいます。これは、山猫の呪いだったかもしれない、という解釈も見られます。

犬たちはその後、呪いを振り切って山猫と戦い、紳士たちを救いました。
これは、料理店というブラック企業に入る前に、眠らされてしまった、自分自身の「No」という気持ちを表しているように感じます。

社会に適応するために、ある程度は飼い慣らしている、自分自身の権利を主張したり、そのために他者と戦ったりする、人が生まれ持っている、とても強い気持ち。

白い犬は、それらの象徴に思えます。

だから、フットインザドアテクニックをかけられて、逃げ出せない、追い込まれた状況になった時には、自分の心の中の「白い犬」の声に、耳を傾けることが大切です。

だけど、この部分は、山猫と激しい戦いを繰り広げた猟犬のように、人間の根源的なエネルギーを持つ部分でもあるため、程よく手綱は握っておかないと、なかなか付き合いが難しい部分かもしれません。

多面的な自分の心の声を聞いてみたい時は、カウンセリングがお役に立てるかと思います。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
メザニンカウンセラーSATOMI
編集:メザニン広報室

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